第5話:<ステータスオープン>
――――――――――ヒトシ視点。
いやいや、もうどうなってるの?
埋まってる石を壊して。
いきなり体にショックが走ったかと思ったら、聖見官様に助けられて、レベル三二になってるってよ。
困る、ほんと困る。
父ちゃんはレベルアップはロマンだって言ってた。
でもぼくはレベルアップしたと思われる時には気絶してたわ。
せっかくのロマンが味わえなかったよ。
神様は言っていた。
『とにかくレベルはあればあるだけいい。レベル〇の壁を突破しさえすれば、あとはトントン拍子にいくはずじゃ』
レベルが高いことが望ましいのは確か。
だから高位魔族のコアを壊すことができて、やたらとたくさんのレベルを得たのはいいことには違いない。
ただなあ、これ明らかにトントン拍子を超えてるでしょ。
世の中調子に乗ってやらかすことがあるというのは、今のぼくみたいな状態で自分の力を過信するからなんじゃないの?
本当に怖い。
聖見官様が言う。
「王都の学校に行きたいというのは、レベルアップ前の君の目標だったと思う」
「はい。レベル〇の壁を越えたいと思っていました」
「実際にレベルアップを果たした今であっても学校に通いたいのかね? そして怖いとはどういうことだろう?」
「何をしていいか、何をすべきかわからないことが怖いのです。学校で学んで指針を得たいです」
「素晴らしい!」
素晴らしいのかなあ?
地に足がつかない感じでメッチャ頼りないんだけど。
「レベルに寄りかかることなく、知識を求めたいという姿勢が実にいい。君の人生は豊かなものになるだろう」
「あ、ありがとうございます」
「王都のどの学校も一二歳になる年の春に入学だ。つまりまだ一年半以上ある。それまで君がどう過ごすか、というのは一つのテーマだな」
聖見官様が目先どうすべきか教えてくれるみたい。
聖見官様はあちこちでいろんな人を見ているはずだもんな。
さすがに石を壊したらレベル三二なんて人はいないだろうけれど、きっと役に立つことを教えてくれるに違いないよ。
ありがたいなあ。
よく聞いておこう。
「君の【スコップ】はレア加護に間違いないようだ。上手く使えば人類の発展に大きく寄与し得る。もちろんひっそり生きても構わんわけだが」
「あっ、ぼくに説明してくれた神様も似たようなことを言ってました!」
「よからぬ者に狙われることがあるかもしれないというのも、根拠のないことではないんだ。もっとも【スコップ】は、例えば【聖女】の様に知名度のある加護ではない。君にその気があれば真の効果を隠すことは可能だろう」
「その真の効果が、ぼくにもわからないんですが」
「どうやら価値のあるものの埋まっている場所がわかって掘り出せる、という効果なんじゃないかと思うんだがね」
そうかも。
だって高位魔族のコアなんてものを掘り出して、いきなりレベルが上がったもんな?
とするとぼくができるのは?
神様は掘りたいところを掘れといった。
つまり価値あるものを手に入れろということなんじゃないかな?
問題は掘り出したものにどういう価値があるのか、ぼく自身にもわかんないことだけど。
「残念ながらワシは聖見の魔道具を返却のため、一度王都に帰らねばならん。しかし二ヶ月以内にまたマツモティー村に戻ってくる。それまでに掘り出したものは、できる限り隠しておいてくれるか? 必要以上にひけらかすことが君の有利に働くと思えん」
「わかりました」
聖見官様も把握していないものをぼくが見せびらかすのは危ないと考えてるみたい。
意見が一致すると嬉しいな。
ぼくの考えていることは間違っていないのだろう。
方針が決まるとちょっと安心できるよ。
「レベル〇と一の壁については知っているかね?」
「聞いたことはありますが、実感は……」
「だろうね。君の知っていることを教えてくれるかね?」
「ええと、レベル〇から脱すると、自分の力を把握できるようになると聞いたことがあります」
魔物を倒すと経験値と呼ばれる自己成長要素が得られる、ということはよく知られているんだよ。
で、一体でも魔物を倒したことがある者とない者では、天と地の差があるんだって。
上流階級の人でレベル〇というのはあり得ないらしくて、だからこそ学校に通ってレベルを一以上にするとか。
「レベル一以上になると、持っている加護に関係なく、<ステータスオープン>というスキルを使えるようになる」
「<ステータスオープン>ですか。あっ?」
何か頭の中にパネルみたいなものが思い浮かぶ?
この数字や文字がぼくの客観的な能力を現わしてるってことだな?
すごいすごい。
「唱えると自動的にわかるだろう? 慣れればこれは口に出さなくても見られる。また自分の意思で人に見せることもできる」
「本当だ。ありがとうございます!」
「またレベルが〇だと、たとえ何かのスキルを習得していても使えないんだ。レベル〇と一の差はかように大きい」
「なるほど……」
あれ? そう言えば……。
「聖見官様はどうしてぼくのレベルが三二だとわかったのですか?」
「ワシは<見破り>という、人やものの正体を判別できるスキルを持っているからだ。もっとも君のレベルは高いから、<見破り>でも全てを見通せるわけではないがね。例えば君が<魔王の討伐者>の称号持ちであることは、ステータスを見せてくれるまで知らなかった」
「称号というのは何でしょう? 聞いたことがないです」
「イベントや経験を通して得られるボーナス的なものだ。ステータスパラメーターの増減やスキルの習得条件等に関わるというが、わかっていることは決して多くない。君が壊した石は、魔王のコアだったようだな」
魔王を倒したってこと?
と言われても困惑だよ。
「<覚醒者>という称号もありますが?」
「最初の戦闘でレベル一〇を超えた者に与えられる称号だ。<魔王の討伐者>も<覚醒者>も滅多にない称号だということは理解できると思う」
そりゃそうだ。
魔王なんてそうそう倒すことはできないし、初めの戦いでレベル一〇を超えるなんてこともちょっと想像できない。
単にぼくはラッキーだったんだな。
「<簡易鑑定><察知><威圧>というスキルがあるんですけど?」
「それぞれレベル一〇、レベル二〇、レベル三〇の自然習得だよ」
「どんな加護を持っているかに関係なく得られるスキルということですね?」
「うむ。<簡易鑑定>は人やものの素性がある程度わかる。アイテム集めに適するが、<簡易鑑定>で見極められないものもあることは、知っておかねばならない。<見破り>ほどの確度はない」
「はい」
「<察知>は魔物や危険、違和感などを感じるというもの。<威圧>は相手を威圧できるというものだ」
そうか、【スコップ】の加護でスキルを得られることはなくても、レベルが上がることによる自然習得があるんだ。
すごくためになる。
でも頭がこんがらかる!
「三二というレベルは、結構な大事件になる魔物でも単独で討伐できるくらいだよ」
「そうなんですね?」
「ああ。たとえスコップしか持っていなくても、この辺に生息する魔物なら相手にならんはずだ」
これは弱い魔物で戦闘を経験しておけということみたいだ。
怖いなあ。
門番さんに教えてもらおう。
「すまんがワシもそろそろ馬車の時間だから行かねばならん」
「あっ、お時間取らせてすみませんでした!」
「ワシの名はルルイフ・カーランだ。君の名はヒトシ君だったか?」
「はい」
「ヒトシ君のレベルを考えれば、もう我が国の重要人物なのだよ」
「えっ?」
「君の今後についてはワシもよく考えておくが、ワシが戻るまではよくよく身を慎んでくれ」
「わかりました」




