第7話:魔物と初対戦
「ねえ、アリス。ぼくは魔物との戦闘を経験しておくべきだと聞いたんだ。どう思う?」
聖見官ルルイフ様は、この辺の魔物なら相手にならんだろうと言っていた。
門番さんの言うことからすると、突っ込んでくる角ウサギにスコップでカウンターを食らわせるのがよさそう。
アリスはどう考えているか知りたい。
『一番安全策ということならば、王都の学校に入学する一二歳まで何もしないことです。魔物との戦闘は学校で教わればいいですから』
「おおう、それもそうだ」
言われてみればもっともだ。
教えてくれる人がいないことが問題なんだもんな。
ぼくは魔物を倒すことに前のめりになってたわ。
アリスは視野が広いなあ。
「入学までの一年半を有効に使いたいな。魔物との戦闘が必須だとすると?」
『戦闘経験者の同行が望ましいです。ただヒトシ様の加護【スコップ】の秘匿が条件となるならば、やはり単独で戦わざるを得ません」
「だよねえ」
ある程度状況を察してくれている門番さんが手伝ってくれると、本当は一番いい。
でも門番さんは緊急時以外、あそこを離れられないらしいし。
『現在の情報からは、単体の角ウサギを相手にするのがベストと考えられます』
「アリスの判断でもそうか」
『<察知>のスキルがありますので、魔物に不意打ちを食らうことはあり得ません。またヒトシ様のレベルならば<威圧>が十二分に効きます。万一魔物の群れに囲まれたとしても問題はありません』
<察知>は魔物や危険、違和感などを感じるというもの。
<威圧>は相手を恐れ入らせるというものだ。
何だ、ぼくにはいろんな手段があるんじゃないか。
足りないのは経験だけだな。
「ありがとう。一匹の角ウサギにチャレンジしてみるよ」
『御武運を。今後は心で話しかけていただければ応答いたしますので』
「うん、わかった」
つい口に出して喋っちゃうな。
これもぼくの力がバレちゃう原因になるかも。
気をつけないと。
◇
「ここが森かあ」
森まで来たのは初めてだな。
ちょっとドキドキする。
恐る恐る中に足を踏み入れてみる。
まあ普通に考えて、森の入り口近くには魔物いないよね?
いや、角ウサギとワイルドボアは森の外に出てくることもあるって、門番さんが言ってたか?
もう少し中へ。
あ、掘りたいところがあるな。
そちらへ行くと、ピリッとした感覚がある。
<察知>に引っかかった。
魔物、角ウサギ一匹だ!
目を合わせると突っかかってくるんだったな。
チラッと視線を走らせると……大きくない?
生きてる角ウサギを初めて見たけど、ウサギってサイズじゃないよ!
怖っ!
いいや、油断だけはしないように、先に掘りたい場所を掘っちゃおう。
目を合わせないようにザクザクと掘ってたのに、角ウサギのやつ突撃してきた!
何でえ?
いや、予定通りにいかないことだってあるなんてこと、わかってるけど!
慌ててスコップを振り回したら角ウサギが倒れた。
えっ? 何事?
スコップ全然当たってないよね?
おっかなびっくり近付いてみると、確かに血を流して倒れているな。
<察知>でももう危険な感じはしない。
頭の中に呼びかける。
(アリス、どういうことだと思う?)
『スコップに付着していた土くれが、角ウサギに直撃して倒れたものと思われます』
(ええ?)
そんなことある?
思ったより角ウサギってしょぼい?
『ヒトシ様のレベルは三二ですから。レベル一相当の角ウサギなど相手にならないというのは事実です』
(逆にスコップ土くれショットの威力が結構あるってことなのかな? たまたま当たりどころが良かっただけ?)
『検証してみなければいけませんね。空撃ちしてみていただけますか?』
(了解)
こんなもんかな。
土を少しすくってショット!
「うおお」
木にめり込んでるぞ?
