第2話:神様に聞いたこと
家に帰ったぼくは、今日の聖見式のことを思い出していた。
司祭様に自分の加護に向き合えって言われたこともあったから。
聖見式は大人と認められ、加護を授かる日なので、多かれ少なかれ緊張するものなんだ。
やんちゃなやつは子供と思われて、加護をもらえないんだぜ、なんて大人に脅されるから特に。
もっとも加護をもらえないなんてウソだと思う。
加護を持ってない人なんていないから。
そう反論すると大人はニヤッと笑って言うんだ。
加護を持ってないやつは処分されちまうからな、って。
怖っ!
だからぼくもドキドキしていた。
司祭様に名を呼ばれて聖見の魔道具に触れ、光った時はすごく安心したよ。
ああ、ぼくは加護を授かった。
神様に認められたんだなあってわかったから。
でもその後の展開は予想外だった。
「……えっ?」
突然ぼくは知らない部屋にいたんだ。
いや、もう突然としか言いようがなかったね。
つい一秒前まで教会にいて、聖見の魔道具に触ってたよね?
ここはどこで、ぼくに何があったんだろう?
キョロキョロを周りを見渡した。
特に飾り気のある部屋じゃなかったけど、机と椅子は見たことないくらい立派なものだった。
重厚な感じ?
ええっ? 何だろう、この部屋は。
そして……。
「そこな童子」
椅子に座っていた、すごく奇麗で偉そうな女の人に話しかけられた。
何故かわからないけど、すぐに神様だってピンと来た。
「ぼくのことですか?」
「さようじゃ。戸惑わずともよい。今からわらわが全て説明する故な」
「はい、よろしくお願いします」
「わらわはこの世界を統括する神じゃ」
「やはり神様でしたか。ぼくはマツモティー村のヒトシと言います」
「うむ、知っておるぞ。いい子じゃの」
えへへ、神様に褒められた。
嬉しいな。
「本日はマツモティー村で聖見式じゃろう?」
「はい、そうです」
「ヒトシよ。そなたに加護を授けたので、わらわの元に呼び寄せたと思ってくれい。ヒトシの得た加護は【スコップ】じゃ」
「【スコップ】……ですか。ありがとうございます」
神様が大きく頷いているから、ぼくに合っている加護なのかもしれない。
でも【スコップ】の加護って聞いたことがないなあ。
「簡単に言うと、穴を掘るなどスコップを使うのに適した加護じゃな。そなたは幼い頃からよく穴を掘っていたじゃろう?」
「はい」
「今まで取っていた行動に即した加護を得られることが多いのじゃ」
父ちゃんに遊び道具としてスコップを作ってもらったから。
一人で落とし穴を掘る時も皆で秘密基地を作る時も、大活躍だったなあ。
それでぼくの加護は【スコップ】なのか。
納得だ。
「ではぼくは、穴を掘ることを生かしたお仕事をするべきなのですね?」
「む? スコップを使ってさえいれば、仕事などする必要はないと思うぞ」
「そうなのですか?」
「うむ」
どういうことだろう?
ちょっと意味がわからないけれど、普通に考えてスコップを使うのは穴を掘る時だよね。
そうだ、加護と真剣に向き合い、よく理解することが神様の御心に沿うことって司祭様が言ってた。
まあ神様のすることだから、ぼくにムダな加護をくれたはずがない。
これからは穴を掘ることに精進しよう。
神様が言う。
「【スコップ】は特殊な加護じゃからの」
「特殊な加護、ですか? 神様は仕事などする必要はないと仰っていましたが、そういうわけにもいかないと思うのです」
「ふむ、ヒトシは真面目じゃの。【スコップ】は……強いて言えば冒険者向きかのう」
冒険者?
ダドルも冒険者になるって言ってたな。
冒険者は薬草や素材なんかを得て売買する職業だから、魔物と戦うのが必須になると思うけど。
「【スコップ】はレベルアップに伴い、戦闘向きのスキルを覚える加護なのですか?」
「スキルは覚えるじゃろうが、加護には関係がない。いや、全く関係がないことはないか。説明が難しいの」
スキルを覚えることができるみたい。
これは嬉しいな。
でも加護には関係があるようなないようなってことなの?
