救済
トーマス神父が警察に相談したことを、ヨハネスは風の噂で知った。
直接確かめたわけではない。ただ、教区内を巡回する警官の数が増え、時折、見覚えのない男が教会の周りをうろついているのに気づいた。ウェイン刑事という名前も、信者たちの噂話の中に紛れ込むようになっていた。
――時間が、残されていない。
その事実を悟ったとき、ヨハネスの中に湧き上がったのは、恐怖ではなかった。奇妙なほどの、静かな解放感だった。
彼は、自分がずっと何かを待ち続けていたことに、ようやく気づいた。
裁かれることを。
最後に選んだのは、街で最も権勢を誇る判事だった。長年にわたり、賄賂を受け取り、権力者たちの罪を握りつぶしてきたという噂の絶えない人物。皮肉なことに、その男こそが、これまでヨハネスが裁いてきた"裁かれざる罪"の、最も象徴的な体現者だった。
危険は、これまでの比ではなかった。判事の周囲には常に護衛がついている。だが、ヨハネスはもはや、その危険を避けようとは思わなかった。むしろ、それこそが相応しい終わり方のように思えた。
決行の夜、彼は護衛の隙をつき、判事の私邸へと忍び込んだ。これまでのどの犯行よりも危険で、ずさんな計画だった。だが、不思議と失敗するとは思わなかった。まるで、何か大きな力に導かれているかのような感覚があった。
判事との対峙は、これまでで最も長かった。男は命乞いをし、財産を差し出すと叫び、最後には泣き喚いた。だが、ヨハネスの心は、驚くほど凪いでいた。
「あなたが裁いてこなかった者たちの声を、聞いたことがありますか」
彼はただ、静かにそう問いかけた。
――それから先のことは、これまでと同じように、断片的にしか覚えていない。ただ、確かな終わりの感覚だけが、彼の中にはっきりと残っていた。
判事の邸宅の庭、大きな樫の木の下に、ヨハネスは最後の"作品"を仕上げた。これまでで最も丁寧に、最も時間をかけて。白い布、白百合、燭台――すべてを、これまでの集大成のように配置していった。
完成したその姿を前に、ヨハネスは膝をつき、十字架を握りしめた。だが今回、彼の中に湧き上がったのは、これまでの恍惚とは違う感情だった。
「神よ」
声は、静かで、澄んでいた。
「私はずっと、あなたに問い続けてきました。なぜ裁かないのかと。なぜ沈黙するのかと。ですが今、私はようやく気づきました。あなたの沈黙こそが、私への問いだったのかもしれません」
彼は目を閉じた。
「私は、裁きを代行してきたつもりでした。しかし、その実、私はただ、自分が裁かれることを待ち望んでいただけなのかもしれません。エレナと、トマスを失ったあの日から、私はずっと、罰を求めていたのです」
涙が、久しぶりに頬を伝った。それは陶酔でも、疑いでもなかった。ただ、長い間見失っていた、素直な祈りだった。
「どうか、私を裁いてください。今度こそ、あなたご自身の手で」
答えは、やはりなかった。だが、その沈黙が、これまでのように彼を苛むことはなかった。むしろ、ようやく本当の意味で神と向き合えたような、奇妙な安らぎがそこにはあった。
サイレンの音が聞こえてきたのは、それから間もなくのことだった。
邸宅の周囲が、赤と青の光に包まれていく。ヨハネスは立ち上がり、窓の外に広がるその光を、しばらくの間、静かに見つめていた。
逃げようとは思わなかった。ただ、まだ終わりにはしたくない、という小さな抵抗だけが、彼の足を外へと向かわせた。
夜の街を、彼は静かに歩き始めた。行く当てはなかった。ただ、体が自然と、街の外れにある橋の方角へと向かっていった。