考えてたよりすごい威力だった。
不用意にスコップを振り回したりすると、危ないなあ。
レベルが上がると、今まで考えてなかったところに注意が必要みたい。
『レベル一〇程度までの魔物ならば、致死級の大ダメージを与え得る技ですね』
(遠隔で攻撃できるのはすごく有効だね。コントロールは練習次第だな)
『練習次第で多数の魔物を相手にすることも可能かと思われます』
(あ、それもそうか。アリス、ナイスアイデア!)
『ありがとう存じます』
土くれショットの練習、近接戦闘で魔物の力を感じてみること、【スコップ】の加護に従ってあちこち掘ってみること。
色々やることができたなあ。
もう一回魔物と戦闘してみたいけど……。
『最初から何度も魔物と戦うのは不自然かと思います』
(だよね)
『亡骸を放置するのも、肉食の魔物を呼び寄せることになりかねません。今日は【スコップ】の加護で感じた部分を掘ったら、角ウサギの亡骸とともに回収して帰還するべきです』
(よし、そうしよう。アリスありがとう)
◇
「おいおい、ヒトシ。マジで魔物倒したのかよ。やるな」
門番さんのところまで帰ったら、しきりに感心されたよ。
くすぐったいんだけど。
「ま、ヒトシは角ウサギ程度に負けるレベルじゃないんだろうけどよ」
「穴掘ってたら、いきなり突撃してきたんですよ。目も合わせてないのに。泡食っちゃいました」
「ハハッ、まあそういうこともあらあな。よくやった」
「門番さんに教えてもらってたおかげです。お肉半分いかがですか?」
「いいのかよ? ありがてえな」
「その代わり、捌き方を教えてくださいよ」
「もちろんだぜ。よく見てろよ?」
ぼくにはアリスがついている。
よく見てさえいれば、次からはアリスの<ガイド>があれば自分で捌けるだろう。
でもナイフが必要だな。
父ちゃんに一本もらおう。
門番さん捌くの上手だなあ。
「奇麗な亡骸だな。これなら角と皮は売れる。取っとけよ」
「わかりました」
「それから魔物は必ず魔石という石を持つんだ。魔物を魔物たらしめる器官とも言われている」
「魔物の持つ石……」
「魔石も売れるんだけどよ。まあ角ウサギの魔石じゃ子供の小遣い程度にもならねえ」
魔石か。
聞いたことはあるけど、自分に関わるようになるとは思わなかったなあ。
しっかり覚えておかないと。
「強い魔物の魔石は高価なんですね?」
「そうだ。注意すべき点としては、魔石は死体に埋もれたままにしとくと数時間で腐っちまうんだ。質のいい魔石が欲しければすぐに取り出して洗え」
「わかりました」
「結局何が大事かって、金だからな」
これは本当にそう。
父ちゃんは心配するなって言ってくれてるけど、王都の学校へ通うならいくらかかるかわからないし。
「<ステータスオープン>については知ってるか?」
「知ってます。この前聖見官様に教えていただいたんです」
「そうだったか。ヒトシは王都の学校に通いたいって言ってたもんな」
「もう少し戦い慣れしたいんですよ」
門番さんはどう言うかな?
あっ、ニヤッと笑った?
「わかる。これ他のやつに言うんじゃねえぞ?」
「はい?」
「俺もヒトシくらいの頃、同じことを考えてな。森から外に出てくる角ウサギを盛んに狩ってたんだ」
なるほど、門番さんは賢いな。
「もっとも俺の壁越えは、親父と一緒に狩りに行った時だから自慢にならねえ。自力で倒したヒトシはすげえよ」
「今日はたまたまでしたよ」
「亡骸を見ればまぐれじゃねえことはわかるぜ。この倒し方ができるなら、油断しなきゃ角ウサギにやられることなんかねえ」
「ですよね。よかったあ」
「ああ。でも森の入り口までだぞ? 深いところは絶対に行くな。肉食の魔物、特にオオカミの類は群れててヤベえからな」
「わかりました」
「健闘を祈るぜ。肉ありがとうな」
門番さんの暗黙の了解を得たぞ。
明日から楽しみだ!




