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第十四章 リズ・グリーン

「お姉さん! ビール頂だい!」

「はーい」

 フロアー席の客が手を上げて美姫を呼ぶと、美姫は振り向いて客に元気よく答えた。

「優海さん、ゆっくりしていってね」

 美姫が優海に声を掛けてカウンター席を離れる。

「美姫ちゃん、忙しそうね」

「まあ、忙しいのは、あと一時間位だけどな」

 優海が美姫の後ろ姿を眺めると、裕二は刺身を切りながら優海に話し掛けた。

「えっ、なぜですか?」

「ホステス達の出勤時間だからさ」

「ああ、そう言うことか」

「この店の営業時間は、午後六時から午前二時までなんだけど、午後八時位から午前〇時頃までの間はホステス達がみんな仕事に出ているから店はガラガラなのさ、店が空いたら、みんなでフロアー席に座るといいよ」

「確かに、ホステスだらけね……」

 優海は振り向いてフロアー席を見回した。

「飲み物は?」

 裕二が龍星と優海に飲み物を尋ねる。

「俺は生ビール」

「私も生ビール」

 二人は前を向いて裕二に答えた。

「優海ちゃんは、お酒飲めるのかい?」

「飲めるわよ、大学のコンパで鍛えているから」

 優海が右手の親指を立てて右目を軽く閉じる。

「ははは、それなら大丈夫だな」

 裕二は優海のおどけた仕草を見て楽しそうに笑った。

「裕二さんは、映画俳優だったのに、どうしてこんな片田舎の街で居酒屋をやっているの?」

(映画俳優? 俺はこの娘に『映画俳優だった』って言ったかな?)

 優海が裕二に尋ねると、裕二は眉間にしわを寄せてまた首を傾げた。

「まあ、それは、色々とあってね」

「色々って?」

「その話しをすると少し長くなるんだが……短く言うと、ある占い師と出会ったからだ」

「占い師? 奉生君のこと?」

「いや、ちがう、彼の師匠だよ」

「奉生君の師匠?」

 優海が振り向いて奉生の横顔をチラッと見る。

「リズ・グリーン先生のことさ」

「リズ・グリーン? 外人の占い師なの?」

「そうだよ、僕の師匠はシンガポール人なんだ」

「へぇー、そうなの」

 優海が興味津々な顔つきで奉生を見つめる。

「大地士長!」

 突然、誰かが、フロアー席の奥から大地龍星を呼んだ。

「あっ、大島二尉だ!」

 龍星は体を後ろに反らしてフロアー席を覗き込むと、席を立ってフロアー席に向かった。

 奉生と優海が龍星の後ろ姿を目で追いかける。

「誰かしら?」

「龍星君の上官だよ」

 裕二が優海に答える。

「上官?」

「あの客は自衛官の大島二尉だ。この店の常連客だよ」

「えっ、龍星君は自衛官なの?」

「そうだよ、知らなかったのかい?」

「ええ、彼は『自分は公務員だ』って言っていたから、市役所にでも勤めているのかと思っていたわ」

(そうか、彼は自衛官なのか……だからいい体格をしているのね。不覚だったわ)

 優海が龍星の背中を見つめると、彼女の頭の中に映像が浮かんだ。


 大型トレーラー。ジープ。

 キャタピラーの付いた牽引車。

 戦車。装甲車。水陸両用の特殊走行車両。

 寂れた体育館。大きな運動施設。走る隊員達。

 大規模な演習施設。発煙。戦車の砲撃訓練。

 迷彩服。ヘルメット。暗視双眼鏡。

 ヘリコプターからロープで舞い降りる男達。

 実弾を発射しながら前進する機甲部隊と空挺団。


(これは合同演習かしら……随分と実戦的な訓練ね)

 優海が龍星の背中を見つめながら目を細める。

「君達は友人なのに、お互いの事を知らないのかい?」

「ええ、裕二さん、実はそうなんですよ。僕達が出会ったのは最近ですからね」

「それにしては、みんな兄弟の様に仲が良いじゃないか」

 裕二は奉生と優海の顔を交互に眺めた。

「あれっ、優海ちゃん?」

「えっ?」

 裕二が優海の目の前で小さく手を振ると、優海は裕二の行為に驚いて小さく声を上げた。

「怖い顔をしているよ」

「あっ、そうですか……すみません」

「ああ、裕二さん、この娘は、ちょっと妄想癖があるんですよ」

 奉生は優海の様子に気付いて、二人の会話に割り込んだ。

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