第32話:どこの学校へ?
ダドルが真剣。
ダドルはいつもそういうしまった顔をしていればいいのに。
他人をバカにしたような顔をすることがあって、それは嫌い。
「私に本当に言っておきたいこととは何かしら?」
「ヒトシがすごく強いという事実を誰にも言うな、ってこと」
「えっ?」
何故かしら?
いえ、私もレベルを上げてもらったこと、スキルストーンからスキルを習得したことを誰にも言っていません。
だって魔物退治させてもらったなんて危ないですものね。
口止めされたこともあるのですけれど。
「……言う気はなかったわ。ダドルが言うほどヒトシが強いということを知らなかったこともあるし。でもどうして?」
強いのが誰かわかっていたほうが頼りやすいということはあるんじゃないの?
「これは門番が言っていたことなのだ。ヒトシが強いのはその通りだが、得意不得意があると」
「得意不得意?」
「ヒトシには例のスコップの技があるだろう? 遠くから敵にダメージをあたえるということに関しては強い。どうも自分の存在感を薄める系統のスキルも持っているようだ。敵との間に距離があればそうそう後れは取らないだろうと」
わかります。
あのスコップの技は威力がありますし、コントロールもすごくいいですものね。
「しかしヒトシの【スコップ】の加護は、パルも知ってるように本来戦闘向きの加護ではない。それにやっぱり大人と比べると、筋力や身体の大きさで敵わないだろう?」
「それは……そうね」
「ヒトシは雑魚の数を減らすことに長けている。不意打ちできる場合ならさらにいい。一方で強者と一対一になった時はその強みを発揮できない」
「……つまりどういうことかしら?」
「ヒトシが強いということを知る者が少ないほど、やつは力を発揮できるということになる」
「あっ?」
言われてみれば。
だから誰にも言うなということなのね?
ヒトシも戦闘向きの加護を授かればよかったのに。
いいえ、神様がくださるものに文句を言ってはいけないわ。
それにヒトシの強みもまた【スコップ】の加護から得られたものなのだし。
「門番が言うことだけが根拠じゃないんだ。ヒトシ自身もあれだけ戦えるのに自慢することがないだろう? またあのザックという冒険者もヒトシの師でありながら、不自然なほどヒトシについて何も言わない」
「……本当、ダドルの言う通りだわ。よく気付いたわね」
「敵軍に情報を与えないということにも繋がるんだ。精霊獣についてもヒトシについても話題にしないことで、どこかに潜んでいるかもしれないスパイをやり過ごしたい」
「驚いたわ。ダドルってこんなに物事を深く考えられるのね。ビックリしちゃった」
「あっ、いや……」
「さすが次期村長ね。頼りになるわ」
急に顔を赤くして目を逸らしたわ。
どうしたのかしら?
「ま、まあな」
「ヒトシについてもなるべく話題にしない、人に話さないってことね。それがヒトシのためにも村のためにもなると。よくわかったわ」
「敵がもしヒトシに目をつけると、オレ達が狙われるかもしれないということもある」
「えっ?」
ど、どういうことかしら?
まだ顔を赤らめたまま、でもダドルの顔が今日一番真剣なんですけど?
「ヒトシはいいやつだ。悪く言うと甘いやつだ。敵がヒトシの危険性を知り、詳しく調べさせてたとすると、オレ達を人質に取ってヒトシに言うこと聞かせようとすることだってあり得る。そうは思わないか?」
「まさか……」
「ヒトシはあんなならず者達がオレとホリノを連れ去ろうとして時も、門番とともに助けに来てくれた。人数が不利だったのにも拘らずだ」
そうね。
ヒトシは正義感が強いから。
ダドルはそれを弱点かも知れないと見るのね?
