首都キーウ近辺、イルピンでの戦い
ルシャ連邦軍は、遂に犠牲を出しながらも、ユクルース首都キーウ方面へと、総攻撃を仕掛けた。
その日、平和な風景が一変して、灰煙と鉄やコンクリートが焼ける匂いが、街中に立ち込めた。
ルシャ連邦空挺軍と機甲部隊の進軍は、猛烈であり、村々は焼かれ、田畑は車輪に踏み荒らされた。
キーウ近辺、イルピンに住む人々は怯え、逃げ惑う暇すらなかった。
ここから北にある町ホストーメリ空港を、ルシャ軍部隊が占領したからだ。
住民たちが逃げる前に、ハルキウを目指す空挺軍部隊は、街中を進撃してきた。
そのため、ユクルース軍部隊は、北部から進軍してくるルシャ軍ボルグ部隊を攻撃した。
「降車しろっ! 敵の側面に回り込むっ!」
「射撃援護するから、早く行ってっ!」
コザックホース2の中で、ルキヤンはカーキ色に塗装された、フリッツ・ヘルメットを被っている。
オレーナも、マルチカム迷彩カバーの着いた物を装着しており、ポニーテールを潰している。
そして、二人は、ホルスターと拳銃用弾帯つきの茶色い軽量防弾プレートを装備している。
他は、両脇にも、ライフル用の弾帯を、左右二個ずつ装着している。
イルピニ川を越えた場所にある、大きな円形交差点まで来ると、機動部隊は止まる。
ここで、車内に乗せている歩兵部隊を、降車・展開させようと言うワケだ。
「展開完了っ!」
もちろん、全車両からではなく、後続のコザックホースは予備人員を載せている。
「全員、降りたぞっ! ルキヤン、オレーナ、移動してくれ」
「分かった、行くぞ」
「援護するわっ! 敵ボルグを仕留めてねっ!」
茶ヒゲの隊長が、右側ドアを閉めながら告げると、ルキヤンとオレーナ達は、大声で返事する。
歩兵部隊は、フセニツィガ3部隊とともに、右側の市街地へと向かう。
『コザックホース部隊へっ! 我々は、このまま直進する』
「僕らも行こうっ! オレーナ」
「気をつけて、敵は絶対に奇襲してくるから」
無線で、部隊長から連絡が入ると、コザックホース2部隊は、素早く動き出す。
ルキヤンは、コザックホース2の手足を折り畳み、車輪を回転させながら走らせる。
これは、市街地などの整地された場所では、射手による射撃を安定させるために行われる。
しかし、田畑や山岳地帯の不整地では、四つ足を使って、動物型ボルグは移動する。
「ルキヤン、正面の建物に敵兵士が見えるわっ! 機関銃手よっ! まだ、こちらには攻撃が届いてないわね? 威嚇射撃の積もりかしら?」
「だろうな、しかし、RPGー7が飛んでくる可能性がある? 注意してくれ」
両脇を森に囲まれた、長い道路の先では、オレンジ色に塗装された、アパートがある。
そこからは、機関銃や自動小銃による射撃が始まり、窓から次々と弾丸が飛んでくる。
もちろん、これらは軽装甲機動車であるコザックホース2を、破壊する事はできない。
だが、注意を惹き付けて、対戦車武器や榴弾砲による伏兵攻撃が行われる可能性がある。
オレーナの青目は、照準を覗き込み、市街地を走る敵兵士を、機関砲で撃ち続ける。
ルキヤンも、目を険しくさせながら、敵が立て籠る建物を睨み、額から冷や汗を滲ませた。
「このまま車輪走行させるっ! オレーナ、頼んだぞっ! 民兵や他の部隊のためにも、グズグズしている暇は無いからなっ!」
「あっ! 貴方の言った通り、あのビルから、RPGー7が飛んでくるわっ! 気をつけてねっ!」
ルキヤンは、コザックホース2の速度を上げると、オレーナも機銃掃射を続ける。
敵歩兵が、アパートから対戦車武器RPG-7を放ち、弾頭が飛んでくる。
当然ながら、命中率が低いため、それが当たる事は無いが、道路や木々を吹き飛ばす。
そんな中、部隊は市内に向けて、臆する事なく、ひたすら前進していく。
「アパートから撃たれなくなったな? 沈黙…………いや、逃げ出したか? きっと、後方で再編成して、また伏撃してくるはずだ」
「気をつけないとね? 野砲や榴弾砲は無いだろうけど、対戦車兵やボルグは潜んでいるでしょうし?」
