第37話:門番に報告
「門番さん、ただいま」
「おう、ヒトシか。今日は随分遅かったじゃねえか。何してたんだ?」
「ティレニアのおそらくは冒険者が攻めてきたんですよ。相手してました」
門番さんの顔が険しくなる。
<ガイド>アリスと相談して、門番さんだけには話しておこうってことになったの。
門番さんはぼくを理解してくれているし、きっと適切な判断をしてくれると思うから。
門番さんには甘えっぱなしだなあ。
角ウサギやワイルドボアだけじゃなくて、今度は魔熊の肉もプレゼントしようっと。
あんまり遭遇しない魔物だけど、旨みの強い肉質なんだ。
「……ヒトシ一人でかよ。無茶すんなよ」
「無茶ではありませんでしたよ。ソラもいますし、スコップ土くれショットを生かせる場面でしたし」
「まあいい。ヒトシは慎重だしな。結論から話せよ」
「追い返しました。逃げる敵をまだソラにチェックさせていますが、そろそろ戻そうと考えています」
「問題ねえんだな?」
「今日のところは、ですね」
表情が緩む門番さん。
心配かけちゃったかなあ?
申し訳ないよ。
「さて、じゃあヒトシの武勇伝を詳しく聞こうか」
「武勇伝だなんて」
「おそらくは冒険者か。まあ正規兵は来ねえわな。何人いたんだ?」
「およそ二〇人ですね」
「おう、そうだな。それくらいはいるわな」
「一人一匹ずつイヌを連れていたんですよ」
「イヌだと? 軍用犬か?」
「はい、多分。イヌも皆レベル二桁はありましたから」
「マジかよ。えらく面倒なことしてきたな……」
確かに。
人間相手とはまた違った注意が必要だなあと思った。
勝ったから言えるのかもしれないけど、いい勉強をさせてもらったと思う。
「どうやって撤退に追い込んだ? 例のスコップで土飛ばす技だけじゃ難しいだろう?」
「ソラは<トルネード>という範囲風攻撃魔法を使えるんですよ」
「そうか、精霊獣だもんな。魔法は得意なのか」
「ぼくと交互に攻撃を浴びせました。イヌはそれだけでほぼ全滅でしたね」
「ハハッ、そりゃあ堪らねえな!」
本当はもうちょっと複雑だったけど。
ぼくが<威圧>を使えるということは門番さんにも隠しておきたいんだよな。
<威圧>はレベル三〇の自然習得だから、レベルがバレちゃう。
「人も殺してるのか?」
「いや、向こうに回復魔法の使い手がいたんですよ。撤退に追い込むのが精一杯でしたね」
「おいおい、向こうさん魔法使いがいたのかよ。よく勝てたな? いや、どうせヒトシのことだから、正面から戦うなんてしてねえよな?」
「不意打ちですね」
「じゃあ一方的にやりたい放題か」
「幸いなことに今日はそうなりました」
「……レベル二桁の軍用犬なんてものを村に放たれたら、どんだけ被害が出たかわからなかったぜ。ヒトシ、お手柄だった」
敵が撤退してからアリスにも言われた。
軍用犬を駆除できなかったら大変な被害が出た可能性があるって。
そうだよなあ、機動力のあるレベル二桁の魔物みたいなものだものなあ。
人間と違って聞く耳持たないから、残忍だと思う。
「イヌを連れてきたってことは、完全に嫌がらせ目的の陽動だな。旧道を利用して攻め込んできて、マツモティー村他のゼイパレス王国西部地方を占領するという考えは、ティレニアにはねえってことか」
「門番さんはそんなこと考えてたんですか?」
「なくはないだろうと思ってたぜ。まああの道を見ちまうとそんな気は起こさないんだろうけどよ」
この前のダドル達がさらわれ損なった事件で、犯人は旧道がどんな様子か、地図上でしか知らないようだった。
となるともっと大規模な軍を送り込んでくる計画が立てられていてもおかしくなかったってことか。
戦闘員じゃない、土木系の加護の持ち主を大量に動員することだってあり得るもの。
突貫で道を整備したり前進基地を作ったりして、占領を目指す作戦もないことはなかったんだなあ。
北の街道に展開すべきゼイパレス王国軍主力をこっちに割くことになっただけで、ティレニアにとっては成功なんだから。
まだまだぼくは考えが足りないや。
「門番さんはどう思います? その、この後の展望というか」
「つまりティレニアが再び旧道を使って攻めてくるかってことか?」
「はい。ソラの攻撃を見せちゃったので、今後は敵もソラの監視に気付くと思うんですよ」
奇襲のつもりで侵攻したであろうティレニア軍が、なすすべもなく敗れた。
逆にゼイパレスからの侵攻を警戒して、ティレニア側からの不用意な行動は控えるのではないかと、アリスは言っていた。
ただアリスの意見は一般的知識とぼく自身の経験に基づいているからな?