「正直オレがあの時ヒトシの立場だったら何もできなかったと思う。となるとさらわれた者は戻ってこなかっただろう」
「結果としてよかったじゃないの。ダドルもホリノも助かったんだから」
「あくまでも結果としては、ね。ヒトシがさらわれたり死んだりした結末だって、大いにあり得たってことさ」
ダドルは自分が助けられたことはありがたいと思ってるけど、同時にそのヒトシの行動が正しくなかったんじゃないかって考えているのね?
ダドルの言うことはもっともだわ。
私だってあとでヒトシが誘拐犯に向かっていったと聞いて唖然としたもの。
危ないことはして欲しくないって、一々頷けるわ。
「ヒトシは有利な状況に置いてやれば強いんだ。これは事実。門番もヒトシは周辺の村まで含めてこの辺で一番強いんじゃないかって言ってたくらい」
「そんなに? ちょっと信じられない」
「門番はそう言っている。でも油断しちゃいけないと思うんだ。門番や冒険者ザックには甘いところがないか少ないんだろうから、勝てない時は見切って撤退するんじゃないかな。けどヒトシはそうでもないんだ」
「戦いの経験自体が多いって考えられないですものね」
「そうだ。少なくともオレ達が足を引っ張るのは厳禁だ」
「よくわかったわ」
ヒトシについては話題にしないほうがいいのね。
それが私達の身を守ることになり、ヒトシに迷惑をかけないってことにも繋がると。
「じゃあヒトシって制約なく動けるのがいいのかしら?」
「オレ達三人はそう考えてる。だからヒトシの戦闘の実力については、父上にもほとんど話していない」
「えっ、村長さんにも?」
「父上は戦闘のプロじゃないから。多分ザックに鍛えられているヒトシは、フリーハンドで動くのが一番いいと思うんだ。何だかんだでヒトシは頭がいいし、精霊獣もついてるからな」
私もそんな気がしてきたわ。
「今日はダドル達の考えを聞けてよかったと思うの」
「そ、そうか。パルにそう言ってもらえて嬉しいよ」
「じゃあ私帰るね」
「送っていこう」
「あ、そうだったわ。ありがとう」
ダドル達三人と歩き出します。
「もう一つパルに聞きたいことがあるんだ」
「何かしら?」
「ヒトシのやつ、王都に行ったらどこの学校に通うつもりか知らないか?」
「……知らないわ。聞いていないもの」
ダドルもホリノもカズもガッカリしているわね。
どうして?
「レベル〇と一の壁を越えるために学校に通うことはよくあることだ。冒険者学校や各種技能学校はそのためにあると言ってもいい」
「僕とカズは壁越えしたけど、冒険者学校に行こうと考えているんだ」
「オイラは魔物ハンターになって、村の平和を守るんだ!」
「ホリノとカズは冒険者かあ。合ってるかも」
今ヒトシを除くと、対魔物要員って門番さん一人だものね。
郊外に魔物がいるのに、ちょっと危ないと思う。
ホリノとカズが加わってくれると安心できそう。
「ヒトシは魔物と楽勝で戦えるだけの腕があって、それでも王都の学校に行くんだろう? どこの学校に通うのか、気になってね」
「今度聞いておこうか?」
「頼むね」
「ところでダドルはどこの学校に行くの? ダドルだって壁越えしたんでしょう? 剣術学校?」
ダドルは【剣術】の加護持ちだものね。
一番妥当だと思うわ。
「……いや、オレも剣術学校に通うつもりだったんだが、父上には王立アカデミーを勧められている」
「王立アカデミー?」
って、ゼイパレス王国最高の学校でしょ?
「最近一生懸命勉強しているだろう? これなら王立アカデミーで通用しそうだ。人脈を重視するためにいい学校に行くべきだとね。オレもそれが正しい気がしていて」
「ダドルはさらわれ損なってから大人になったわねえ」
憮然とした顔してるけど、皮肉なんかじゃないのよ?
次期村長らしい考えになってきたなあと思っているの。
とにかくヒトシにどこの学校に通うつもりなのかは聞いておくね。