アパートの裏には、同じ建物があり、さらに左側にも平屋アパートがある。
そして、前方右側には、かなり長いアパートが道路沿いにあり、周囲は街路樹に囲まれている。
ここは、敵から見ると、奇襲には打ってつけの場所だが、攻撃が飛んでこない。
おそらく、対戦車ボルグ用の弾頭や武器が無くなったか、それとも潜伏しているだけか。
それが分からず、ルキヤンとオレーナ達は、緊張しながらも、前進していく。
「敵発見っ! 射撃開始っ! いや? アレは?」
「後列のコザックホースから歩兵を展開させろっ!」
「待て、民兵部隊だっ! 味方の旗を掲げているっ! 撃つな」
「はやく、民間人を避難させてくれっ!」
「助けが来たぞっ! 女子供から逃がせっ!」
武装した民兵を見て、部隊員は混乱に陥るが、別な隊員は慌てず、コザックホース2を停めた。
そうして、脚を折り畳みながらドアから歩兵を展開させると、また他の隊員が、アパートを眺める。
すると、ニット帽を被る民兵は、AK74を掲げながら部隊に向かって叫ぶ。
黄緑色のフードを被る民兵は、青と黄色に染められた、ユクルース国旗を両手で振るう。
「避難は、まだ無理だわっ! イルピンは解放されていないっ! そのまま地下室に避難しててっ!」
「まだまだ、砲撃は終わってない、気を抜くわけには…………」
イルピンの街は、未だ戦火に包まれており、砲撃と銃撃による音が響き渡る。
遠くに見える建物からは、黒煙が空に上がり、北部にある空港が、敵に占領されていると分かる。
ホストメリ&ブチャは、ルシャ軍のボルグ部隊や歩兵部隊が、活動しているからだ。
オレーナは、装甲ハッチを開けて、民兵部隊に、まだ出るなと大声で告げる。
対するルキヤンは、正面の街を険しい目つきで、睨むように眺める。
すると、いきなり、潜伏していたRPG部隊による、一斉砲撃が飛んできた。
『ぐわあっ!?』
『ぎゃああああ』
「敵が攻撃して来たぞ、一気に走らせるっ! オレーナ、射撃を頼むっ!」
「任せて、敵は無闇に撃ってるだけ、こちらも撃ち返せばっ!?」
イルピン北部は、街の各所で、ルシャ連邦空挺軍が、あちらこちらに展開している。
そのため、南部にも歩兵部隊が侵入しており、スナイパーや対戦車兵も多数存在する。
連中は、道路右側にある、オレンジ色の高いアパートから攻撃してきた。
それが、運悪く歩兵を下ろしたばかりのコザックホース2に当たり、大爆発を起こす。
後方で、吹き飛んだ味方を見る暇なく、ルキヤンは自身の機体を、素早く走らせた。
ハッチを閉めたオレーナは直ぐさま、機関砲を後方の敵に向けて、撃ちまくる。
「オレーナ、逃げまくるぞ、とにかく、走らせるからなっ!」
「分かってるっ! 建物の中は、歩兵部隊に任せましょうっ!」
ルキヤンは、コザックホース2を攻撃してくる建物から離れて、道路を左側に曲がる。
それまで、オレーナは射撃を続けていたが、敵の射線から離れると、引き金から指を離した。
ここには、敵が立て籠るアパートより、小さなベージュ色のアパートが隣接している。
ルキヤンとオレーナ達は、車内から飛び出て、AK74Uを抱えながら走る。
間も無く、二人が目指す建物からも、路上の味方部隊を狙って、一斉射撃が開始される。
RPG弾やグレネード弾などが飛ばされる中、もちろん、二人にも激しい銃撃が加えられた。
「走れっ! オレーナ、中に入れば、銃撃は止むっ!」
「大丈夫よっ! あんな攻撃、当たらないわっ!」
ルキヤンとオレーナ達は、走りながらベージュ色アパートの内部を目指していく。
その頭上から、空挺兵がRPKー74を連射して、めちゃくちゃに乱射する。
深緑色の迷彩服と、青と白に染められているマドロスシャツを着ている奴は、窓に引っ込む。
二人が建物内部に入り、姿が見えなくなった事で、室内戦を想定して引き下がったのだろう。
そして、これから双方による激しい銃撃戦が始まろうとしていた。




