幕間【アリア】第8話:傲慢なる上位クラスと、残酷な実力差
突き飛ばされたリオ君の目の前で、ブラックウルフの群れが牙を剥いた。
心臓が止まりそうだった。実技試験でパニックを起こした悪夢が一瞬で蘇り、指先まで凍りつく。
それでも震える手で杖を構えようとした、その時。
リオ君が空中で体勢を立て直し、魔物の足元に向かって指先から弾き飛ばしたのは、私の感知能力でもかろうじて捉えられるかどうかという、一滴にも満たないごく小さな魔力の粒だった。
魔力値2の彼が絞り出した、マッチの火にも劣るような頼りない火の粉。
こんな絶体絶命の状況で、なぜあんな半端な量しか放たないのか。
疑問がよぎった、まさにその次の瞬間だった。
――ゴォォォォォォォォォォォォッ!
地下迷宮を揺るがす轟音と共に、視界を白く染め上げる大爆炎が天井を舐め上げた。
嘘でしょ。目の前の光景が、一瞬理解できなかった。
たった一滴にも満たない、誤差のような魔力で、あれほどの絶大な火力を引き出すなんて。
私の魔力感知能力が、その凄まじい現象の真実を正確に読み取り、全身の粟を総毛立たせる。
地下迷宮の底には、魔物の死骸などが発酵して生じる可燃性ガスが、目に見えない形で局所的に滞留している場所がある。
リオ君は、そのガスの濃溜まりが臨界点に達している座標を、匂いか気流のわずかな淀みから瞬時に読み切ったのだ。
そして、ガスを爆発させるのに必要な最低限の熱量だけを計算し、極限まで圧縮した火種をピンポイントで投げ込んだ。
自身の魔力は「1」も使わず、迷宮の環境マナを利用して「10000」の威力を叩き出す、神に等しい地形利用戦術!
「た、たった全魔力の1%にも満たない極小の魔力で、あれほどの絶大火力を……!? あり得ない、どれほどの魔力効率なの!」
私は震える声で叫びながら、猛烈な勢いでノートにペンを走らせた。
横では、セドリック君も感極まったように天を仰いで両膝をついていた。
「1%にも満たない魔力で、私の全力を上回る威力……! リオ様の底知れなさ、身をもって痛感いたしました!」
「いや、そこまで考えてない」
呆然と尻もちをついたまま、リオ君がひどく困惑したように否定する。
彼は息をするように、無意識のレベルでこの環境マナの支配を行っているのだ。
自分の実力にすら無自覚なほど、強さが身体に染み付いている。
私が崇拝にも似た熱い視線を送っていると、煙が晴れた先で、生き残ったブラックウルフたちがガタガタと震え始めた。
そして、彼らは目の前にいるリオ君を、絶対に触れてはいけない規格外の化け物だと生物の生存本能で理解し、矛先を変えた。
それは――リオ君を囮にして逃げようとしていた、上位クラスのエリートたちの方向だった。
「ひぃぃっ! 待ってくれ、俺は関係ない!」
「なんでこっちに!? あっちに行けよ!」
魔物の恐怖本能すら支配し、標的を完全に誘導するだなんて。
自分を突き飛ばした裏切り者だけを狩らせるなんて、正義感と戦術眼を同時に発揮しているとしか説明がつかない。
私はノートのページが破れそうな勢いで、この神業を記録し続けた。
平静を装って紅茶の残りを飲むリオ君の横顔を、私はもう一度そっと見つめる。
底が見えない。この人の実力の底が、どこまでも見えない。
ノートのページはもう、彼への畏怖と心酔でいっぱいになりつつあった。
★★★ 全知の聖母あとがきシステム ★★★
読んでいただき、ありがとうございます♪
アリアちゃんったら坊っちゃんの小さな火遊びを、神がかった地形利用戦術だと大絶賛ですね♪ ……もしかして好き好き大好きになっちゃうパターンかしら? ……青春ですね♪ ラブラブすれ違いコント……はないんですが、明日の本編もご覧あれ♪
「二人にいい感じになってほしい!」と思った方……
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次回は【明日20:20】に本編の更新です♪




