第35話:戦え!
(ホー)
(もうすぐ敵軍が来るんだね? ソラはそのまま旋回)
(ホー)
おそらくは冒険者と軍用犬の混成部隊と思われる敵のティレニア軍が、休憩を終えて森に入ってくる。
もう少し森の中に引き込んで叩くつもりだったんだけど、鼻の利く軍用犬がいるってことなので作戦を変えた。
ぼくの<ステルス>の効果が小さいと思われるから。
森の入り口付近の見通しのいいところなら、ソラの全体攻撃魔法にも期待できる。
……ソラの存在がバレると偵察も警戒されそうなんだよなあ。
だから本当はソラに攻撃魔法なんか使わせたくないけど仕方がない。
出し惜しみしてる場合じゃないんで、全力でいく。
ザックさんは言っていた。
『よく知らねえ地の行軍はまとまって歩くのがセオリーだ。しかし敵が複数をいっぺんに攻撃する手段を持っているとわかったら、必ず散開する。ヒトシのスコップ土くれショットが最大限の効果を発揮するのは初撃だぜ。忘れんなよ』
ぼくのスコップ土くれショットとソラの範囲風攻撃魔法<トルネード>を両方浴びせれば、ほとんどの敵を戦闘不能にできるんじゃないかな?
そんなに都合よくいくって思っちゃいけないのかもしれないけど。
とにかく初撃にありったけの力を注ぐ、と。
来たぞ来たぞ。
風向きが逆だからイヌ達も気付いてない。
こっちの威力も劣るかもだけど。
引きつけて……。
「全員防御!」
えっ? 全員防御?
ぼくの攻撃が<察知>されたみたい。
高レベルの人がいるとやりにくいなあ。
でも渾身の力をこめてスコップ土くれショット!
「ぐあっ!」
「きゃんきゃん!」
よし、敵が混乱している隙に<ステルス>で移動。
そこへソラの範囲風攻撃魔法<トルネード>が炸裂!
チラッと見たらイヌは随分やっつけられた。
でも人間は皆立ってる。
さっきの『全員防御』っていう掛け声が効いてるみたい。
死角からもう一度スコップ土くれショット!
「く、くそっ!」
「いた、あのガキだ!」
見つかった。
が、再びソラの<トルネード>!
「<ウインドレジスト>!」
防がれた!
敵に魔法使いがいる!
(アリス、<ウインドレジスト>ってどんな魔法?)
『風属性攻撃に対する強力な防御魔法です』
(ということは、完全に攻撃が読まれたな)
今日の敵は随分と手強いなあ。
ソラは風魔法以外の攻撃魔法もスキルストーンから習得させているけど、単体攻撃ばっかりなんだよな。
範囲魔法は<トルネード>以外に使えないの。
あっ、弓を持ってる敵がいる。
(ソラ、こっちへおいで)
(ホー)
うわ、レベル高い人が駆け寄ってきた。
多分敵のリーダー。
何でぼくよりレベル低いのに足速いんだろ?
一人ならソラと迎え撃つ!
(ソラ、わかってるね?)
(ホー)
「<威圧>!」
ソラとダブルで<威圧>を浴びせた。
よし、怯んで無防備になった。
チャンス!
「<モノボルト>!」
「ホー!」
「ぐあっ!」
ぼくの接触電撃魔法とソラの氷攻撃魔法<アイスバレット>がまともに入った!
「ニック!」
ニック、このリーダーっぽい人の名前かな?
三人女の人が来る。
矢をスコップで弾いたら、結構な衝撃があった。
何でこんなに威力があるんだろ?
アリスが答えてくれる。
『おそらく威力を増すため、矢に付与魔法がかけてあったものと思われます』
(そんなことがあるのか)
そうだ、付与魔法の存在は知っていたのに、手持ち武器にかけることばかり考えていたな。
当然飛び道具に魔法を付与することだって考えられるじゃないか。
うっかりしていた。
まだまだぼくには知らないことが多い。
経験不足だなあとつくづく思う。
(ここは逃げるべき局面だよね?)
