幕間【セドリック】第4話:圧倒的な殲滅魔法と、自壊する三男坊
俺は名門ヴァレリウス家の三男、セドリック・フォン・ヴァレリウス。
類まれなる魔力量を誇り、いずれは王国を背負って立つはずの選ばれた存在だ。
だが今、俺の魔法が躱され、あろうことか術式を潰された。
あまつさえ、その魔力値2の平民のゴミは、俺を見下ろしてこう言い放った。
「右足の前に打ち込むのは危ないよ。魔力が溜まっていて……大爆発が起こる」
平民の分際で、魔力に愛されたこの俺に指導しようというのか。
「消し炭にしてやる! 跡形もなく燃え尽きろ!」
俺は怒りで奴の言葉を徹底的に否定するため、あえて「右足の前」を起点にした。
教室全体を焼き尽くすほどの、極大の炎を練り上げたのだ。
これで終わりだ。俺を愚弄した報い、その身をもって味わうがいい。
俺は獣のような咆哮とともに、圧倒的な質量の炎を解き放った。
だが、その直前。俺は信じられない光景を目にしていた。
リオ・アスターの奴は、逃げようともせず、ほんの一歩だけ、わずかに立ち位置をずらしただけだったのだ。
恐怖のあまり足がすくみ、為す術もなく立ち尽くしている。
俺はそう確信し、勝利の哄笑を上げようとした。
――ズガァァァァンッ!
次の瞬間、世界が反転するような凄まじい爆発音が、俺自身の足元から弾け飛んだ。
奴の忠告通りだった。
俺の右足の前に滞留していた魔力の淀みが、強引な魔力供給に耐えきれずに大暴発を起こしたのだ。
行き場を失った炎と熱波がぐにゃりとねじれ、術者である俺自身を容赦なく呑み込んでいく。
全身を焼かれる激痛の中で、俺は吹き飛ばされながら、悪夢のような真実を目撃することになった。
教室中を荒れ狂う致死量の業火と暴風。
その地獄の中心で、リオ・アスターは微動だにせず、ただ静かに立っていた。
防御魔法の光など一切ない。結界のエフェクトも存在しない。
ただ、奴の周囲だけ、まるで透明な絶対障壁でも存在するかのように、猛り狂う炎が綺麗に外側へと逸れていくのだ。
馬鹿な……。どういうことだ。なぜ奴には、火の粉一つ届かない!?
その答えに行き着いた瞬間、俺の背筋を冷たい戦慄が駆け抜けた。
最初から、すべて計算されていたのだ。
奴は、俺が安いプライドから忠告を無視し、強引に自爆することまで完全に見越していた。
そして、俺が自爆した際に発生する魔力の質量、爆発の指向性、壁に激突して生じる気流の複雑な乱れ。
そのすべての事象を瞬時に脳内で演算し、被害が一切及ばない『完全なる安全地帯』の座標を割り出した。
たった一歩、数十センチの移動。
俺が恐怖で立ちすくんでいると錯覚したあの小さな動きは、直径一メートルにも満たない奇跡の死角へとピンポイントで移動するための、神がかり的なステップだったのだ。
手も足も出ない。次元が違いすぎる。
俺がこれまで誇ってきた膨大な魔力量など、この男の神に等しい演算能力と完璧なる戦術の前では、ただ自爆を誘発されるための火薬でしかなかった。
煙が晴れた教室で、煤一つつけずに見下ろしてくる冷徹な灰色の瞳。
その深淵を覗き込んだ瞬間、俺のちっぽけな虚栄心は、音を立てて粉々に砕け散った。
「俺は……最初から、お前に誘導されていたのか……?」
震える声が漏れる。抗う気力など、とうの昔に消し飛んでいた。
名門貴族のプライドなど、この絶対的な強者の前ではチリ芥にも劣る。
あぁ……なんて恐ろしく、そして完璧で美しい存在なのだ。
俺は生涯、このお方に、手のひらの上で踊らされ、忠誠を誓うことしかできない。
いや、それこそが俺に与えられた唯一の救いなのだ。
全身を焦がす痛みより、リオ様への強烈な敬愛と出会えたことへの喜びが、敗北した俺の魂を激しく震わせていた。
★★★ 全知の聖母あとがきシステム ★★★
野良猫セド君は坊っちゃんのアドバイスに反発してからの大自爆で、すっかり懐いちゃって可愛いですね♪
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次回は【明日20:20】に本編を更新です♪




