第十八章 ブラフマー
「ところで、あなたは、なぜ未来の事が知りたいのかしら?」
リズは机の上で手を組んで裕二に尋ねた。
「夢を見たんだよ。それも同じ夢を何回も繰り返しね」
「夢って? どんな夢かしら?」
「それが、杖をついた爺さんが出て来る夢なんだ」
「爺さん?」
「ああ、その爺さんは白髪の老人で、雲の上から白い龍に乗って降りて来るんだ。そして、俺にいつもこう告げるんだ。『新しい時代がやって来る。六人の子供達を探しなさい。その子供達が成人に近づく頃、世界は変わるだろう』ってね」
「変わった夢ね、その老人は何者なの?」
リズが興味深げに裕二の顔を覗き込む。
「何者か分からないんだが、夢の中で『あんたは誰なんだい?』って尋ねると、その爺さんは『私はブラフマーだ』って答えるんだ」
「ブラフマーですって!」
リズが両手を広げて目を見開く。
「リズはブラフマーを知っているのかい?」
「ブラフマーはヒンドゥー教の神様よ、仏教名は梵天で宇宙の創造を司る神様なのよ」
「何だって! 宇宙創造の神様!?」
裕二はリズの返答を聞いて驚いた。
「奉生君、三重円を表示して頂だい、彼のトランジットを追いかけるわよ」
リズがノートPCの向きを元に戻して奉生の前に置く。
「リズ、トランジットの進行速度は十日でいいかい?」
「そうね、それ位でいいわ。それからサターンリターンでトランジットが一旦停止する設定にして頂だい。オーブの設定は三度でお願い」
リズが奉生に指示を出す。
※サターンリターンとは、生まれた時の土星の位置に、トランジットの土星が再び戻ってくる時期のこと。土星の公転周期は約二九・五年なので、一回目は二十八~三十歳、二回目は五十六~六十歳の間に起きる。人生の目標を再設定する重要な時期で、この時期は試練を経験する事が多い。結婚、離婚、出産、起業、退職、転職、相続など、色々なイベントが発生する。人生のターニングポイントのひとつである。
「Yes,ma’am」
奉生がリズに敬礼をして、ノートPCのキーボードをカチャカチャと叩き始める。
「リズ、準備完了」
「OK! それじゃあ、まず、あなたの過去を観るわね。奉生君、ネイタルチャートを進行させて頂だい」
「Yes,ma’am」
リズが振り向いて合図を出すと、奉生はリズにまた敬礼をして、キーボードの改行キーを叩いた。
リズが目を細めてホロスコープに映し出されたアスペクトラインを見つめる。
ノートPCの画面には三重円のホロスコープが表示されていて、プラネット(星)を示す特殊な記号が左回りにゆっくりと回転している。時間の経過と共に、記号と記号を結ぶカラフルな実線や点線が縦横斜めに発生して、ホロスコープに幾何学的な模様が描かれては消えて行く。
「あの……」
「Just a minute」
裕二がリズに話し掛けると、彼女は右手を上げてアスペクトラインを見つめ続けた。
――しばらくの間、沈黙が続く。
約三分後、左回りにゆっくりと回転していたプラネットの記号がピタリと止まった。
「OK、あなたの過去は分かったわ」
リズはそう言うと、水晶玉を持ち上げて自分の手元に置いた。