えっ、でも加護に関係なくスキルを習得することなんかあるのかな?
あっ、だから説明するのが難しいってことなのか。
神様が顰め面をしていらっしゃる。
何か申し訳ないなあ。
「レベルが上がるほど、【スコップ】の効果が出やすいということじゃ」
「つまり掘りやすくなるんですね?」
「さようじゃ。しかしそれだけの加護ではないがの」
「ええと、レベルが上がるならば、冒険者でなくてもいいということですか?」
だったら王都の学校でレベルを上げたら冒険者になる必要はないのだけれど。
しかし首を振る神様。
「いや、初めは【スコップ】の価値に誰も気づかぬかもしれぬ。しかし【スコップ】のチート性能が知られると、よからぬ者に狙われることになるやもしれんでの」
「えっ?」
チート?
すごい加護ってことかな?
ならレベルだけではなくて、自分の身を守るための力が必要ということかも。
穴を掘る加護で戦闘力を得なければならないのは厳しいな。
いや、スキルは覚えると神様は仰っていたぞ?
じゃあ何とかなるのかな?
「とにかくレベルはあればあるだけいい。レベル〇の壁を突破しさえすれば、あとはトントン拍子にいくはずじゃ」
「わかりました」
「穴を掘るのじゃ。特にヒトシが掘りたいと思ったところを掘るとよいぞ」
「【スコップ】の加護を信じて掘ることが重要なのですね? 神様、ありがとうございます」
「うむ、期待しておるぞ。そなたのほうから質問はないかの?」
【スコップ】の加護については、掘れってこと以外何もわからないなあ。
でもスキルを習得できるみたいだから、それはかなり嬉しい。
もうちょっと詳しいことを知りたいけれども、神様でも説明が難しいみたいだ。
神様を困らせるのは恐れ多いことだし。
「神様はこうして、聖見式に参加するすべての子供に会っていらっしゃるのですか?」
「いや、さすがにそんなことはできぬ。レア加護の持ち主だけじゃ」
「レア加護?」
珍しい加護ってことかな?
【スコップ】って聞いたことのない加護だもんな。
「レア加護という範疇に分類される加護があるのじゃ。あまりあちこちに現れては困る類の加護じゃな」
「はあ」
「例を挙げると、【聖女】とか【剣聖】とかじゃ」
「ええっ?」
【聖女】や【剣聖】ってぼくも聞いたことがある。
お話に出てくるような超すごい加護だよね?
「ぼくの【スコップ】ってそんなに大変な加護なんですか?」
「加護など使い方次第であるぞよ」
その通りだ。
【聖女】は魔を祓って人々に恩恵を与えることができる。
【剣聖】は戦場での活躍が約束されてるような加護だ。
有名になっちゃう素地があるけど、絶対活躍するとは限らないもんな?
そしてぼくの【スコップ】は穴を掘るだけの加護か。
確かに珍しいのかもしれないけど、【聖女】や【剣聖】に比べればビックリするようなものじゃないな。
「レア加護の持ち主は数年に一人しか出ないものではあるがの。だから何だという考え方もできる。ヒトシはヒトシの人生を歩めばいいのだぞ」
「はい、わかりました。神様の言いつけ通り、レベルを上げられる機会を逃さないようにします」
「うむ、ヒトシはいい子じゃの」
ニコニコしている神様は美人だなあ。
「では現実の聖見式へ戻すぞよ。わらわと話していた時間はなかった扱いになる。聖見の魔道具に触れて光ったその瞬間に戻るゆえ、慌てるでないぞ」
「はい、ありがとうございました」
【スコップ】は神様がわざわざ会って注意してくださるくらいの加護だ。
用心するに越したことはないってことだな。
レベルが必要なら、魔物を倒さないといけないわけだけど?




