イルピン市街戦2
ルキヤンとオレーナ達を乗せるコザックホース2は、左側の森林へと避難する。
木々の中に機体が隠れると、二人は安堵することなく、ビルを目指す。
「味方部隊は、どこだ? さっきの敵が追って来てないといいが…………」
「ルキヤン? このまま、迂回して再び敵を攻撃しましょうっ!」
ルキヤンは、オレーナの提案を聞いて、一瞬思案したあと、すぐに機体を走らせた。
「分かった、やつを攻撃してやろう? うまく行けば機関砲を破壊できるかも知れない」
「ええっ! 任せて、頂戴っ! センサーも狙うし、相手が旧式なら燃料タンクを撃ち抜くわ」
ルキヤンは、コザックホース2をUターンさせて、市街地を車輪で走行させる。
オレーナも、再び機関砲を両手で握り、敵が視界に入るのを、じっと待つ。
再び森の手前に来ると、芋虫装甲車グニセツィガ80が、また何台か見える。
二人は、射撃している敵を目にすると、直ぐさま車体を停止させる。
そして、木々に紛れながら敵の遠隔操作・機関砲&機関銃RWSを狙う。
「当たったっ! でも他のが気がついたわ、急いで逃げてっ!」
「分かった、またUターンだっ!」
オレーナは、一台のグニセツィガ80を狙撃して、見事にRWS機関砲を破壊した。
だが、他の装甲車たちは、猛烈な勢いで機銃掃射による反撃をしてきた。
今度は不味いと思ったルキヤンは、急いで車体をUターンさせて、その場から離れた。
彼は逃げながら、隠れられそうなビルの陰へと入り込み、さらに遠くへと走り去ろうとする。
「敵部隊を発見したっ! 誰か味方は居ないのか?」
「私たちは、グニセツィガ部隊に攻撃されているっ!」
四輪を回転させながら、コザックホース2は、市街地を真っ直ぐ走っていく。
ルキヤンは慌てながら、通信機で味方を探し、オレーナは、周囲を警戒する。
『ルキヤン、オレーナ、後退しろっ! 味方と合流するんだっ! 部隊再編してから、再度反撃に移るっ!』
「了解、南側に撤退しますっ!」
「了解しました」
指令部からの命令を聞いて、ルキヤンは仕方なく下がることを選択する。
オレーナも、重機関銃のグリップを握りながら、額から冷や汗を滴しながら無線に答えた。
しかし、逃げた先にある交差点に、深緑色の歩兵機動車ノーシ・ティーグルが、三台も現れた。
左側から出てきた敵部隊は、歩兵を降車させながら、こちらを捕捉して銃撃してくる。
「まずいっ! 殺られてしまうっ!」
「脱出は…………間に合わないわね…………」
防弾ガラスや防弾板を、カンカンと敵が放った小銃弾が叩く音が鳴る。
さらに、ドドドドと重機関銃を発射する射撃音も、ルキヤンとオレーナ達の耳に届いた。
12、7ミリ弾を食らえば、コザックホース2の装甲板を貫通してしまう。
それにより、二人は体をズタズタに引き裂かれて、呆気なく戦死してしまうだろうと思った。
「敵発見っ! 撃ち殺せっ!」
「指令部、敵を見つけた」
「くっ! このままでは…………はっ!?」
「ぐわあっ!?」
「ぎゃあっ!?」
歩兵部隊と、三台の歩兵機動車ノーシ・ティーグル達は、容赦なく攻撃を続けてくる。
ルキヤンは、Uターンさせる間もなく、コザックホース2を後退させた。
そんな中、いきなり敵部隊が砲火に晒され、機銃掃射により兵士たちは倒れてゆく。
こうして、あっという間に、ルシャ軍部隊は殲滅されてしまった。
「いったい、何があったのかしら?」
「さあな? 味方だと良いが? いや、やはり味方だっ!」
オレーナは、反撃しようと身構えていたが、重機関銃のグリップから手を離した。
