第30話:勝つ必要がない
――――――――――メイエスからマツモティー村に至る道中にて。ヒトシ視点。
ここまで来ればいいかな。
「ソラ、おいで」
瞬時に偵察に出していた精霊獣ソラが現れる。
「ホー!」
「おお? 何だこいつは」
「精霊獣のソラです」
「精霊獣? お前精霊獣掘り出したのかよ?」
「ええと、精霊の卵というものを掘り出したんですよ。それが孵って懐かれまして」
「ええ? つくづく【スコップ】の加護はクレイジーだな」
クレイジーって。
ぼくも【スコップ】の加護は、いろんな経験をさせてくれてありがたいなあと思うけれど。
もっとも<魔王の討伐者>の称号の効果、イベントに遭遇しやすくなるというのが効いてるのかも?
つまるところぼくはただのラッキーマン。
ソラがザックさんに頭を撫でられて気持ち良さそう。
「で、こいつが突然現れたのは?」
「ソラはぼくのいるところに瞬間移動できるんですよ。精霊獣に共通の性質なのか、ソラに限ったことなのかはわかりませんけれど」
「ほお? ヒトシはこいつと離れていても会話することができるんだな?」
「はい、できます」
瞬間移動と遠隔通話については<ガイド>のアリスも知らないようだった。
精霊獣について知られていることって少ないんだなあ。
もっともっとぼくがソラのことを知らなきゃいけない。
「オレも精霊獣についてはほとんど知らねえな。強いんだろ?」
「従者になった精霊獣は、ホストのレベルと同じになるそうです」
「マジか。じゃあヒトシのレベルと同じ三二?」
「はい」
ザックさん呆れた顔してるけど。
「……今までこいつはどこにいたんだ? 精霊獣を知られるのはまずいから隠してたのか?」
「いえ、マツモティー村ではソラのこと、皆さん知ってるんですよ」
「何故だ?」
うん、ザックさんはぼくが目立つべきじゃないと思ってるだろうから。
「今ソラを偵察に出しているんです」
「偵察? どこへだ?」
「さっきのティレニアに繋がる旧道です。そうすれば攻められた時に素早く察知することができるじゃないですか」
「おお? 賢いな」
「ぼくがメイエスに来ていることもあるでしょう? そんな時は敵が迫っていることを、ソラが村人に知らせる必要があるので。ソラの存在を村人に明かしておくことが必要だと考えたんです」
「よし、合格だ。どうせ精霊獣の存在を隠しておくなんてムリだろうしな」
ザックさんに合格をもらえると嬉しいな。
ソラもいて当たり前ってふうに、皆に可愛がってもらえるといいなあ。
「……レベル三二がヒトシと精霊獣か。そして敵軍の侵攻をいち早く知る術もあると。ヒトシが村にいる時なら、お前達二人でティレニアの別動隊を追い返せそうだな」
「やっぱりザックさんも、村人に頼らずぼくとソラが敵軍を叩くのがいいと思いますか?」
「思うね。というか村人に迎撃させたら死人が出ちまうだろ。ガッチリ防衛陣地を構築して、強弩の数を揃えて、防御担当者を訓練するんでなければな」
そうだよなあ。
ぼくのレベルは何だかんだで高いし、魔物退治の経験はあるから。
アリスと同じ見解だ。
心配なのは……。
「……ぼくって戦闘経験が少ないじゃないですか」
「対人は特にな。しかし訓練はともかく、対人でガチに殺し合いしたことのある人間がどれほどいると思う?」
「えっ?」
ちょっとした盲点だった。
ザックさんが獰猛な笑顔を見せる。
「ティレニアだって近年戦争はしてないぜ? せいぜい盗賊退治とか凶悪犯の逮捕とか、その程度のはずだ。街道でタスミン姫を襲ったやつらと戦い、その後誘拐犯を捕まえたヒトシがそう劣ってるとは思えねえ」
ザックさんの言う通りだ。
ちょっと気が楽になった。
「いいか? お前は勤勉ではある。レベルもあるが、近接戦闘はなるべく避けろよ?」
「はい」
