第3話:ぼくを変える出来事
聖見式であったことを父ちゃんに話した。
ぼくが【スコップ】という加護を得たことも。
『ふうん、【スコップ】の加護か。聞いたことねえな。珍しい加護なのか?』
『そうみたい。司祭様も村長も、王都から魔道具を持ってきた聖見官様も知らないようだった』
『まあいい。加護なんてのは使ってこそだぜ』
ハハッ、父ちゃんも神様と似たことを言ってる。
嬉しくなるなあ。
『父ちゃんも【金打ち】の加護をガンガン使って、鍛冶の仕事をしてるもんねえ』
『おう。持ち加護を職業にできるなら恵まれてるよな。穴掘りの加護を活かすとすると、土木とか農業とかか?』
神様は冒険者って言ってたけど。
穴掘りと冒険者って、関係あるのかなあ?
『土木や農業って、ぼくにはピンと来ないなあ』
『まあな。今まで縁がなかったものな』
『将来どうするかは一旦置いとくよ? ぼくの【スコップ】は穴掘りの特性があることは確かだから、暇があったらどんどん掘ってみようと思ってるんだ』
『体力もつくしいいんじゃねえか? じゃあ掘れ。どんどん掘れ』
『うん、そうする』
『スコップの劣化が早えかもしれねえな。今のやつもかなり頑丈に作ってあるつもりだが、壊れそうになったら言えよ。新しいやつを作ってやるから』
『わかった。父ちゃんありがとう』
神様と話したことや【スコップ】がレア加護だってことは、父ちゃんには話してない。
珍しいから何だと言われても困っちゃうし、ぼく自身もよくわかってないし。
チート加護だからよからぬことに巻き込まれるかも、みたいな物騒なことを神様が言ってたし。
どこまで他人に話していいものか、ぼくには判断が難しいんだよ。
聞かれたら穴掘りの加護だよって言うのが、当面の正解なのかなって気がしてるんだ。
役に立たない加護だと思われちゃうかもしれないけど、注目されるよりはマシなんじゃないかな。
でも父ちゃんは、ムダな加護なんてないと考えているんだって。
神様は無意味なことしないからって。
父ちゃんの考え方は立派だなあ。
だからぼくはどんどん掘るべきなんだ。
ここまでは何にも迷うことない。
レベルはあればあるだけいいと、神様は言っていた。
レベル〇の壁を突破しさえすれば、あとはトントン拍子にいくとも。
でもレベルを上げるなんて、王都の学校に通うまではムリじゃない?
マツモティー村近辺には弱い魔物が生息しているから、レベル上げも不可能じゃないはず。
でも誰もやらないところを見ると、無謀なんだと思う。
『いずれ【スコップ】の加護持ちに相応しいスコップを作ってやるぜ』
『父ちゃんありがとう!』
今のスコップも父ちゃんの作ってくれたやつだ。
これまで大活躍だったけど、確かにもっと大きいやつが欲しいかなってのはある。
でも慣れもあるしな?
まあいいや。
父ちゃんがいいように考えてくれるだろ。
聖見式から一夜明けた今日。
穴掘りを頑張るぞってことで、村外れに行くんだ。
村外れからは道が延びていて、お隣のティレニア王国まで続いているって言われているよ。
ただ魔物が出るので、北の街道が開通してからは全然用いられなくなっちゃったそうで。
つまり逆に言うと、村外れから向こうは誰も用がないところなんだ。
いくら穴を掘っても迷惑がかからないの。
気の赴くまま、思う存分に穴を掘れるぞ。
神様もぼくが掘りたいと思ったところを掘るとよいって言ってたしな。
頑張ろう!
