最終話:未来への帰り道
――――――――――宿屋の娘パル視点。
「では今日の勉強はここまでにしましょう」
「「「「「ありがとうございました」」」」」
今日の村長さんの家での勉強は終わりです。
読み書き計算と一般常識はかなり身についたんじゃないかなあ?
身についているといいなあ。
ヒトシは私が勉強してると、眉に皴が寄ってるって笑うのよ?
でもそんな私も可愛いって言ってくれるの。
もう、ヒトシったら。
ポッ。
「パル、帰ろうか」
「うん」
「おい、ヒトシ。ちょっと待ってくれ」
「ダドル? 何かな?」
村長さんの息子ダドルと、その取り巻きのホリノとカズです。
何の用かしら?
「お前も王都の学校に通うんだろう?」
「もちろんそのつもりで勉強しているよ」
「もう入学まで一年を切ったが、どこの学校に入学する予定なんだ?」
「あっ!」
そうだ、ダドルは前もヒトシがどこの学校に行くのは知りたくて、私に聞いてきたじゃない。
「ごめんね、ダドル。私、ヒトシに聞くのを忘れていたわ」
「い、いや、いいんだ」
「どうしてダドル達はぼくがどこの学校へ行くのか知りたいんだろう?」
「そりゃあ気になるじゃないか」
「僕とカズは冒険者学校に行くんだ」
「へえ、ホリノとカズは冒険者学校か。マツモティー村はすぐ近くに魔物のいる森があるでしょ? それなのに門番さんしか抑えの人員がいないのは、ちょっと問題があるなあと思っていたんだ」
私も同じことを考えていたわ。
皆が頷いてる。
「ホリノとカズは偉いなあ」
「ガンガン魔物を倒してるヒトシの意見を聞きたい。ホリノとカズが冒険者になったとして、マツモティー村で生計が成り立つと思うか? それとも例えばメイエスとかの、冒険者ギルドのある町で活動するのがいいのか?」
「……スタンスによると思う」
「「「スタンス?」」」
どういうことかしら?
ヒトシも真剣ね。
「ぼくはメイエスの冒険者ギルドに登録しているんだ」
「えっ? 知らなかった」
「それでマツモティー村では処分しきれない魔物素材とか薬草とかを、時々メイエスの冒険者ギルドで売却してる。そういうやり方ならばぼくの経験上、十分に暮らしていけるんじゃないかな。ただ……」
「どれだけ魔物を倒せるかに依存するってことか。ヒトシみたいに遠距離から複数の魔物を倒せるなら楽勝だろうが」
「持ってるスキル次第だよね。冒険者が副業ならばマツモティー村でいいと思う。本業ならメイエスみたいな情報も依頼も多い町に住むほうが、身を立てやすいかもしれない」
そうよね。
ヒトシはホイホイ魔物を倒してるみたいだけれど、あのスコップの技で遠くから攻撃できるからなのね。
ヒトシすごい。
ホリノとカズが口々に言います。
「ヒトシ、参考になったよ」
「冒険者学校を卒業したら、メイエスで修行するのがいいかもなあ。オイラはそうしよっと」
「この前ダドルは王立アカデミーに行くかもって言ってたのよ」
「えっ? ダドルは剣術学校に通うものだと思い込んでたな」
私もそう思ってたわ。
ダドルは【剣術】の加護持ちだものね。
「父上に勧められてな。高度な教育を受けられるという面でもいい人脈を構築できるという面でも、王立アカデミーがベストだと」
「ぼくも王立アカデミーに入学予定なんだ。よろしくね」
「「「「えっ?」」」」
ヒトシは王立アカデミーに入学するの?
ゼイパレス王国で一番の学校でしょ?
そんなこと一言も言ってなかったじゃないの!
「ダドルと一緒だと心強いよ」
「待て! 王立アカデミーの受験資格は、ある程度の者以上の推薦が必要なんだぞ?」
「聖見官様に口を利いてもらったとか?」
「そうではないんだけれど、ザックさんの関係で知り合った人に感謝されるってことがあってさ。お礼として入学試験と授業料なしの特待生で入学できるようにしてくれるって言われたんだ」
「おい、ズルいじゃないか!」
「そう言われても」
ヒトシが困ったような顔をしているわ。
でもヒトシが余裕があったのは、王立アカデミーに入学できることが決まっていたからなのね。
あっ、村長に勉強を教えてもらおうとしていたのも、それが前提だったのかしら?
