第7話:常識破壊のティータイムと、理不尽なる八つ当たり
「え……もう到着ですか?」
中間チェックポイントに立っていた監督官が、記録用の魔道具を二度見しながら素っ頓狂な声を上げた。
「規定の最短通過時間を大幅に更新しています……この課外学習開始以来、圧倒的な最速記録!?」
俺たちの班は、ほとんど魔力を消費していない。
薄暗い通路を抜けて石造りの安全地帯に足を踏み入れた瞬間、脳内でマリアが誇らしげに告げてくる。
『坊っちゃん、新記録達成です! お友達とのピクニック、大成功ですね♪』
(頑張ったのはマリアの解析と、セドリックの火力で、これは課外学習だね)
俺はツッコミを入れつつ、支給品の休息用の茶器一式が置かれた木箱に近づいた。
「リオ様。私が淹れましょう」
「……セドリックが? 淹れたことあるの?」
「家族との狩猟の時に少々」
いそいそと湯を沸かし始めた名門貴族の三男坊が、不慣れだが一生懸命な手つきで紅茶を淹れてくれる。初日とは大違いだ。
『まあ! セド君の懸命な姿はいじらしいですね』
『いっぱい褒めてあげましょう♪』
(オカン度が増してきたな……)
向かいの席では、アリアが震える手を落ち着けるように、受け取ったカップを両手で包み込んでいた。
「一切の戦闘を回避し、魔物の知覚と罠の死角だけを縫って進む完璧な隠密行軍……過去のどんな上位クラスでも、こんな常識破壊の最速タイムは叩き出せないわ」
「当然だ。我らがリオ様は、ご自身の魔力を一滴も使うことなく、この迷宮そのものを盤上として支配しておられるのだからな!」
(いつの間にか、意気投合してないか?)
勝手に二人が盛り上がっている。俺はただ、マリアの光の案内のまま指示を出しただけだぞ。
湯気の立つ紅茶を一口すすると、体の芯までじんわり染み渡った。
「ありがとう。美味しいよ」
「リオ様!?……光栄です! 次は茶菓子も用意しますね!」
「……いや、うん、ありがとう」
(ずっとこの調子でいくしかないのか?)
血の匂いも悲鳴も、ここまでは届かない。謎の主従関係の雰囲気以外は、まるで本当にピクニックにでも来たような穏やかな時間だ。
(今回も無傷すぎて、噂のしの先生の飯にありつけないか……)
痛いのは嫌だが、超絶美味な特製料理が出るという噂の保健室に興味がある。なんせ、クラスの大半が初日に経験済みで、翌日はその味の話題で持ちきりになっていた。俺は少しだけ肩を落とす。
とはいえ、このまま平和に実習が終わってほしい。
だが、その静けさは長くは続かなかった。
「はぁっ、はぁっ……! 治癒魔法は……魔力がもうないのか!」
「前衛の盾が使い物にならない! 誰か止血用の布を!」
迷宮の奥から安全地帯へとつながる暗がりから、けたたましい足音と荒い息遣いが響いてきた。
泥だらけになって安全地帯へ転がり込んできたのは、実習開始前に俺たちFクラスを嘲笑っていた上位クラスのエリートたちだった。
立派だった装束は魔物の爪で引き裂かれ、血と泥にまみれ、杖にすがりついてようやく立っているような惨状だ。
彼らは肩で息をしながら、安全地帯の中央で優雅にティータイムを満喫している俺たちを見て、完全に硬直した。
「な……ッ、なんでFクラスのお前らがもう着いてんだよ!」
上位クラスのリーダー格の男が、血走った目で俺を睨みつける。
その瞳の奥で、驚愕が屈辱へと変わり、やがて理不尽なまでの敵視がドロドロと渦巻き始めていた。
「俺たちが命がけで戦っている間に……お前ら、戦いもせず逃げ回って、卑怯な手でここまで来やがったな……!」
完全なる八つ当たりだった。
俺は手にした紅茶のカップを見つめながら、深く嘆息する。
(普通で平穏な学園生活を……)
俺のささやかな願いは、血気盛んなエリートたちの怒号にあっけなく掻き消された。
★★★ 全知の聖母あとがきシステム ★★★
読んでいただき、ありがとうございます♪
ほのぼのティータイムで終わるかと思いきや!? ちょっぴり不穏な空気になりましたね♪
「また拳で青春を語るのか?」と思った方、坊っちゃんの【やる気:限界突破】で怪我なく済むように、
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次回は【明日20:20】に更新です♪