『はい。姿を晒しては<ステルス>の効果がありません。ヒトシ様の強みを生かせませんので、一旦撤退すべきです』
(うんうん。戦いの基本は自分の強みを押しつけることだったね)
『さようです。敵方のイヌはあらかた片付いています。ここで一旦姿を消せば、再び<ステルス>で敵の不意を突ける可能性が高いです』
(了解。例の作戦で)
<ステルス>を発動する。
まともに見られてるのに存在感を薄くしたって意味がないだろうって?
目の前の敵に対してはそうなんだけど。
スコップ土くれショットで、あらかじめ見つけておいたキラービーの巣を攻撃!
ぼくはスタコラサッサと逃げちゃう。
「き、キラービーよ!」
「助けてくれえ!」
後ろから動揺する声が聞こえる。
キラービーはハチの魔物だよ。
怒らせなければそう向かってくる魔物じゃないんだけど、当然巣を攻撃されればメッチャ怒る。
ハチとしては大きいけど、他の魔物と比べればずっと的が小さいから攻撃が当たりづらいの。
しかも飛んでるし群れてくるし強毒持ちだし、かなり対処の難しい厄介な魔物なんだよ。
ぼくには<威圧>があるし、スコップ土くれショットを連打して弾幕を張るという手段があるよ?
でもレベル一〇~二〇くらいの傭兵や冒険者では、キラービーに対する有効な手段を持ってないんじゃないかなあ?
向こうで何とかできるのは魔法使いのお姉さんくらいじゃない?
やり方がひどい?
戦争だもの、仕方ないと思うよ。
これくらい距離が開けば平気だろ。
<察知>や<直感>でも、特に何も感じない。
後ろを見たけど、まだキラービーとじゃれてるっぽいな。
もう全然大丈夫だ。
歩を緩める。
(アリス、ソラ、御苦労様)
『まず初戦は完勝と言っていいでしょう』
(ホー)
(うん、ありがとう。これからどうしたらいいかな?)
最初の予定では<ステルス>からの奇襲で少しずつ削っていこうとしてたんだ。
使いものになるイヌはもういないんじゃないかな?
イヌに回復魔法や魔法薬を使わないとするならばだけど。
だとすると<ステルス>奇襲はかなり有効な戦法だと思われる。
もっともぼくのスコップ土くれアタックも一度見せているから、対応はしてくるだろう。
例えば<察知>持ちのリーダーの命令に即応して、盾みたいな遮蔽物で防ぐとか。
だから初戦みたいな大きな効果は期待できないんじゃないかな?
でも<ステルス>からの奇襲を完全に防ぐことはできないと思う。
もう一つの有力な選択肢としては、村まで戻るというものがある。
敵軍が攻めてきたことを門番さんや村長に伝え、迎撃態勢を整えるというものだね。
負けがたい作戦ではあるけど、村人に被害が出てしまうかもしれない。
アリスはどう判断するだろう?
『ソラを偵察に出しましょう。それで敵軍は撤退すると思われます』
(えっ? 何で?)
ちょっとわからないんだけど。
でも撤退してくれるならそれに越したことはないな。
『初戦で大ダメージを受けた敵軍は、相当士気が落ちているかと思います』
(うんうん)
『実は我が軍にとって最も困るのは、敵軍が侵攻速度を上げることです。これをやられると、ヒトシ様が奇襲をかける機会が少なくなり、また後手に回ることも考えられます』
(急いで村に報告しないといけなくなりそうだよねえ)
『ところが国境の柵のスキルストーンの仕掛けに気付いているとすると、この先どんな罠が仕掛けてあるかわからないと、敵軍指揮官は考えます』
(となると注意して進まざるを得ない?)
『はい。そこでソラが悠々と姿を見せていると、敵はそちらにも注意を割かざるを得ません』
(なるほど。敵はソラと罠とぼくの奇襲を意識しないといけないから)
『手持ちの魔法薬のストックも少なくなっているだろう現状で、これ以上攻め入るのはムリと考えるのではないでしょうか?』
心理面からの揺さぶりか。
勉強になるなあ。
(よし、ソラは上空からこれ見よがしに挑発しててね。矢を射てくるかもしれないから用心するんだよ)
(ホー)




