第14話:エリートの烏合の衆と、最強の落ちこぼれ集団
「俺たちが、こんなところで終わるわけがないだろ!」
悲鳴が飛び交う広場の端で、腰を抜かしていた上位クラスのリーダー格が、血を吐くような声で立ち上がった。
エリートとしての薄っぺらいプライドが、恐怖を無理やり押さえ込んだのだろう。
彼は泥だらけの杖を構え、迫り来る魔物の群れに向かって極大の雷撃を放った。
込められた魔力量と出力だけなら、確かに圧倒的だ。
だが、それに続く者がいなかった。いや、続き方が最悪だったと言うべきか。
「俺は炎で牽制する! 前衛は下がれ!」
「馬鹿っ、水属性の結界を張るのが先だ! 炎なんて撃ったら蒸気で視界が……!」
周囲で立ち上がった他のエリートたちも、それぞれが「自分が戦局を打開する」という焦りと自己顕示欲に囚われていた。
彼らは周囲の状況など一切見ず、己の最強の魔法を好き勝手に放ち始める。
結果は、惨憺たるものだった。
炎と水の魔法が空中で激突し、視界を奪うほどの大量の水蒸気を発生させる。
そこへデタラメに放たれた風の魔法が加わり、雷撃の余波の軌道を狂わせて味方の足元を焼いた。
「なんで俺の魔法を邪魔するんだよ!」
「お前が勝手に前に出るからだろ!」
「違う、お前の風が余計なんだ!」
誰も、隣の人間がどう動くかを見ていない。
誰も、誰を助けるのかを決めていない。
互いの長所を殺し合い、干渉し合い、魔法の威力が半分以下に落ち込む。
連携を完全に無視した、ただ自分が目立つためだけの独り相撲。
それが、パニック状態に陥った入学間もない1年生の上位陣の限界だった。
言い争い、互いに責任をなすりつけ合っている間にも、魔物の群れは止まらない。
足並みの揃わない防衛線など、無数の獣たちにとってはただの紙切れと同義だ。
「ぎゃああっ! 誰か、俺を守れよ!」
「待て、俺を置いて逃げるな!」
魔物の爪が前衛の肩を掠め、陣形は数秒で呆気なく崩壊した。
さっきまで胸を張っていたはずのエリートたちが、再び死の恐怖に直面し、杖を放り出して我先にと逃げ惑う。
俺は少し離れた場所からその無様な自滅を眺め、ただ小さく息を吐いた。
(……ああはなりたくないな)
魔力量も、個人の魔法の威力も、俺なんかとは比べものにならないほど高いのに。
彼らを見ていると、呆れを通り越して純粋に疲労が増してくる。
今すぐふかふかのベッドに倒れ込んで、泥のように眠りたい。
できれば、超絶美味と噂のしの先生の食事にもありつきたい。
俺はその切実な願いを叶えるためだけに、冷めきった視線を自分のクラスメイトたちへと戻した。
◆ ◆ ◆
悲鳴を上げて崩れゆく上位陣の防衛線の、すぐ隣。
俺が率いるFクラスの陣形は、未だただの1体すら魔物を寄せ付けていなかった。
「セドリック、左前方の岩陰ごと焼き払って。アリア、右翼の攪乱を維持して」
俺の声に応じて、セドリックが躊躇なく杖を振りかざす。
轟音と共に放たれた大味な炎が、一直線に迫り来る魔物の群れを舐めるように焼いていく。
狙いを一点に絞れば味方すら巻き込む、制御不能の欠陥魔法。
だが、動かす対象を広範囲の面にしてしまえば、それは敵の進路を完全に塞ぐ最強の防壁へと変わる。
炎を嫌がった魔物の群れが、右へと流れた。
「アリア、今だ」
「は、はいっ!」
目を閉じたアリアから、繊細すぎる魔力の糸が敵の陣形へと伸びていく。
実戦経験が少なく、プレッシャーですぐに自滅してしまう彼女の魔法。
だが、攻撃ではなく魔力の流れを乱すことだけに絞れば、魔力感知によるその異常な精密さは、敵の足並みを狂わせる見えない刃になる。
互いの進路を塞ぐように、魔物たちがその場で派手に転倒した。
「前衛、盾を構えて。絶対に位置は変えないように」
「了解!」
指示通りに並んだ前衛の生徒たちが、雪崩れ込んでくる魔物の突進を寸分違わず受け止めていく。
個々の力は上位クラスに遠く及ばず、恐怖で足が竦んで前に出ることすらできない。
だからこそ、ここで動くなと指示を出せば、彼らは一歩も引かない完璧な盾として機能する。
俺の視界には、淡い光の線がいくつも浮かんでいた。
セドリックからアリアへ。アリアから前衛へ。
