クリミア半島制圧 西暦2014年、3月11日
ウクラーダ共和国では、民族史上主義を掲げる極右政党、民族共和党が政権を握った。
これに対して、ルシャ系住民は反発して、ウクラーダ系住民との衝突が発生した。
始めは、過激なデモ隊による殴り合いも、やがては双方による銃撃戦に発展した。
この結果、表向きルシャ連邦はルシャ軍を動かさず、傭兵部隊を展開させた。
さらに、複数の民兵部隊を、ウクラーダ側へと秘密裏に増援へ送った。
また、親ルシャ派であるドンバス地方やルガンスクの民兵隊に武器やボルグなどを供給した。
この事から、クリミア半島は親ルシャ派によって、完全制圧される事となる。
「ルシャ空軍だっ! この戦いは勝ったっ!」
「援軍が来たぞっ! やったぜっ!」
そう叫ぶのは、ドンバス地方に展開している親ルシャ系住民たちだ。
彼等は歓喜して、空軍機に手を振る。
空を飛ぶのは、緑色と茶色に塗装された、飛行ボルグ、クラカジールだ。
これは、トビトカゲを模して作られた、中型汎用ヘリコプターだ。
四機からなる飛行編隊は、地上に降下すると、CZC部隊の兵士を展開させる。
CZCとは、民間軍事会社チョールヌィ・ズメイ・カンパニーの事だ。
緑色の服装に身を包んだ、彼等CZC歩兵は、ルシャ連邦軍と同じ装備を保有している。
こうして、ドンバス地方&ルガンスク地方は、ルシャ系・非正規部隊が緊急展開した。
クリミア半島、海軍基地。
クリミア半島上空にも、クラカジール部隊が迅速に、地上へ展開する。
また、クラカジール部隊に混ざって、中型飛行ボルグも空を飛ぶ。
連邦軍戦闘機、スー27ズメイ、ミグ29ジラントではない。
蛾型兵員輸送ボルグ、カトラーガだ。
ルシャ連邦軍機らしく、大きな機体は、カラーリングとして、深緑と黄緑色に塗装されている。
また、旧式機のクラカジールと違って、機体自体が輸送ヘリとなっている。
機体後部に備えた、昆虫の腹型コンテナには、円が五個もある。
これは、防弾製の窓ガラスであり、人員が多数輸送されている。
機体側面からは、機関銃手が汎用機関銃PKPを地上に向けて、連続発射している。
着弾音が何度も鳴り響き、滑走路周辺にある塹壕線に、幾つもの土煙が舞い上がった。
それから、野戦服を身に纏うCZC部隊兵が、カトラーガの後部ハッチから突撃してきた。
「行けっ! 半島を全て制圧するのだっ! スラーヴァ、ルシャッ! ウラアアアアーー!」
CZC部隊の隊長は、そう叫びながら、レーダー施設を制圧に向かう。
旧ルシャ系のレーダー施設は、周囲をウクラーダ共和国軍部隊が、防衛していた。
しかし、彼等もまた、ルシャ系住民であるため、戦闘は発生しなかった。
塹壕や土嚢に隠れるウクラーダ兵士たちは、銃を捨てながら、そこら中から出てくる。
「ストーイッ! 一歩でも動くと撃ち殺すぞっ!」
「我々は本気だっ!!」
「降伏する、同じ、ルシャ系同士で撃ち合う事はないっ!」
「投降するよ、撃たないでくれっ!」
ルシャ連邦軍の空挺スペツナズ隊員たちは、コンテナ後部から飛び出る。
そして、即座に多数の飛行場にある施設群を制圧していく。
緑色の迷彩服に身を包んだ、ルシャ兵たちは、塹壕内に潜んでいた、ウクラーダ兵に銃を向ける。
しかし、灰色の迷彩服に身を包んだ兵士たちに、敵意はなく、あっという間に降伏してしまう。
やはり、半島は、ルシャ系住民が多いので、大規模な戦闘は発生しなかった。
また、非ルシャ系の兵士でも、迅速な敵部隊による奇襲と圧倒的な戦力を前に何もできなかった。
