第1話:いきなり追放
ゼイパレス王国の端っこ、ぼくの住んでいるマツモティー村の教会でその事件は起きたんだ。
いや、事件なのかはよくわからないけど。
「おい、スコップ野郎。お前はオレらのパーティーから追放だ!」
村長の息子ダドルがニヤニヤしてるなあと思ったら、いきなりぼくは追放されちゃった。
ちょっとわけがわからない。
大体ぼくはいつダドルのパーティーに入ったんだっけ?
というかダドルはパーティーを組んでたんだ?
何のパーティーだろう?
ぼくには足りない情報が多過ぎるなあと、ぼんやり思った。
ダドルが苛立たしげに言う。
「おい、ヒトシ。何か言ったらどうだ!」
「ごめん、どういうことかわからなかったんだ。パーティーって何かな?」
ダドルとその取り巻きがまたニヤニヤしてるけど、ぼくにはサッパリ。
「今日の聖見式で各自のいただいた加護が判明したろう?」
「うん」
「ヒトシは【スコップ】の加護を授かった」
「そうだね」
一〇歳になる年に聖見式という行事があるんだ。
半分大人の仲間入りをするという重要な式で、『加護』を神様からもらえるということになっている。
実際には教会の司祭様と王都から来た聖見官様が魔道具を使って調べてくれるんだけど。
ぼくの場合は神様が直接……いや、何でもないよ。
『加護』はその人の持つ素質の傾向みたいなもので、人生に関わるの。
だからある程度分別のつく一〇歳になってからいただくんだって。
そして自分の『加護』を生かした職業に就く人はすごく多い。
例えばぼくの父ちゃんも、【金打ち】の加護を生かして鍛冶をしているんだ。
ぼくのもらった加護は、ダドルの言うように【スコップ】だよ。
簡単に言うと、ぼくには穴掘りに関する特性ありってことなんだけれど……。
ダドルが言う。
「ヒトシも王都の学校に入学したいって言ってたろう?」
「知らないことを学んで見聞を広めたいと思うし、父ちゃんもそれを望んでいるからね」
「当然レベルを上げたいと。確かそういう話も以前してたはずだ」
「してたね。ちょっと話しただけなのに、ダドルはよく覚えているなあ」
世の中にはレベルというものがあるんだ。
例えば魔物を倒すなどで得られる経験値を貯めれば上げることができる、個人の戦闘力の目安だよ。
実際にはレベルって戦闘以外の各要素にも関係してくるから、上げられる機会があれば遠慮するなと父ちゃんに言われてる。
でもなあ、魔物をやっつけるって大変なことでしょ?
経験値を得るのって、魔物を倒す以外ではほぼムリらしいし。
レベル〇とレベル一の間には大きな壁があるとされていて、もちろん魔物に勝った戦闘経験がないとその壁を突破できないんだって。
すごく大変なことだから、普通の人はレベル〇のまま暮らしているよ?
でもレベルが高いほど戦いには強いので、戦闘職の人はレベル上げが必須だけれども。
それに村長とかの偉い人は、皆レベル〇の壁を越えている。
壁越えの人は一目置かれるし、出世するためには必要なことなんだよね。
ぼくは出世したいってわけじゃないんだけど。
ダドルが胸を反らしているよ?
「お前の【スコップ】は穴を掘るだけの加護だ! 戦闘向きじゃない。だから追放だ!」
「つまりダドルは戦闘職に就くんだ?」
「ああ、オレは【剣術】の加護持ちだからな。冒険者になる! オレのパーティーにお前は必要ない!」
冒険者?
あれ? ダドルは村長を継ぐってことを考えないのかな?
