第34話:国境の罠
(ホー、ホー!)
昼食後、いつものように村外れから森へ来たところで、ソラから緊急の連絡が入った。
緊張しちゃダメだ。
わかってたことだもんね。
平常心平常心。
(ついにティレニア軍が来たんだね? 今どの辺にいる?)
(ホー、ホー)
(もうすぐ国境に達するか。了解)
ソラは国境を越えてティレニア側までチェックしてくれているんだ。
ぼく達の有利な点だね。
(何人くらいいるかな?)
(ホー)
(二〇人くらいか。うん、大体予想通り)
二〇人もいるなら下見じゃないな。
いよいよ侵攻で間違いなさそう。
でも数十人規模じゃないかって言われてたから、もっと多いことも考えられた。
ちょっと安心。
追加で人数をかけてくることもないではないけど……。
『戦力の逐次投入は兵法の忌むべきところだぜ。もしマツモティー村が本当に攻められるなら、効果を最大限にするために最初から全力で来る。もっとも敵にそこまでの戦略眼があるかわからねえから、絶対とは言えねえけどな』
ザックさんがそう言っていた。
敵軍が増える可能性は低いと。
あくまでも北の街道での決戦に力をかけたいんだものね。
全体の勝敗に影響しない陽動作戦なんかに兵力を割くのは正しくないと、ぼくでも思う。
(ホー)
(一番レベルの高い人は二〇を超えてるんだね? 多分その人がリーダー? <察知>を使える強敵だね)
(ホー、ホー)
(えっ、イヌを連れてる? 一人一匹?)
ちょっとわけがわからない。
何でわざわざイヌなんか連れてきたんだろ?
こういう時は<ガイド>アリスに質問だ。
(アリス、どういうことだろ?)
『軍用犬かと思われます』
(軍用犬?)
『戦闘のために特別に訓練されたイヌです。敵軍が冒険者で構成されているとすると、魔物退治にも同行しているのだと思われます』
予想外なことをしてきたぞ?
ティレニアでは魔物狩りにイヌを使うものなのか。
(……とすると、イヌもそれなりにレベルが高かったりする?)
(ホー)
(イヌも全部レベル二桁か)
『シャドウウルフと比較してよほど手強いと見なければいけませんね』
(どう手強いだろう?)
シャドウウルフはレベル五、六くらいだと思う。
単純に今日のイヌのほうがレベルが高いってことはわかるけど。
『人間の命令に対して従順だと思います』
(うんうん、複雑な連携を取ってくるかもってことだね)
『イヌは嗅覚が鋭いです。<ステルス>で潜伏していても気付かれるかもしれません』
(うわ、厄介だね)
<ステルス>での奇襲が効きづらいかも。
ぼくの得意戦法がナチュラルに対策されてる感じ?
やりづらいなあ。
早めにイヌを始末したいのは山々だけれど、レベル一〇以上となると、よっぽど当たりどころがよくないとスコップ土くれショットじゃ倒せないな。
いや、ぼくは必ずしも勝つ必要はないんだった。
ダメージを与えて引き返す気を起こさせれば……。
『ヒトシ様。国境に向けて急ぎましょう』
(そうだね。ソラ、ありがとう。そのまま敵軍をマークしててね)
(ホー!)
――――――――――その頃。ティレニア軍冒険者による別動隊隊長ニック視点。
冒険者達を率い、現在では使われなくなった旧道を使ってゼイパレス王国に攻め入る目的で行軍中だ。
まあ行軍っていう規模じゃないが。
荒れ放題の道ではある。
しかし冒険者にとってはどうってことない。
そこまではいい。
……気に入らない。
何が気に入らないか?
鳥だ。
上空を悠々と飛んでいる鳥がいるのだが、俺の<察知>が警鐘を鳴らす。
魔鳥だろうか?