「強みを生かすんだ、強みを。そうすればレベルの低いやつらに不覚を取ることはねえ」
そうだ、ぼくの強みはスコップ土くれショットで多数の相手にいっぺんにダメージを与え得ることと、<ステルス>による奇襲だ。
持ちスキルが多い点も有利だな。
今ならぼく一人じゃなくてソラもいる。
「ヒトシの<ステルス>は、地の利があって身を隠す箇所が多いところで有利だ」
「わかります」
「つまり敵軍の侵入を早めに知ることができ、森の中を戦場にできれば、お前の強みを最大限に生かせる」
うん、ソラがいるから、よっぽど間が悪くなければ森の中で戦うことはできそう。
「本当は村まで引き込んだって構わねえんだぜ? 敵の動線を引き延ばしてヒトシは援軍を得やすいから、負けづらい策ではある。ただ村と村人に被害が出ちまう。そしてお前の力がバレることになるってだけだ」
「よくないですよね?」
「よくはない。が、ヒトシがムリするよりはマシだぜ。敵の数が思ったより多いとか、想定してたレベルより高いとかなら、お前一人で食い止めることはどだいムリだ」
一つのやり方に捉われるなってことだな。
ザックさんの教えてくれることはためになるなあ。
「一番勘違いしちゃいけねえことがある。ヒトシは勝つ必要がねえってことだ」
「勝つ必要がない?」
「そうだ。敵を叩きのめさなくたっていい。撤退させることができれば万々歳。何なら少し敵軍の戦力を削ぐだけでいい。罠があるんじゃねえか、待ち構えられてるんじゃねえかと疑わせるだけでもいい」
「はい!」
必ずしもやっつける必要はないんだった。
そう考えると肩が軽くなる気がするよ。
「逆にヒトシがやられでもしたら、敵軍を全滅させたとしても失敗なんだぜ? 目的を忘れるんじゃねえぞ」
「わかりました!」
やあ、よかった。
さすがザックさんだなあ。
結論として敵が攻めてきたら何度か<ステルス>奇襲して警戒させ、村に突入されそうなら村長に知らせればいいんじゃないかな。
「ところでザックさん。例のスキルストーン手に入ったんですよ」
「<見破り>か?」
「はい」
「おおお? マジかよすげえ! 一億ゴールドで買うぜ!」
「えっ? タダでいいですよ」
そういう約束だったんだから。
ザックさんにはすごくためになること教わってるし。
「それとこれ。どうぞ」
「何だこれ? ……えらく禍々しい気配がするじゃねえか」
「高位魔族のコアです。壊せばいくつかレベルが上がると思います」
ザックさんがぼくを見てくるけど?
「……いくらだ?」
「タダでいいです」
「気前良過ぎだろ。お前が壊して自分のレベルを上げればいいじゃねえか」
「今ぼくのレベルはザックさんより高いじゃないですか。師弟関係についていずれ誰かに突っ込まれそうな気がするんですよ」
「なるほど、そういう懸念か……」
不自然な部分はなるべくなくしておくのがいいと思うんだ。
「よし、じゃあいらねえスキルストーン全部寄越せ。一億で買う、それならいいだろ?」
「構わないですけど、何でです?」
「お前王立アカデミーに通うんだろうが。授業料をタダにしてもらったところで、周りの人間は貴族だぞ? 付き合いでどんだけ金がかかるか知れたもんじゃねえ」
「えっ?」
そういうものなの?
心配になってきたなあ。
「生活についてはルルイフのじーさんが面倒みてくれるって言ってたぜ。しかしヒトシには現金が必要なんだ。不審に思われるからスキルストーンを売却処分するのも難しいだろ?」
「ちょっとムリっぽいです」
「だからオレが引き取ってやるよ。オレならそう怪しまれずに売れるからな」
「助かります!」
ザックさんは細かいことまで考えてくれるなあ。
師匠がいるってことはありがたいよ。
今後もよろしくお願いしようっと。
「ほらよ、一億ゴールドだ。ああ、ちょっと待ってくれ。<見破り>習得しちまうからよ」