村長は村人皆に尊敬されている人格者なのに。
「そもそもどうしてぼくはダドルのパーティーに入ってた設定なんだろう?」
「鈍いやつだな。王都まで行くのは大変じゃないか。学校に入学の年齢になったら、父が馬車を仕立ててくれることになっているんだ。ヒトシも仲間に入れてやろうと思ってた」
あっ、ダドルの親切だったのか。
いきなりの追放宣言だったから、嫌われてるのかと思ったよ。
「だが戦闘向きの加護でないお前よりも、有益な加護を持つ者がいることが判明した! そいつらを仲間にすることにする! だからお前の席はなくなった!」
「なるほど、馬車の席が埋まっちゃったと」
「正解だ!」
「ぼくのことを気にかけてくれていてありがとう。ダドルは優しいな」
「えっ? お、おう」
「入学まで二年ある。ぼくはぼくで王都を目指すから心配しないで」
「心配なんかしていない!」
そうか、ダドルはぼくのことを信じてくれているのか。
いいやつだったんだなあ。
知らなかったよ。
司祭様から声がかかった。
「聖見式はこれで終わりです。自分の加護と真剣に向き合い、よく理解することが重要だと考えてください。それが神の御心に沿うことですからね」
◇
「ぼくの加護は【スコップ】かあ」
「ヒトシ、一緒に帰ろ?」
「うん」
お隣に住んでいるパルだ。
パルは確か【料理】の加護だったな。
わかりやすい加護で、料理好きなパルにはピッタリだと思う。
「どうしたのヒトシ。考え事?」
「考え事……ってことではないかな。パルは可愛いなあと思っただけ」
「も、もう。ヒトシったら」
目を逸らすパル。
パルはちょっと癖のある栗色の髪とパッチリした目を持つ、幼馴染の女の子だ。
同い年の子の中では一番可愛いと思うけどなあ?
「ヒトシはやっぱり王都に行きたいの?」
「うん。父ちゃんにも勧められているし」
王都の学校に入学すると、サポートがついて簡単にレベル上げさせてくれるんだって。
魔物退治は命がけだから、レベル〇の壁を越えるために入学を目指す人が多いんだ。
もちろん結構な大金が必要なわけだけど。
でもぼくは父ちゃんに言われている。
『ヒトシ、おめえは王都の学校で学ぶんだ』
『何で?』
『レベルアップはロマンだぜ。父ちゃんの果たせなかった夢を掴むんだ。金ならある』
父ちゃんは鍛冶という身体を酷使する仕事だったから、レベルアップで身体能力が高まっていれば、と考えていたんじゃないかな。
恩恵をよくわかっていても父ちゃんにはレベルアップのチャンスがなかった。
だから息子のぼくにはレベル〇の壁を越えて欲しいんだろう。
ロマンなんて言葉で誤魔化してたけど、きっとぼくのことを考えてくれているんだ。
ぼくも父ちゃんの言う通りだと思う。
「ヒトシの【スコップ】は、レベルが上がってもスキルを得られる加護ではないのでしょう?」
例えばダドルの【剣術】の加護やあるいは魔法系の加護なんかの持ち主は、レベルアップに伴いスキルと呼ばれる技を習得できるんだ。
レベルアップの恩恵が大きいという言い方もできる。
「得られないと思う」
「それでも王都へ行くのね?」
「行く。王都へ行って学校に通うことは最初から決めてたから。レベルも知識も欲しいんだ」
「……そう。私も王都に行きたいなあ」
「えっ?」
パルが王都に?
意外だな。
「パルもレベルを上げたいの?」
「違うの。私は【料理】の加護を生かしたお店を将来やりたいと思ったの」
「うん、わかる」
パルの家は食事も提供する宿屋だから、当然料理にも馴染みもあるよね。
「王都なら目新しい料理を目にするチャンスもきっと多いでしょ? 絶対私のためになると思うから」
「そういうことか。パルは将来のことをちゃんと考えていて偉いなあ」
「……ヒトシについて行きたいし」
「えっ?」
「ううん、何でもないの。でも夢よね。王都で修行するなんて、すごくお金がかかるもの」
ぼくの場合は父ちゃんが心配するなと言ってくれているけど、お金のことは真剣に考えなきゃいけない。
ぼくももう一〇歳だものな。
パルも王都に行きたいってことは覚えておこうっと。
家に着いた。
そうだ、司祭様が自分の加護に向き合えと言ってたな。
「パル、またね」




