第31話:今日も勉強の日
――――――――――宿屋の娘パル視点。
「はい、今日はここまでですよ」
「「「「「ありがとうございました」」」」」
ここのところ午前中に村長さんの家で勉強を教わることが多いです。
メンバーは私とヒトシ以外に、村長さんの息子ダドルとその取り巻きのホリノとカズ。
私もヒトシと王都に行きたいなあと考えているから、勉強を頑張っているのよ。
私は王都の新しい料理を知りたいという目的だけれども、私以外の四人は学校に通いたいみたい。
大分読み書きは進歩したと思うから、成果を自分で実感できていて嬉しいわ。
私の家は食堂兼宿屋なのですけれど、食事時以外は比較的暇なの。
この時間に色々教えてもらえるのはすごくありがたいなあと思っています。
村長さんは優しいですし。
いえ、私の最初の目標としては、読み書きがスラスラできるようになればいいかなと思っていたの。
私はダドル達やヒトシと違って王都の学校に入るつもりはなくて、アルバイトをしながら料理に対する見聞を広めたいと考えているから。
聖見式で【料理】の加護をいただいたので、そちらを活かしたいのは当然ですもんね。
だから個人的にはほぼ学習目標を達成しているって言っていいんだけれど……。
メンバーの中でもダドルとヒトシはすごいの。
集中して勉強していて。
どうしてって聞いたら……。
『オレはマツモティー村の村長の息子だ。オレが侮られることはあってはならないだろう? それにヒトシには負けたくない』
『世の中知らないことばっかりだよ。ぼくはもっと物事を知らなくちゃいけないと思うんだ。どこで役に立つかわからないからね』
方向性は違うけれど、意欲がある二人は素敵。
もっと言うとヒトシは素敵。
そう言えばヒトシは最近、ソラという名前の精霊獣を飼っているのよ。
眠そうな目でフクロウそっくりな。
本物の精霊獣だということがわかって、大騒ぎになりかけたんだけれど……。
村外れを守る門番さんが言ったの。
『村外れの道からティレニアが攻めてくる可能性がある、と俺は考えている。ヒトシはその精霊獣を偵察に使おうとしてるんだ。マジであの道から敵が来襲するなら、それを事前に知ることは明確に俺達のメリットだからな。逆にヒトシが精霊獣を使えることを敵に察知されると、そのメリットを捨てることになる。だから精霊獣について話題にすることは、禁じるべきだぜ』
ダドル達がさらわれかけたことも記憶に新しいです。
あの時ゼイパレス王国と隣国ティレニアが戦争になるという、衝撃的な未確認情報がもたらされました。
でも北の街道沿いでの会戦になるだろうと考えられていたのですよ。
廃された旧道を使ってマツモティー村が直接攻められると思っていた人なんて、当然のことながらほとんどいなくて。
ただ門番さんの指摘に、あり得ることだと賛同する人がチラホラいたのです。
本当に攻められると信じていた人はいないと思います。
ただ油断はよくないということに関しては、ほとんどの村の衆の賛同を得ました。
だから村の総意として、ヒトシの精霊獣について触れることはタブーとされることになりました。
精霊獣ソラは可愛いですけれど、普段は偵察に出ているので見ることはできませんしね。
またその後ヒトシの師匠で凄腕冒険者のザックさんが村に来ました。
そして隣国ティレニアの戦争はまず間違いなく起こる。
廃道を通ってくるティレニア軍がいるとしたら。多くて数十人規模の陽動だろうと。
しかしその可能性は低くないということを告げていきました。
マツモティー村が戦場になる可能性があるなんて、怖いですよね。
いよいよ精霊獣による偵察と警戒は重要だということになったのです。
ヒトシが言います。
「パル、帰ろうか」
「ええ」
ヒトシはこれから村外れへ穴掘りに行くと思うのですよ。
お弁当を持ってきているので、そのまま行ってもいいはずです。
でもいつも私を家まで送ってくれるの。
紳士だなあ。
「おい、ヒトシ」
「あっ、ダドル。何かぼくに用があったかな?」
「いや、ちょっとパルに確認したいことがあるんだ」
ダドルが私に確認?
何でしょう?
「ヒトシはこれから穴掘りに行くんだろう?」
「うん。日課みたいなものだからね。加護を鍛えることも重要だと思ってるんだ」
「なら行っていいぞ。パルはオレ達が責任持って送るから」
「わかった。じゃあパル。またね」
ヒトシが手を振って去って行きます。
ヒトシと一緒に帰れないのは残念だけど。
「ダドルが私に確認したいことって何かしら?」
「パルも王都に行きたいんだろう? 学校に通いたいということではないんだな?」
「私は【料理】の加護をいただきましたからね。王都で料理に関する感性を磨きたいということはあるわ。でも学校に通いたいわけではないの」
そんなお金もありませんしね。
一二歳だとアルバイトの口もかなりあると聞いています。
稼ぎながら慎ましく暮らしていこうと思っています。
「オレらくらいの年齢で王都に出たい者は、レベル〇と一の壁を越えたいという者が多いからな。パルはどうなんだ、ということを聞きたかった」
「えっ? 私は……」
「パルは既に壁を越えているのか? ヒトシの助力で」
ドキリとしました。
これ言っていいのかしら?
個人情報に関わることだから言いたくないのだけれど。
ダドルが沈痛な表情で言います。
「……オレとホリノはこの前誘拐されかけた時、壁を越えたんだ」
「そうだったの?」
「ああ。ヒトシが倒した魔物にとどめを刺すことによってな。だから王都に出たいパルにヒトシがレベル面で協力していることはあり得るなと思い当たった。言いたくなければべつにいいんだが」
「私も同じよ。森の外に出てきた角ウサギをヒトシがスコップの技で瀕死にして。レベルを上げてもらったわ。ザックさんが初めてこの村に来た時だけど」
「やはりか。カズもなんだ。あのザックという冒険者とヒトシに付き合ってもらってレベルを上げて」
「うん、ヒトシはすげえよ。オイラ興奮しちまった!」
そうよね。
ふいっとスコップを振っただけで魔物が倒れるのですものね。
すごい技だと思うわ。
「しかしパルが見たのは角ウサギを倒すところまでか。だったら知らないと思うけど、ヒトシのあのスコップの技はそんな生易しいものじゃないんだ。オレとホリノはヒトシが一〇頭以上のシャドウウルフをいっぺんに倒すところを見てる」
「ええっ?」
ヒトシが一〇頭以上のシャドウウルフをいっぺんに倒した?
オオカミの魔物って、ウサギの魔物よりずっと強いのよね?
それが群れでいるのに?
「……村外れの門番に言われたんだ。ヒトシはおそらくマツモティー村の誰より強いと。それだけの手段をザックから教わっていると」
「そうなの? でもヒトシの加護って穴掘りでしょ?」
だからスキルストーンなんか掘り出せるんでしょうけど……このことこそ秘密よね。
「ああ、戦闘向きの加護じゃない。でもスコップの技を磨いて魔物を倒せるようになり、ザックに師事しているから。おそらくかなりレベルが上がっているんだと思う。門番はレベル一〇以下の者はヒトシの敵じゃねえって言ってたな」
それだけじゃないわよね?
掘り出したスキルストーンで自分向きのものを習得して。
おまけにヒトシは真面目だもの。
少しづつ訓練して力を蓄えているんだわ。
勉強して知識を得ているだけじゃなくて。
……考えてみれば、ヒトシは何を目指しているのかしら?
ダドルが続けます。
「で、ここからがパルに本当に言っておきたいことなんだ。ヒトシのいるところでは言いづらくてな」
一体何でしょう?




