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第十五章 輝月

「妄想癖ねぇ……もしかして、君達、未来とか過去とか見えるんじゃないのか」

 裕二が手を止めて小さな声で呟く。

「えっ」

「ふふっ、冗談さ、まさかね……」

 優海と奉生が裕二の言葉を聞いて一瞬固まると、裕二は少し微笑んで、また刺身を切り始めた。

「ちょっと、ママ、カウンター席に座っているあの若い男は占い師じゃないの?」

 フロアー席の若いホステスがママの肩を叩くと、ママはカウンター席の方に振り向いた。

「あら、ほんと、本町通りの占い師だわ」

「あの占い師、よく当たるみたいね」

「ええ、凄く当たるわよ、私も何度か占ってもらったことがあるわ。彼、ファッション雑誌エイティーンの占い相談室に記事を書いている有名占い師みたいよ」

「えっ、そうなの? そんな有名占い師が、なぜ、こんな片田舎の街にいるわけ?」

「さあ、理由は知らないわ」

「隣の席にいる綺麗な娘は彼女かしら?」

「本当ね、綺麗な娘だわ、うちの店にスカウトしようかしら?」

 ホステス達はフロアー席で奉生と優海の噂話を始めた。

「はい、お姉さん、生一丁」

 輝月が生ビールのジョッキを優海に差し出す。

「あっ、ありがとう」

「これは、龍星さんのビール」

 優海がジョッキを受け取ると、輝月は優海に顔を近づけて別のジョッキを奉生に渡した。

(あら、いい男ね。可愛い顔してるじゃん)

 優海は輝月の横顔を見つめた。すると、優海の頭の中に映像が浮かんだ。


 海。港。広域な湾岸線。

 大型タンカーとイージス艦。

 液化天然ガスの巨大なタンク。

 大規模な石油備蓄基地。

 火力発電施設群。送電線網。

 高層ビルが無数に立ち並ぶ大都市。

 広々とした高速道路とインターチェンジ。

 巨大な空港ターミナル。

 高層マンションから市街の風景を眺める青年。

 駅前の小さな時計台。

 絵の具とスケッチブック。

 カンバスに描かれた美しい油絵。


「えっ!」

(何なのこれ!)

 優海が思わず声を上げる。 

「どうしました?」

「えっ、いえ、何でもないわ」

 輝月が彼女の声に驚いて振り向くと、優海は慌てて輝月の視線を一瞬だけ逸らした。

「……?」

「ねぇ、あなた、何処から来たの?」

 優海が視線を戻して輝月に尋ねる。

「僕は新潟ですけど……」

「新潟?」

(嘘、今の映像はもっと大都市だったわ。外国じゃないのかしら)

 優海が眉をひそめて怪訝そうに輝月の顔を見る。

「あっ、優海ちゃん、輝月君に惚れたね」

 裕二がニヤリとして優海に話し掛ける。

「えっ?」

「この店に来る若い女性達は、みんな輝月君に惚れるんだよな」

「確かに“いい男”ですけどね……」

 優海は輝月の顔を見ながら裕二に答えた。

「お姉さんも“いい女”ですよ」

 輝月は右目を軽く閉じると、微笑んでキッチンの奥に戻っていった。

(笑窪が可愛い)(可愛い)(可愛い)(可愛い唇)(キスしたい)(キス)(キス)(胸が厚い)(腕の筋肉)(筋肉)(筋肉)(抱かれたい)(あの子なら、抱かれてもいい)

 優海もホステスと同様に輝月のTシャツを脱がせて、自分が輝月に抱かれている姿を想像した。

「優海ちゃん」

「えっ?」

「妄想してるだろ」

 奉生が優海の耳元に手を当てて話し掛ける。

「もう、嫌ね、エッチなんだから」

 優海は振り向くと、奉生の顔を見て苦笑いした。

 奉生に自分の心を見透かされた様で恥ずかしかったからだ。

「で、リズ・グリーンってどんな人なの?」

 優海が自分のジョッキを奉生のジョッキにカチンと軽く合わせて奉生に尋ねる。

「リズは預言者さ」

「預言者?」

「彼女は“二十世紀最後の偉大なる預言者”と呼ばれた人だ」

 奉生はジョッキのビールをグイッと一杯飲んで、優海にそう答えた。

「はい、突き出し」

 裕二が料理の突き出しを奉生に差し出す。

「あっ、ありがとう」

 奉生は裕二から料理の突き出しを三皿受け取ると、一皿を優海に渡して、残りの二皿を龍星と自分の席に置いた。

「それで、二人はどうして、その“二十世紀最後の偉大なる預言者”と出会ったの?」

「それは……」

 奉生は優海にリズ・グリーンの事を話し始めた。

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