ダドルが怒っています。
「ヒトシの心配をしていたオレがバカみたいじゃないか。入学願書の締めきりとか!」
「ぼくの心配をしてくれていたのか。ダドルはいいやつだなあ」
「ヒトシの師匠のザックって冒険者、すげえんだな?」
「うん。いろんなことを教わっているんだ。ただ王立アカデミーに関しては完全なラッキーだったけど」
ラッキーと言えば、ヒトシは聖見式で【スコップ】の加護を授かって以来、ずうっとラッキーなんじゃないかしら?
いえ、努力しているからね。
様々な事件が起きて、力をつけて、認められて。
傍から見るとラッキーという状況なのでしょうね。
「でも願書って言われて気付いたよ。ぼくの入学の扱いってどうなってるのか、一度アカデミーに確認してみなきゃいけなかったな。ダドル、ありがとう」
「お、おう」
「じゃあね。ダドル、ホリノ、カズ」
「「「またな」」」
「パル、行こうよ」
「うん」
ヒトシと手を繋いで帰ります。
皆将来を真面目に考えてるんだなあ。
私、漠然としか考えてなかった気がする。
こんな気持ちで王都に行っていいのかしら?
「パルは王都に行って、どこで暮らして何をするという具体的なプランとかあるの? 料理について見聞を広めたいとは聞いているけど」
ドキッとしました。
私は能天気だったなあと反省しかけたところだったから。
「何も考えていないのよ。アルバイトして暮らそうと思ってるんだけど」
「王都は何でも高いそうなんだよ。例えば宿の泊り賃でも」
「そうなのね?」
じゃあやっぱり王都に行くなんてムリかなあ?
お父さんとお母さんは、お金を自分でどうにかできるなら行ってもいいって言ってたんだけど。
「じゃあぼくと一緒に聖見官のルルイフ様のところでお世話にならない?」
「えっ?」
聖見官様?
どうして?
「ザックさんによると、ぼくは珍しい加護持ちだからルルイフ様が気にしてくださっているそうで。学校通うために王都に行ったら面倒を見てくれるんだって」
「で、でもわたしは関係ないじゃない」
「パルのことも話したんだ。そうしたらザックさんは、『一人くらい増えてもじーさんは気にしねえよ』って言ってた」
「嬉しいわ!」
ヒトシと一緒に暮らせるのね?
お金のことも解決できそうだし、何とかなりそう。
「ありがとう、ヒトシ。私のことを気にしてくれていて」
「ええ? パルのことを気にするのは当然じゃないか。幼馴染なんだし」
ニコニコしているヒトシは素敵だわ。
意外と先のことまで考えているし。
「もしお金のことで困ったら、必ず相談してね。ぼく今結構稼いでいて、貯えもかなりあるから」
「ヒトシこそアカデミーはお金かかるんでしょ? いかに特待生と言っても、周りは貴族が多いはずだし」
「そうなんだよ。おまけにアカデミーはアルバイト禁止みたいで。でも何とかなりそうだから、ぼくは大丈夫」
ヒトシが大丈夫と言うなら大丈夫なのでしょうね。
「いずれにしてもぼく、近い内に一度王都へ行ってくるよ。聖見官ルルイフ様にもパルのことを確認してくるね」
「うん、わかった。ありがとう」
ヒトシは頼りになるわ。
握る手に力を込めて。
帰り道がどこまでも続けばいいのにと思ったの。
「ねえ、ヒトシ」
「何かな?」
「いえ、何でもないの」
「え? どうしちゃったの? 今日のパルは変だなあ」
変ではないのよ。
珍しく真面目に考えているだけ。
ヒトシとともに歩む道。
将来のことなんてわからない。
分岐のない道なんてないのでしょうけれど、同じ方向に進めるといいと思うのです。
一応これで第一部は完結です。
主人公ヒトシがどういう子か、その強みと弱みをわかっていただけたのではないでしょうか。
機会があれば第二部アカデミー編を書きますね。
どう思われたか下の★~★★★★★で評価してもらえると、励みにも勉強にもなります。
よろしくお願いいたします。