「急げっ! 敵より速く移動するぞっ!」
「敵影だっ! 動くなっ!」
「降伏、降伏するっ!!」
「俺は民間人だ、撃たないでくれ」
レーダー施設が無血降伏すると、飛行場の滑走路や格納庫に兵士たちが走っていく。
建物内部に突入した、CZC部隊員は素早く、管制塔を制圧してゆく。
室内に突入していった、彼等の前には、ウクラーダ軍整備兵や軍属民間人が現れた。
当然ながら、両手を上げる者たちは、手錠で拘束されてゆく。
一方、セヴァストポリ海軍基地では、元から、ルシャ連邦海軍&ウクラーダ海軍が駐留していた。
そのため、首長竜型フリゲート艦プリオザウラーが、海上を航行する。
長い首を振りながら吠える、フリゲート艦隊は、波間を高速移動している。
ホシチョウザメ型である小型潜水艦セブリューガは、海中に機雷を敷設しながら潜航する。
背中のギザギザ背鰭が目立つ、潜水艦部隊は密かに海底を制圧する。
これらの海軍ボルグによる閉塞作戦が展開された事により、海軍基地は制圧されていく。
この結果、ウクラーダ海軍は、湾内から出撃・侵入する事ができなくなった。
さらに、空中と海上を封鎖されたため、クリミア半島は孤立化してしまった。
これにより、港湾都市セヴァストポリは、戦火に晒される事なく陥落した。
また、ウクラーダ海軍の基地司令が、旧ソビイト海軍出身だったため、無血開城が行われたからだ。
こうして、クリミア半島での紛争は、後に2014年クリミア危機と呼ばれるようになる。
クリミア半島・無血開城とドンバスによる戦火は、ウクラーダの歴史に消えぬ爪痕を残した。
首都キーウの政権は、東部へ軍を急派するも、ルシャ側が送り込む戦力に圧されてしまう。
PMC、CZCと親ルシャ民兵によるハイブリッド戦に泥沼の膠着を余儀なくされたからだ。
かつて、兄弟と呼んだ隣国は、もはや明確な侵略者へと変貌していた。
「…………僕たちの町も、いつかこうなるのかな…………戦争か? ボルグは好きだが、本物の戦争は怖い…………」
「ルキ兄…………私も不安だわ? これから、クリミアはルシャの領土になるのかしら…………」
ビロホロードカに住む少年ルキヤンは、テレビのニュースが映し出す黒煙を、ぼんやりと眺める。
それと、街頭を這う緑色のボルグ兵器群を息を飲んで見つめていた。
赤いソファーに座るオリハも、ブラつかせていた足を止め、険しい表情で俯いてしまう。
右隣に立つ、イリネイの顔からは、いつも見せている無邪気な笑みが消えている。
「大丈夫だ…………僕らが大きくなったら、戦争は終わっているっ! ルキヤン、オリハ…………心配するなっ! ルシャとウクラーダは兄弟国だっ! すぐに仲直りするさ」
そう語るイリネイの目は、平和と戦争に対する真剣さと決意に燃えていた。
しかし、二人がまだ知る由もない、この2014年の亀裂こそが、8年後の2022年。
首都キーウを焦土に変える全面戦争の恐ろしいプロローグに過ぎないということを。
東部ドンバスの泥深く凍てつく塹壕線では、絶え間なく砲声が響き渡る。
『ロケット発射、これより帰投する』
「急げ、急げっ!」
「撃ち落とせっ!」
敵のトビトカゲ型ヘリ、クラカジールが上空を旋回し、ロケットポッドから火を吹かせる。
ウクラーダの若き兵士たちは、対空機関砲にしがみついて応戦していた。
二人の平和な少年時代は、音を立てて崩れ去り、時代は着々と流れる。
そして、ルシャ・ウクラーダ両国民全員を呑み込む激動と戦乱へと加速していくのだった。




