第12話:未知の学園襲撃と、底辺クラスの絶対指揮官
ズズンッ、と腹の底を揺さぶるような不気味な地鳴りが連続して響く。
「……冗談……だろ?」
俺はへたり込んだまま、信じられない光景に絶望の声を漏らした。
さっきまで感じていた死の恐怖と疲労で、全身の筋肉が限界の悲鳴を上げている。
やっとの思いで規格外の迷宮主を討伐したというのに、安堵の時間は1秒すら与えられなかった。
地鳴りと共に、迷宮の最奥が激しく崩壊を始めたのだ。
生き埋めになる――そう覚悟して目を瞑った瞬間、俺たちの足元で巨大な魔法陣が眩い光を放った。迷宮の緊急排出機構をヴァルター教官が作動させたようだ。
浮遊感に襲われ、次に目を開けた時、俺たちは青空の下――実習用ダンジョンの入り口の広場へと放り出されていた。
「た、助かった……?」
「生きてる……俺たち、地上に戻ってきたぞ……!」
共に排出されたセドリックやアリア、そしてレスキュー魔法陣がキャンセルされて巻き込まれていた上位陣たちが、太陽の光を浴びて安堵の涙を流している。
広場を見渡せば、迷宮の異常を察知して実習を中断させられ、すでに避難していた俺たちFクラスのクラスメイトたちの姿もあった。
(よかった、みんな無事だったんだ……)
俺は痛む胃を押さえながら、今すぐふかふかのベッドに倒れ込みたかった。
だが、その安堵は一瞬で打ち砕かれた。
ズゴォォォォンッ!!
背後にあるダンジョンの巨大な入り口が、内側からの凄まじい圧力によって粉々に吹き飛んだのだ。
「な、なんだよあれ……っ!」
パリンッ、と虚空が割れるような嫌な音が響き、入り口の亀裂から、真っ黒な靄のようなものが堰を切ったように溢れ出した。
いや、違う。靄じゃない。
獣だ。狼、巨大なトカゲ、異形の怪鳥。数えるのも馬鹿らしくなるほどの魔物の大群が、決壊したダムの濁流のように闇の中から押し寄せてきたのだ。
空間の歪みから湧き出した魔物の群れは、巨大な縦穴を這い上がり、学園の敷地内へと直接雪崩れ込んでくる。
「ひ、ひぃぃぃっ! 学園が、学園が魔物に呑まれる!」
「だ、誰か助けてくれ! 俺たちはエリートなんだぞ!」
ついさっきまで俺を迷宮主以上の化け物だと畏怖し、平伏していた上位陣たちが、今度は文字通りの死の濁流を前に完全に戦意を喪失している。
腰を抜かして地面に座り込み、涙と鼻水まみれで絶叫するばかりだ。
広場に集まっていたFクラスの面々も、想定外の大襲撃を前に悲鳴を上げて逃げ惑っている。
「ヒッ……! リ、リオ君……!」
「リオ様ぁぁっ!」
俺にしがみつくアリアとセドリックも、目前に迫る圧倒的な暴力の数を前に顔面を蒼白にし、悲鳴を上げている。
入り口付近にいた教官たちですら、溢れ出す魔物の対処と防衛結界の構築に追われ、完全にパニック状態に陥っている。
(嘘だろ……やっと終わったと思ったのに……)
胃の奥が、ギリギリと捻り潰されるように痛む。
(まずは命……まずは命……危険は買うもんじゃない)
立ち上がろうとするが、魔力値2の貧弱な身体は完全に限界を迎えており、膝が笑ってまともに動かない。
なんで1体倒したら、厄介なのが無数に湧いてくるんだよ。
俺は本気で帰りたかった。二度とこんな地獄には近寄りたくない。
「勘弁してくれよ、マジで……」
俺の情けない声は、空気を震わせる幾千の獣の咆哮にあっさりと掻き消される。
逃げ場などどこにもない。
狂暴な牙を剥き出しにした魔物の先陣が、ついに俺たちFクラスの生徒を喰い殺そうと一斉に飛びかかってきた。
「ひぃぃっ! こっちに来るぞ!」
「誰か、防壁を……!」
迫り来る魔物の先陣が、ついに俺たちFクラスの生徒たちにも牙を剥いた。
さっきまで俺を崇拝していたセドリックやアリアでさえ、圧倒的な数の魔物を前に顔面を蒼白にしている。
俺も痛む胃を押さえ、再び絶望の底に突き落とされそうになった。
その時だった。
『坊っちゃん! 新機能【人間関係・能力解析】を解放しますね♪』
脳内で、マリアの軽快なシステム音声が鳴り響く。
その瞬間。俺の意識から死の恐怖も、胃の痛みも、すべてが強制的にシャットダウンされた。
背筋がスッと伸び、丸まっていた猫背が矯正される。
瞳の奥に、再び淡い金色の光がスッと灯った。
強制再起動する【冷徹スイッチ】。
感情の波が完全に引いた絶対零度の視界が、瞬きする間にまったく別の世界へと切り替わる。
俺の視界には今、背後にいるセドリックやアリア、そして周囲で震えるFクラス全員の頭上に、詳細な情報が可視化されていた。
魔力特性、得意魔法の種類。
そして――誰と誰の相性が良いかを示す、複雑な光の相関図だ。
例えば、右側で震えているアリア。
彼女の頭上には、【魔力感知・極高】【精神力・極低】……おそらくプレッシャーに弱いということだろう……という極端な文字が浮かんでいる。
逆に、左側のセドリックには、【魔力出力・極高】【魔力制御・極低】と表示されていた。
さらに、2人を繋ぐ光の線には『連携成功率:0%』という無情な判定が赤く点滅している。
なるほど。これが、彼らの一級品の才能が空回りし、「落ちこぼれのFクラス」に配属された理由か。
単体での能力は高くとも、致命的な欠陥を抱えており、集団戦では互いに干渉して自滅する烏合の衆。
だが、光の相関図はそこで終わりではなかった。
『坊っちゃんが指示を出して全員の行動を制御した場合、成功率は100%に跳ね上がりますよ♪』
マリアの声と共に、視界で赤く点滅していた『0%』の相関図が、次々と黄金色の『100%』へと書き換わっていく。
俺の異常な空間認識能力と情報処理能力は、マリアが提示したその膨大な相関図を一瞬で脳内に叩き込み、盤面全体の完全な『最適解』を導き出していた。
★★★ 全知の聖母あとがきシステム ★★★
ここまで読んでいただき、ありがとうございます♪
ちょっぴりシリアス展開になりました。空気の読める私はしばらくおふざけを控えます!
(※本編はある意味空気を読んでるんですよ♪)
「作者の手抜き定型文だろ!」と思いつつも……楽しんでいただけましたら、坊っちゃんと作者の【やる気:限界突破】になるよう、
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