第38話:結末
――――――――――メイエスの冒険者ギルドにて。ザック視点。
「おっ、ヒトシじゃねえか」
「あっ、ザックさん」
冒険者ギルドにアイテムを売却しているヒトシがいた。
ヒトシも嬉しそうだ。
ハハッ、可愛い弟子だぜ。
「メイエスに来てたのか。その後マツモティー村はどうだ? 問題ねえか?」
「そのことなんですけれども。ゼイパレス王国と隣国ティレニアの戦況はどうなっているのかなあと、不用品を売りがてら情報を得ようと来てみたんです。そうしたらまだ戦端が開かれていないと聞きまして」
戦況だあ?
田舎のマツモティー村にまでまだ情報が伝わってるはずがないのに、ヒトシは戦いがあったことを確信している。
ということはつまり、例の旧道からマツモティー村に別動隊がもう攻め込んできたんだな?
そしてその話をしないということは、ヒトシは一人で追っ払ったんだろう。
できるやつだな。
あとで聞かせろ。
受付の姉ちゃんが言う。
「両軍が国境付近で布陣を開始し、睨み合っているということまでは聞いています。それ以上のことはメイエスに情報が入ってきてはいませんが……」
「事態は急転直下。序盤の小競り合いのみで講和して休戦になったんだ」
「「えっ?」」
「おそらくすぐに正式に終戦ということになると思う」
姉ちゃんもヒトシもポカンとしてるわ。
まあ何のためにティレニア軍が出張ってきたのか、意味不明だもんな。
姉ちゃんがさらに言う。
「どちらの国から手打ちにしようという話が出たのですか?」
「ティレニアからだ」
「ですよね。ゼイパレスは兵の集結が間に合わず、不利な展開になるんじゃないかと言われていましたので。ゼイパレスが戦争やめましょうって言っても、ティレニアは聞きませんよね?」
「まあな。とにかく行き違いがあったようだが休戦にしようと、ティレニアから申し入れがあった。兵力に不安があったゼイパレスは喜んで受諾した。両軍は既に撤退を開始している」
「よかったですね。しかし急に戦争がなくなった理由は何なのです?」
熱心な姉ちゃんだぜ。
ギルドとしては情報を収集しておきたいんだろう。
ヒトシも黙って聞いてるな。
ここは勉強になるところだ。
「斥候がもたらした情報によると、どうやらティレニアで内乱が起きたか、ないしはこれから起きるということらしい」
「えっ、内乱……ですか?」
「残念ながらオレが知ってるのもそこまでなんだ。ティレニア国内での民衆の不満がかなり高まって蜂起したのか。あるいは王家に反抗的な領主貴族が挙兵するのか。そんなところじゃねえの?」
まだ情勢は流動的だ。
ただティレニア軍が大慌てで撤退していくのは見ているから、ティレニア国内で何かが起きてるのは間違いない。
ゼイパレスにとっては僥倖と言うべきか、もっと情報を得るのが早かったらティレニアを叩き潰すチャンスだったというべきか。
いや、戦争なんてそう思った通りにいかねえもんだ。
欲をかくとロクなことにならねえ。
ゼイパレスの対応が遅れたにも拘らず、ほぼほぼ無傷だったことに満足しようじゃねえか。
「追って軍から正式な報告が届くはずだ。そうしたら近隣の村にも伝えてくれ」
「わかりました。そうギルドマスターに伝えておきます」
「さて、ヒトシ。マツモティー村に行こうぜ」
「はい」
お前のほうの話を聞かせろ。
北の街道は肩透かしで面白みがなかったからな。
◇
「ふうん、冒険者らしき者が二〇人が攻めてきたか」
マツモティー村への道中、ヒトシの話を聞きながら行く。
いや、オレも休戦もしくは停戦まで、特に各地の冒険者ギルドに情報を回す連絡員として働けっていう契約だったからよ。
いきなり暇になって戸惑っちゃいる。
金は王都で受け取りになっているが、何せ働いた期間が短かったから端金だ。
受け取りなんかいつでもいい。
ルルイフのじーさんの見解も聞きてえよ?