それぞれの動きが繋がるたび、頭の中のパズルが音もなく組み上がっていく。
『坊っちゃん、素晴らしい。連携成功率、100パーセントです♪』
脳内に響くマリアの能天気な音声に、既視感を覚えつつ、俺は異常なほど落ち着き、深く安堵していた。
魔力値2。
一人では指一本動かせない、底辺中の底辺であるはずの俺が、今この戦場の要となっている。
彼らの欠陥、恐怖、無駄なプライド。
それらを正しい隙間にぴたりとはめ込んでいくだけで、個人の魔力量など問題にならないほどの強さが生まれる。
魔力量ではなく、連携と適材適所がすべてだ。
「……なるほど」
目の前で次々と魔物が灰に変わっていく。
怖いほど戦場が静かに見え、冷え切った視界の奥で、司令塔としての冷徹な手応えと不思議な高揚感が静かに熱を帯びていくのを感じていた。
これなら、さっさと片付けて寮のふかふかなベッドに帰れそうだ。
「セドリック、もう一度。次は右に!」
悲鳴を上げ始めた脳を無理やりフル回転させ、俺は次の魔物の群れへと冷たく視線を向けた。
放たれた炎が唸りを上げ、魔物の先陣を綺麗に包み込んだ。
断末魔すら上がる暇もなく、獣の群れが根こそぎ灰へと変わっていく。
静寂が降りた。
俺の周りでは、Fクラスの連中が静かに息を整えている。
誰も倒れていないし、掠り傷一つ負っていない。
「……ありえないだろ」
背後の泥まみれの地面から、震える声が聞こえた。
視界の端に映るのは、さっきまで俺たちをゴミのように見下していた上位クラスの連中だ。
彼らは俺たちの後方、すっかり安全地帯となった場所で腰を抜かしたまま、食い入るようにこちらの陣形を見つめていた。
「あいつら、Fクラスだぞ……なんで一歩も引かずに完封してるんだよ」
「あの大味な炎を、味方を巻き込まないように壁として使ってる……それに、魔力感知しか取り柄のないあの女。実戦じゃ使い物にならないはずなのに、ピンポイントで敵の足並みを崩してやがる……」
誰かが呆然と呟いた声が、風に乗って耳に届く。
「落ちこぼれのくせに……なんでエリートの俺たちより、強いんだ……?」
その声には、圧倒的な実力差を見せつけられた絶望がはっきりと混じっていた。
魔力値、家柄、これまでの成績。
彼らがすがりついていた薄っぺらいプライドは、たった一握りの底辺たちが作り上げた連携の美しさの前に、完全にへし折られたらしい。
彼らは完全に自信を喪失し、言葉を失って俺の背中を見つめ続けている。
だが、そんな畏怖と戦慄の視線など、今の俺には心底どうでもよかった。
(……やっと、先陣が終わったか)
脳内でマリアが導き出す100パーセントの最適解を処理し続けるのは、決して楽ではない。
限界を超えた集中力のせいで、めまいが酷くなってきている。
俺の魔力値はたったの2だ。
一人で戦えば一瞬で死ぬ底辺が、どういうわけか戦場の要になっている。
その事実を知れば彼らはもっと絶望するのだろうが、今はそんなことを考えている余裕すらない。
ただひたすらに、早く帰りたい。
寮のふかふかのベッドに倒れ込んで、泥のように眠りたい。
できれば、しの先生の超絶美味なメシもセットで。
俺はその強すぎる切実な願いだけを原動力にして、奥から湧き出し続ける新たな魔物の群れを冷たく見据えた。
「アリア、次の群れとの距離は?」
「えっと……もうすぐ来ます!」
「わかった。前衛、構え直して。後衛はそのまま牽制を継続。セドリック、次は左に……」
指示を言い終わるより早く――首筋に、ヒヤリとした異常な冷気が這い上がってきた。
まるで死神に喉元を撫でられたかのような錯覚。
俺は思わず言葉を切り、上空へと視線を跳ね上げる。
★★★ 全知の聖母あとがきシステム ★★★
ここまで読んでいただき、ありがとうございます♪
ちょっぴりシリアス展開になりました。空気の読める私はしばらくおふざけを控えます!
(※本編はある意味空気を読んでるんですよ♪)
「作者の手抜き定型文だろ!」と思いつつも……楽しんでいただけましたら、坊っちゃんと作者の【やる気:限界突破】になるよう、
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