襲ってくる気配はないのだが、見張られているような気がする。
あの距離じゃ<簡易鑑定>も効かねえし……。
「どうしたの? ニック隊長」
「マーサか」
女冒険者のマーサだ。
マーサを含めて三人女がいるから、副長の一人を任せている。
男じゃわかんねえこともあるし、マーサは腕も確かだからな。
「少々気になることがある」
「えっ、何? <察知>持ちのニックが気になるって、気持ち悪いじゃない」
「あの鳥、どう思う?」
「……さっきから上空を旋回してるわよね」
「ああ。すぐ危険があるってわけじゃねえ。が、どうも引っかかるんだ」
「了解。射程範囲内に入ってくるようなら射落とすよう言っとくわ」
マーサ以外の二人の女冒険者はアーチャーだ。
あのどうにも気味の悪い鳥を始末してくれるなら助かる。
また俺の<察知>を信用して即座に対応を考えてくれるマーサもありがたい。
が……。
柵が見えてきた。
どうやら国境だな。
「国境で休憩だ。いいな?」
「「「「「「「「おう!」」」」」」」」
近寄ってみると壊れかけた柵だ。
通行を禁ずと書かれた看板がいっそ哀れに思える。
北の街道では結構厳重な関所があるのに、旧道の警備はザルじゃねえか。
最近はティレニアとゼイパレスの行き来が難しくなっているが、旧道を使えば逃亡も密貿易もし放題だな。
いや、まあ魔物がいるからそんな簡単ではないか。
しかし……。
「ニック隊長。休憩でいいっすか? ワン公どもも腹減ったみてえで」
「待て。その前に柵を調べろ。罠に注意だ」
「へえい」
この柵、人為的な壊れ方とは思えない。
経年でボロボロになったことに間違いないと思われるのに、何故か嫌な予感がする。
どういうことだろう?
「ぐあっ!」
「何だ、どうした!」
「た、隊長。ベイツ副長がいきなり石になっちまったんで!」
「は?」
石になった?
そんなことあるか?
いや、確かに無様な石像ができている。
どうしてこんなことが?
マーサが言う。
「ニック隊長。これ石化の呪いじゃないかしら」
「石化の呪いだと?」
<簡易鑑定>で見れば、なるほど石化だ。
呪いかどうかはわからんが、石化という稀な状態異常があることは知っている。
だが何故こんなところで石化に遭う?
サッパリわからない。
マーサは魔法使いだから意見があるか?
「マーサ。注意すべきことがあったら全員に伝えてくれ」
「あたしは状態異常解除の魔法<キュア>を使えるけど、石化には効果がないとされているわ。一番近くにいたのは誰? どうして石化したかわかる?」
「い、いや、わからねえ。柵に触っただけだと思うが……」
柵は俺も触ってるが何も起きなかった。
何が違う?
「柵近辺に全員で<簡易鑑定>をかけまくって、怪しい部分を炙り出す。ニック隊長は別に<察知>でチェックすればいいのではないかしら?」
「よし、採用。怪しいものには絶対に触るな」
「「「「「「「「了解!」」」」」」」」
どうもおかしいとは思う。
が、あの鳥の危険度がより高いように思えて、意識が分散される!
くそっ、柵に集中しろ!
「ぎゃっ!」
「今度はどうした!」
「わ、わかりません。こいつが急に白目を剥いて……麻痺かもしれません!」
「……麻痺に間違いねえな。マーサ頼む!」
「<キュア>!」
マーサの治癒魔法で麻痺が解けた。
「どうした。何をしたら麻痺を食らった?」
「この石を触ったら急に……<簡易鑑定>で見ても何もなかったんだぜ?」
「石だと?」
そう言えば石像も石を持っている。
あっ!
「おそらく呪いのスキルストーンだ。スキルストーンは<簡易鑑定>じゃ判別できねえから」
「で、でも触っただけだぜ?」
「触っただけで効果を発揮できるようにする術があるんだろ。俺の<察知>でその石から微かな悪意を感じる」
しかし中途半端だ。
俺達の侵攻を予期していたならもっと大々的な罠を仕掛けてもいいと思うが……。
これはたまたまで、イタズラみたいなものなのか?
処分に困って置いただけとか?
「ニック隊長、どうするの?」
「……もうこの国境の柵に違和感はない。まず休憩!」
事前に予想してたのとは違う、面倒な事態だ。




