第4話:ルルイフ・カーラン
――――――――――聖見式のためにマツモティー村にやって来たルルイフ・カーラン首席聖見官視点。
一〇歳になる年に行う聖見式は、神に加護をいただくという重要な儀式だ。
ワシは聖見の魔道具であるオーブを持って、ゼイパレス王国でも西の端一帯を回っている。
今いるマツモティー村で最後だ。
聖見官が一々各集落を訪問するなんて結構な手間であるから、いずれは各村に聖見式用の魔道具を貸与して、一々聖見官を派遣しなくてもいいようにすべきであろう。
が、聖見式の時にしか使わないのに魔道具の製作料が非常に高価なため、その提案は浮かんでは消える意見となっている。
またたまには旅もいいものだと思う。
しばらくは聖見官が派遣される方式が踏襲されるのではないかな。
そして昨日は幸運なことに、どうやらレア加護の持ち主の誕生に立ち会えたようだ。
いや、【スコップ】がレア加護とは限らないが、首席聖見官のワシにして知らない加護であるから。
未知との遭遇であり、子供のように心が躍ってしまう。
王都に帰還する前に【スコップ】の持ち主の話を聞きたい。
「さて、この辺のはずだが?」
【スコップ】の持ち主の家は金物屋と聞いたが、それらしい店がないな。
まあいい、小腹がすいた。
食堂で腹を満たし、場所を聞けばいいか。
「ごめん」
「いらっしゃいませー! こちらのお席にどうぞ! あっ、昨日の聖見官様ですか?」
「ああ、君は確か【料理】の加護を授かった……」
「パルです。よろしくお願いいたします。御注文は?」
「玉子サンドのセットを」
「玉子サンドセットワン!」
食堂の娘だったのか。
ならば【料理】の加護はいずれ役に立つだろうな。
小気味よく接客の手伝いをしている。
可愛らしい、いい子だな。
食事時を外しているから客は多くない。
少々の話は構わんだろう。
「昨日【スコップ】の加護を授かった少年の家を探しているんだが、君知らないかね?」
「ヒトシの家ですか? 裏の鍛冶屋です」
「鍛冶屋? 金物屋と聞いたのだが」
「金物製品も売っていますよ」
なるほど、作って売ってという店だったか。
この辺りだということは当たっていた。
「聖見官様、ヒトシがどうかしたんですか?」
「うん、【スコップ】というのは聞いたことのない加護なのでね。話を聞かせてもらいたいのだ」
「珍しい加護なんですね?」
「おそらくね」
聖見の魔道具では、【スコップ】が穴を掘るのに適した加護であること、レベルアップで特別なスキルは習得しないということしかわからない。
……もしレア加護なら神に拝謁しているはずだ。
もう少し詳しいことを神に聞いているのではないか?
「ヒトシだったらついさっき会いました。スコップを担いで西の村外れに行きましたよ」
「村外れに?」
「はい。ヒトシもどういう加護か詳しいことがわからないので、とにかく穴を掘ってみることにしたんですって」
「ふむ?」
「でも村の中にぽこぽこ穴を掘るわけにいかないでしょう?」
「なるほど、それで村外れの穴を掘っても構わない場所へということか
「はい」
では西に向かってみるか。
「お待たせしました。玉子サンドセットです」
◇
「ああ、ヒトシですか。三〇分くらい、いやもう少し前だったかな? スコップを担いで出ていきましたぜ。加護を活かすために穴を掘るんだと」
村外れまで来て門番君に聞くと、すぐに【スコップ】の少年の足取りは掴めた。
しかし?
「随分立派な柵だね。しかも門番がいるのか。魔物でも出るのかね?」
「弱いやつですがね。でも森まで行かなきゃ、昼ならまあ大丈夫ですぜ」
ふむ、のどかな村に見えるのにな。
昨日の聖見式でも冒険者志望の子がやや多いように感じた。
魔物がいるからだったか。
戦闘系の加護の持ち主は重宝がられるのかもしれない。
「ズガアアアアアン!」
「何だ? 雷?」
「青天の霹靂ってやつですかね?」
「行ってみよう」
うっすらと邪気が漂っているように思える。
魔物の生息地であるが故なのか?