さて、村外れまで来たぞ。
「門番さん、こんにちは」
村外れの道からちょっと歩くと森があるんだ。
そこまで行くと魔物の生息域って言われている。
だから注意喚起と魔物の警戒のため、村外れの境界には門番さんが常駐している。
「よう、ヒトシ。どうした」
「穴を掘りに来たんですよ」
「は?」
アハハ、村の門番さんもこれじゃわかんないよね。
昨日の聖見式で穴掘りの加護を授かってどうのこうの。
「ははあ、聖見式か。ヒトシも一〇歳になるんだな。おめでとう」
「ありがとうございます」
「【スコップ】の加護か。聞いたことねえなあ」
「地味ですよね。ただ加護を活かすために穴を掘らなくてはいけなくてですね。でも村中を穴だらけにするわけにいきませんから」
「なるほど、それで村外れまで来たってことか。ヒトシは真面目だな」
真面目というか。
神様も父ちゃんも掘れ掘れって勧めてくるから、ぼくもやる気になってるの。
「掘った穴は埋め戻しておけよ」
「はい」
「魔物の出る森までは絶対に行くんじゃねえぞ? 遠目でも魔物を見かけたらすぐ戻ってこい」
「わかってます」
門番さんに別れを告げて村の外へ。
森まで行かなきゃ、魔物は大丈夫だって言われてるもんな。
さて、どこを掘ってみようかな?
加護をもらう以前のぼくと何が違うんだろう?
ワクワクするなあ。
……何だろう?
無性に掘りたい気がする。
神様が言ってたことを思い出す。
『特にヒトシが掘りたいと思ったところを掘るとよいぞ』
これが【スコップ】の加護の効果の一つなのかな?
もっと向こうだ。
森の近くだけど、中には入らないから平気じゃないかな。
「ここか」
どういうことだろう。
周りとどこが違うってことじゃないんだけど、何かが埋まってる気がする。
【スコップ】の加護は、いいものが埋まってるとわかる加護?
単に掘るのがうまくなるとか早くなるということではなくて?
「でも……」
全然いいものだって感じがしないよ。
むしろものすごく禍々しいもののような気がする。
土の中に魔物が住んでるってことある?
警戒しなきゃいけないんじゃないかな。
いや、ぼくはここを掘ってみたいと思ったんだ。
【スコップ】の加護の効果なのだとすれば、掘らなきゃいけない。
それが神様の意思にもそぐうことのような気がする。
勇気を出せ、ぼく!
覚悟を決めてざくざくざくと掘ってみる。
特に加護を得る前と比べて、楽に掘れる気はしないな。
そんなにすぐ差を感じるものじゃないのかもしれない。
……でもある。
確実に何かあると感じるよ。
【スコップ】の加護って、何かが埋まっているのを感知することに関して敏感な加護なのかも。
掘り進めるにつれて嫌な気持ちが強くなっていく。
腰の深さくらいまで掘った時、それが現れたんだ。
「これ……か」
掘り当てたのは握りこぶしくらいの大きさの石だった。
何これ? ちょっとガッカリしちゃったよ。
ぼくはこんなもののために大穴を掘ったの?
【スコップ】の加護の効果、疑っていい?
まあいいや。
穴は埋め戻さないといけないんだったな。
掘るのよりはよっぽど簡単だ。
掘ったり埋めたりで筋力を鍛えられることはその通りなのだし、ムダってわけじゃない。
「さてと」
埋め戻し作業が終わったあと、掘り出した石をじっくり見てみた。
パッと見、何の変哲もない石だなあ。
でも何かムカムカする。
おそらくは【スコップ】の加護の効果なのだろう。
無性に掘りたくなったというのは、どう考えてもおかしい。
じゃあこれやっぱりただの石じゃないんだと思う。
ぼくはこの石をどうすべきなのかなあ?
何となく、本当に何となくなんだけど、掘り出さなきゃいけなかったものなのだと思う。
なのに役に立つもののような気がしないし、すごく嫌な感じがするんだ。
だったら……。
石を地面に置いた。
壊すべきものなんだ、きっと。
【スコップ】の加護に基づいた自分の感覚を信じろ。
だって神様にもらった加護だから。
スコップの尖ってるところで狙いをつけた。
妙な胸騒ぎは止まらない。
一つ大きく深呼吸して、気を静める。
怪しく禍々しい石に向けて、スコップを思いっきり振り下ろした。
カッと高い音が響いて、辺りに光が満ちて。
そしてぼくは気を失った……。