ルキヤンも、何事かと思っていると、交差点の右側から登場する味方部隊を見て驚く。
OD色の虎型・旧式戦車ボルグ、ティーフルBMブラートが、四台で列を成して走ってくる。
四つ足に、キャタピラを取り付けた部隊は、砲撃で壊れた、ノーシ・ティーグル達を踏み潰す。
「おーーいっ! 味方だっ! 本隊と合流するように命じられたっ! 一度、後退するぞっ!」
「はあ? こっちは進撃命令が出ているんだが?」
ルキヤンは、コザックホース2を味方部隊に近づけ、ある程度の距離まで行くと、そこで停めた。
彼は、左ドアを開いて、外に出ると味方部隊に向かって、手を振るう。
先頭を走っていた戦車隊のティーフルBMブラートも停車する。
戦車長も、その姿を視認すると、直ぐさまハッチを開けて答えた。
「どうやら、混乱しているようだな?」
「ええ、でも敵の数は凄いわ? 次に殺られるのは私たちかもしれない」
味方部隊と話が合わないため、ルキヤンは両腕を組ながら背中を、コザックホース2に預ける。
銃座から降りたオレーナも、AK74Uで辺りを警戒しながら答えた。
「だな…………このまま彼らに随伴して、俺たちも帰ろう」
「ええ、でも体制を立て直したら、また直ぐに戻ってくるわよ」
ルキヤンとオレーナ達は、混戦の最中、後方に帰ることを選択した。
こうして、彼らは戦車部隊の隊長を説得して、一度戦場から離れた味方陣地へと退散した。
しかし、この日は何度も、泥沼と瓦礫が転がるイルピンに戦いへと戻る羽目になった。
ルシャ軍は、部隊を殲滅されては新たな部隊を前線に派遣し、幾度となく市中央を狙ったからだ。
それにより、ウクラーダ軍は、敵の砲撃と突撃に悩まされることになった。
「進めっ! ウクラーダ民兵は、殺せっ! うぎゃ」
「ルシャ部隊が来たぞっ! ぐげ…………」
ルシャ連邦空挺軍は、圧倒的な火力を背景に、 街の制圧を目指して進軍していた。
しかし、ウクラーダ側の部隊や民兵たちも負けじと抵抗を続けていた。
彼らは、狭い路地や廃墟となった建物を、防衛戦に利用している。
ゲリラ戦術を駆使して、敵の進行を食い止めようとしていた。
街の中心部では、激しい銃撃戦と砲撃戦が繰り広げられた。
住民たちは恐怖に震えながら避難所を求めて逃げ惑っている。
「さあ、はやく逃げるのよ、坊や…………」
「お婆ちゃんは? ねぇ? お婆ちゃんは?」
「お父さん、お父さん…………」
「うわあんっ! お父さんっ!」
子供たちの泣き声が響き、家族が離ればなれになる光景が広がっていた。
ウクラーダ側の兵士たちは、仲間を守るため、そして故郷を守るために必死に戦っていた。
「ルシャ部隊を殲滅っ! また、東からくるっ!」
「次も撃退するっ!」
彼らの目には決意が宿り、どんな困難にも屈しない姿勢が見て取れた。
一方、ボルグ部隊は、圧倒的な数と火力で、街の制圧を急いでいた。
しかし、ウクラーダ側による抵抗は想像以上に強く、 彼らの進行は思うようには進まなかった。
戦闘激化と共に、街は景観が破壊され、かつての平穏な日常は、遠い記憶となっていく。
両軍の戦士たちが繰り広げる壮絶な戦いは、イルピンの運命を大きく左右する事になるだろう。
「ふぅ…………」
バシュゥゥと、遠くに打ち上げるのは花火ではなく、照明弾だ。
それを、塹壕で立ったまま、ルキヤンは疲れきった顔で見ていた。
この後も、サーマルゴーグルを装着したルシャ軍スペツナズが幾度も現れた。
その夜襲は、日が昇るまで続き、朝になると再び無謀な突撃と、熾烈な砲撃が繰り返された。




