第28話:対等の提案と、重すぎる友情
俺は石段からゆっくりと降り、円陣の中心に立ち尽くすセドリックに向かって声をかけた。
「……あのさ。俺も様付けしてもらうのは違う気がしてたんだよね。クラスメイトなんだし、対等な感じになれると嬉しいかな」
俺は極力自然なトーンを装った。
ただでさえ目立って平穏が脅かされているのに、高位貴族から「様」付けで呼ばれ続けたら、いらぬ反感を買って命がいくつあっても足りない。
あの長兄が残した「対等な友となれ」という言葉は、俺を神格化の玉座から引きずり下ろし、平凡な日常へ戻るための最高の口実だった。
だが、俺の提案を聞いた瞬間。
セドリックの瞳から、みるみるうちに大粒の涙が溢れ出した。
「対、等……?」
「うん。呼び方も、普通でいい」
これで終わりだ。これで目立たなくなる。
俺は内心で、小さくガッツポーズをした。
セドリックは震える唇を噛み締め、両手で顔を覆った。
そして、喉の奥から絞り出すように嗚咽を漏らす。
「極限の死地で、この命を信じて背中を預けてくださった上に……かつて決闘で刃を向けたこの私を、友として認めてくださると、そう仰るのですか……!」
(待て。俺はそんなこと言ってない)
『坊っちゃん、言葉足らずです! お兄様の後にあのセリフはそうとっちゃいますよね♪』
『とはいえ、お友達になれそうで良かったですね♪ めざせ! 学生らしい青春生活♪』
俺の嫌な予感をよそに、セドリックは大きく息を吸い込み、天を仰いだ。
「……リオ」
ただの一言だった。
けれど、その響きには、これまでの人生すべてを懸けたような重苦しい熱がこもっていた。
気のせいか、セドリックの頬がほんのり赤く染まっている気がする。
「リオっ……! リオぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
(うわっ!?)
次の瞬間、泥と血と涙にまみれたセドリックが、猛烈なスピードで突進してきて俺の胸へ飛び込んできた。
「俺は、一生ついていく! いや、隣を歩く! 友として、命を賭けて、死ぬまでお前の盾となりましょう!!」
(苦しい! 暑苦しい! 子分感が抜けきってない!)
声は出ない。顔は恐怖で凍りついたまま、ぴくりとも動かない。
抗議したくても動けないその姿は、傍目には、友の暑苦しい抱擁を無言で受け止める「器の大きな男」にしか見えていないだろう。
さらに悪いことに、泥と汗が俺の制服にべったりと擦り付けられている。
(やめろ! 頼むから離れてくれ! 洗濯魔法頼むとけっこう高いんだぞ!)
俺の悲痛な心の叫びを完全に無視して、セドリックは号泣しながら俺の肩へ顔を押しつけてくる。
(涙と鼻水のしみ抜き魔法は料金追加……)
「!? セドリック君が、リオ君を呼び捨てに……!」
「記念日……! 早くノートに記録しなきゃ……!」
背後でアリアが感動の涙を流しながら、焦げたノートの切れ端に猛然とペンを走らせていた。
他のFクラスの面々も、「俺たちも一生ついていきます! リオ!」とまだまだ子分感を残しつつ、次々に涙ぐみながら集まってくる。
演習場全体が、感動という名の完全に異常な狂信の渦に包まれてしまった。
違う。そうじゃない。ただ目立ちたくないだけなんだ。
様付けをやめて、ただのモブキャラに戻れると思ったのに……なんでこんな重すぎる友情物語のようになっているんだ。
『親友になれて喜ぶセド君、とっても可愛いですね♪ ほっこり♪』
脳内で能天気に拍手するマリアの横で、俺は完全に遠ざかってしまった平穏な学園生活に、ギリギリと激しく胃を痛めることしかできなかった。
★★★ 全知の聖母あとがきシステム ★★★
坊っちゃんの「平穏な学園生活」のフラグは秒でへし折られました!
思ってたのと違ったけど頑張れ坊っちゃん♪
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