ただしばらくヒトシと遊んでいくのもいいと思ったんだ。
どれくらい成長しているかも見たいしな。
「はい。一番レベルの高い人で二〇を超えたくらいでした」
「なるほど。しかしそれくらいならヒトシと精霊獣がいれば敵じゃねえだろ?」
「イヌを連れてきたんですよ」
「イヌ?」
「特別に訓練されたイヌが二〇匹です。イヌのレベルも全て二桁以上で」
「おいおい、軍用犬かよ」
軍用犬を使ってゼイパレス西部の集落群を混乱させる算段だったのか。
思ったより凝ったことしてきたな。
ヒトシがいなかったら、陽動として完全に機能してたんじゃねえか?
危なかった。
ティレニアにも知恵の回るやつがいるな。
「イヌは鼻が利くって言いますから、ぼくの<ステルス>の効果が削がれるかと思ったんですよ。そうすると奇襲しづらくなっちゃうかなと」
「確かにな」
「結局イヌはぼくのスコップ土くれショットとソラの<トルネード>で大体片付いたんですけど」
「おう、範囲風攻撃魔法か」
ヒトシは簡単に言ってるけどよ。
複数を相手にする攻撃を連続で食らうなんて、滅多にねえからな?
低レベルが相手じゃほぼ無敵だろ。
つくづくすげえ。
「やっぱり人間は難しいです。スコップ土くれショットを撃つ直前に『全員防御』って声が飛んだんです」
「レベルの高い<察知>持ちがヤバさに気付いたか」
「はい。ソラの二発目の<トルネード>も対抗する呪文を唱えられて無効化されちゃいました」
「<トルネード>を無効化できるほどの魔法使いが敵にいたのかよ?」
「そうなんですよ」
敵の指揮官も必勝を期してたんじゃねえか?
ヒトシがいて災難だったな。
同情するぜ。
「で、予定通り撃退したと」
「はい。すっと引いてくれたので助かったです」
「まあ予定外の攻撃食らってイヌも使えなくなった。手持ちの薬もかなり消費しただろうしな」
「一応ソラには警戒を続けてもらっているんですけどね。戦争が終わったのなら、もういいのかなあ?」
「……いや、ティレニアの混乱は続くと思うぜ? 元々軍と冒険者は命令系統が別なんだろうからよ」
「あっ? ティレニア国内の統制が行き届かなくなると?」
「冒険者……とは限らねえな。傭兵やらならず者やら難民やらが、旧道から流入してくる可能性はあるだろ」
ティレニア軍が慌てて帰ったくらいだ。
何が起きるかわからねえ。
「わかりました。もうしばらくソラに偵察してもらいます」
「それがいいぜ。ただ今度来るやつらは必ずしも敵じゃねえ。移民や亡命の希望者かもしれねえからな」
「あ、そうですね」
確認するように頷くヒトシ。
いや、いい経験させてもらってると思うぜ?
ヒトシはツイてる。
「それとこれはまだ決定じゃねえんだが、講和の条件にティレニアからゼイパレスへ、領地の割譲が盛り込まれてるんだ。そのまま決定する可能性が高い」
「割譲?」
「領地を譲るってことな」
「ええと、どこをですか?」
「ティレニアとゼイパレスの国境の山の中辺り」
ヒトシが唖然としてるわ。
「何にも使われていない場所ですよね? 魔物もいるし」
「そうだな」
「意味があるんですか?」
「実際にその近くに住んでる住民にとってみればねえかもしれねえな。ただ国にはメンツってものがあるだろ?」
「メンツ?」
首かしげてら。
素直なヒトシはあまり考えないことかもな。
「領地を得ればゼイパレスとしては面目が立つってことだよ。それがたとえ役に立たない土地だったとしてもな」
もっともこれまで役に立ってこなかったとしても、今後ずっとそうとは限らねえわけだが。
「マツモティー村の村長には西部領有化がおそらく実現するってことは、オレから伝えておく」
「お願いします」
「何にしてもヒトシはよくやったぜ」
ハハッ、喜んでやがる。