嫌な予感がする。
◇
音のしたほうに行ってみると、少年が倒れている!
件の【スコップ】の加護の持ち主か?
焦げた跡はない。
雷ではないようだが。
では何だ? 先ほどの衝撃は
「おいヒトシ! どうした。何があった!」
「……呼吸も脈もしっかりしている。気を失っているだけだな。<ヒール>! <キュア>!」
「旦那は魔法を使えるんで?」
「基礎的なものだけだがね」
む、気付いたか。
よかった。
少年が目を開ける。
「もう大丈夫だろう。少年はワシが送っていくから、門番君は仕事に戻ってくれたまえ。門番なしでは村も困るだろう」
「旦那すまねえ!」
門番君が去っていく。
加護に対する突っ込んだ話になるかもしれない。
【スコップ】が本当にレア加護だとすると、内容を門番君に聞かせるべきではないからな。
「平気かね、【スコップ】の少年」
「ううん……。あっ、王都から聖見の魔道具を持っていらした?」
「そうだ、聖見官だ。意識はしっかりしているな。回復魔法と治癒魔法をかけたから身体は大丈夫だと思う。何があったか聞かせてくれるか?」
「は、はい」
本当に何があった?
ワシは<見破り>のスキルを持っているので、相手のステータスもある程度は見ることができる。
少年のレベルは何と三二。
こんな高レベルの者は王都でも一〇人といない。
聖見式の時にこんな高レベルではなかったと断言できる。
「ええと、【スコップ】の加護の効果だと思うんですけど……」
何々?
どうしても穿り返したい場所があった。
掘って出てきた石は嫌な感じがした。
壊したら衝撃を受けた……。
「どんな石だったかね?」
「握り拳くらいの大きさでごつごつした感じの石です。見かけでどう、っていう特徴はなかったのですが……」
「おそらくは高位魔族のコアだ」
「えっ?」
「高位魔族は滅ぼすことが大変に難しくてね。命を分けておくことがあるからなんだ。ある高位魔族が分体を残し倒されたとしようか。すると分体がコアとして活動を開始し、ごく少量ずつ気付かれぬよう魔力や邪気を集め、数十年かけて復活する」
「そんなことがあるんですね?」
「しかし復活前にコアを破壊すれば、その高位魔族は完全に滅びる」
理論上の話だ。
実際に復活前の高位魔族のコアを始末したなどという、確実な事績は存在しない。
魔族のコアを壊すのは魔物を倒したのと同じこと。
いっぺんに経験値が入って少年のレベルが跳ね上がったとすると、辻褄は合うな。
しかし倒してレベルが三二まで上昇するほどの高位魔族だと?
それほどの経験値を得られるとなると、魔王クラスの高位魔族だ。
約四〇年前に現れた魔王ガランの可能性が高いか?
もし魔王ガランが復活していたら、どれほどの悲劇が生まれることか。
目の前の少年の功績は大変に大きい、が……。
「君のおかげだ」
まだ一〇歳の少年だ。
この事実を公表したら、調子に乗ってしまっても仕方がない。
却って人生を台無しにしてしまうかもしれないので、少し情報を絞るか。
しかし少年は戸惑っているようだな?
「口外しないほうがいいのでしょうか?」
「君のレベルは三二だ。誰もが偉業を信じざるを得ないだろうよ。君自身はどうしたいのかな?」
「ぼくは王都の学校で学びたいんです」
「自分のレベルを知ってもかね?」
「聖見官様。ぼくは怖いです」
「何が?」
「【スコップ】の加護を得て、次の日にはレベル三二でしょう? もう全然制御できる気がしません。昨日神様にもよからぬ者に狙われることがあるかもって、言われたところなんです」
む、少年は神に会っているのか。
やはり【スコップ】はレア加護で間違いなし。
ならば少々情報を交換しておくのが互いのためだな。




