幕間【ヴァルター&学園長】第5話:王立学園の頂点と、最恐教師の最高傑作
私、ヴァルター・グレイヴは、学園長室の執務デスクの前に直立していた。
先ほどまで行っていた、Fクラスの吹き飛んだ壁の修復作業と事後処理の報告を終えたところだ。
原因は名門ヴァレリウス家の三男が引き起こした、魔力暴走による大自爆……を止めなかった私だ。
だが、私の脳裏に焼き付いているのは、あの猛り狂う業火の中で一切無傷だった少年アスターの姿だけだった。
「修復と怪我人の搬送、完了いたしました」
感情を排した声で告げると、デスクの向こうで真紅のローブを着崩した男がニヤリと笑った。
王立魔法学園の頂点に君臨する怪物、クラウス・レンドルフ学園長である。
「ほう……ご苦労だったな、ヴァルター。しっかし初日から随分と派手にやってくれたじゃないか」
学園長の飄々とした指摘に、私はわずかに眉間を揉んだ。
「暴走するセドリックを止めず申し訳ございませんでした」
「そうだな。今日は派手すぎた。で、怪我人の処置はしの先生に任せたのだろう? 随分と絞られたんじゃないか?」
「……ええ。お恥ずかしながら」
思い出すだけで背筋が冷える思いだ。
黒焦げのセドリックを保健室へ運び込んだ際、しの先生はシャッシャッと無言で出刃包丁を研いでいた。
そして「初日から痛めつけるとは、教官としてどういうつもりか」と、ねっとりとお叱りを受けたのだ。
実戦教官である私ですら、あの特任校医のプレッシャーには抗いようがなかった。
「しかし……結果的に、あの時お前が孤軍奮闘して正解だったというわけだな」
数週間前の入学試験後のことだ。
魔力測定で2という歴史的最低数値を叩き出したリオ・アスターに対し、他の教師陣は平民のゴミを合格させるわけにはいかないと猛反発した。
だが、私だけが机を叩き、烈火の如く怒り狂って彼を擁護したのだ。
周囲から左遷だと冷笑されながらも、自らFクラスの担任を志願し、学生時代からの付き合いを盾に、学園長に交渉までした。
◆ ◆ ◆
ヴァルターが、ここまで執着する少年の異常性に、私は早くから気づいていた。
そして今日の報告を聞き、直感は完全な確信へと変わった。
「自分は一歩も動かず、敵の怒りと驕りだけを煽って自滅する位置へと完全に誘導するとはな」
しかも、自身は爆風すら届かない絶対安全圏の座標を割り出し、そこから無傷で見下ろしていたという。
あの膨大な炎の質量と、壁に反射する気流の乱れまでを瞬き一つ分の猶予で演算しなければ不可能な神業だ。
魔力が少ないという最大の弱点を、相手の油断を誘う最強の武器へと昇華させている。
「ほう……恐ろしい少年だ。ヴァルター、お前の戦術の、上位互換……成長が楽しみだな」
「……買い被りすぎです」
ヴァルターはそっぽを向いて否定したが、私にはごまかしきれない。
こいつの肩は、抑えきれない歓喜と興奮で小刻みに震えているのだ。
自身を遥かに凌駕する才能の原石を前に、教師としての本能が狂ったように歓喜の雄叫びを上げているのだろう。
「くくっ、とんでもない化け物を拾ったな。ダンジョン実習が楽しみで仕方ない」
私はゆっくりと椅子から立ち上がり、愛すべき不器用な後輩の肩にポンと手を置いた。
そして、飄々とした笑みを消し、かつての騎士団総隊長としての重圧を込めて低く囁く。
「これほどの至高の原石だ。ヴァルター、お前の指導で万が一にも彼を『壊す』ような真似があれば……」
ギリッと肩を掴む手に魔力を込め、私は絶対者の威圧を放った。
「その時は、私が直々にお前を。……分かっているな?」
それは首筋に刃を突きつけるような凄まじい威圧でありながら、同時に、至高の原石を預けるというかつての上官からの絶対的な信頼の証でもあった。
私の殺気を帯びた言葉を受け、ヴァルターは銀縁眼鏡の奥の目をギラリと細める。
「ご心配なく。私の全てを懸けて、彼を最強の怪物に育て上げてみせます」
一切の怯えを見せず、彼は深い敬意と共に私へ深く頭を下げた。
その唇には、死神の異名に相応しい、ひどく冷酷で歓喜に満ちた笑みが刻まれていたのだ。
★★★ 全知の聖母あとがきシステム ★★★
ヴァルター先生の坊っちゃん愛は想像より深く、学園長まで坊っちゃんへの愛が止まりませんね♪ 大人たちの重すぎる期待と愛を背負った坊っちゃん!いけいけ坊っちゃん!頑張れ坊っちゃん!ぜひ本編の第2部もお楽しみくださいませ♪
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