足りない部分もあるんじゃないかって気がするんだ。
ぼくの経験が少ないから仕方ないんだけど。
門番さんがどう考えているか知りたい。
「もう攻めてこねえんじゃねえか? 少なくともすぐに再戦なんてことはねえよ」
「どうしてです?」
「軍用犬なんてものを育てるには時間がかかるからだな。ティレニアの山越え軍は、もう一〇〇%陽動ってことで間違いねえだろ?」
「そうですね」
「じゃあ作戦上軍用犬は重要な存在だったのに違いないぜ。それが何の働きもできねえままヒトシに潰されちまった。次の軍用犬なんて手配できねえだろ。目的を達することができない侵攻なんて、やけっぱちでもない限り考えられねえな」
うんうん、門番さんも攻めてこないだろうっていう考えか。
ちょっと安心できるな。
「もう一つ。冒険者は基本的に個人事業主だろ?」
「えっ、個人事業主。どういう意味です?」
「組織の一員として給料をもらってるんじゃなくて、独立で生計を立ててるってことだよ」
「ええと?」
「わからねえか。給料もらってると雇い主には逆らえねえもんなんだよ。だから国に雇われてる兵士は国の言うことを聞かざるを得ない」
「なるほど?」
冒険者は国に雇われてるわけじゃないから?
「いや、ヒトシが相手した冒険者達も、ティレニア王国の要請を受けて攻め入ったに違いないんだけどよ。兵士より命令に強制力はないんじゃねえかってことよ」
「はあ……」
「ならばヒトシにボコボコにやられて実入りがねえんじゃ、もう一度攻め入ろうなんて思わねえんじゃねえか? 金をチラつかされても、勝てる算段がつかねえとやる気にならねえだろ。ケガだの人数が揃わねえのと、何だかんだ理由つけて引き延ばしてサボタージュするわ。俺ならな」
ふうん、そういう理屈もあるのか。
勝てる戦以外はやらないというのはその通りだなあ。
今回はぼくの側の作戦が完全にハマった形になったから、向こうも何されたかよくわかってないんじゃないかな。
特にぼくのスコップ土くれショットについては。
じゃあ敵は慎重な出足になるな。
ここまでは間違いなさそう。
もう一度来るとするなら、かなりの作戦を立てて人数をかけてくるだろう。
そうなると大変だけど……。
「おい、ヒトシ。何考えてるんだよ。大勝利なんだろ?」
「まあそうですねえ。でも次の備えがいるのかと」
「精霊獣による偵察は必須だな」
「はい」
「これ独立の作戦じゃねえだろ? 街道沿いの会戦が前提なんだから。主力同士の戦いがどうなってるかは気になるな」
「そういえばそうでした」
すっかり忘れてたなあ。
主力同士の決戦で勝負がつけばそれでお終いだった。
「ヒトシはメイエスにしょっちゅう行くんだったな?」
「はい、時々」
「近い内に様子見てこいよ。冒険者ギルドなら情報入ってるに違いねえだろ」
「明日行って聞いてきますよ」
「おう。俺は村長だけにティレニアが旧道通って侵攻してきたことを話しておくからな」
さて、街道の戦いはどうなってるのかなあ?




