第26話:国境に
<ガイド>アリスが言う。
『ヒトシ様、どうされます? 今日はここまでで一旦帰ることにし、精霊獣ソラに合うスキルを検討し、習得させるという手もありますが』
(いや、やはり国境まで様子を見てこよう)
今日の目的だもんね。
せっかくここまで来たし、お弁当を持ってきたし、国境の状況を見たことで考えが変わるかもしれないし。
精霊獣ソラが友達になったから、多分ぼくは今までより村人から注目されるようになるんじゃないかな。
<ステルス>は存在感を薄くするスキルだけど、発動型だからソラにまでは効果が及ばないはず。
いや、ぼくの頭が指定席なら<ステルス>の効果範囲内かな?
でも何にせよソラは目立つから、これまでほど<ステルス>の効果は期待できないと思う。
そうすると村外れから外へ出にくくなるかもしれない。
危ないよって言われそうだもんね。
本当はソラがいれば戦力倍みたいなものなのに理不尽だな。
<隠蔽>があるから、ぼくやソラのレベルは他人にわからないだろうし。
……門番さんはぼくのことを結構理解してくれてるから、気にし過ぎかもしれないけど。
(急ごうか)
(ホー)
ソラがぼくの意を察して、声を出さず意思を送ってきたよ。
精霊獣ってこんなこともできるんだ。
アリスに続き、頼りになる相棒ができて嬉しいな。
◇
身体強化魔法をかけて走り、国境に向かって進む。
(ソラ、居心地悪くない?)
(ホー)
大丈夫みたい。
ぼくの頭の上、結構揺れるだろうにな?
それにしても精霊獣ってほとんど重さを感じないのが不思議。
精霊ってそういうものなの?
存在感があってそこにいることはわかるんだけど。
魔物が現れるたびソラの意識がそちらに向くのがわかる。
ぼくが<威圧>で追い散らしてるけど……。
(魔物が出たらソラも<威圧>してみてくれる?)
(ホー)
ソラも<威圧>を使えるんだった。
使っていれば上手になるはずだよね?
この先ソラが<威圧>を使う機会があるかはわからないけど、今ぼくと一緒に<威圧>を練習することはリスクにもデメリットにもならないから。
時々出現する魔物をぼくとソラが<威圧>しながら、さらに先へ。
(やっぱり<威圧>がダブルだと魔物が一目散に逃げていくね)
(ホー)
体験して初めてわかることが増えていく。
もっと集中した<威圧>をダブルで浴びせると、弱い魔物なら気絶させられそうな気もする。
時間のある時試してみよう。
地図を見た感じでは、ぼくのスピードで走ったら昼前には楽々国境に着くと思ってたんだ。
となるともう少しなんじゃないかな?
<ガイド>アリスに聞く。
(ねえ、アリス。国境ってどうなってるのかな? 通り過ぎてないよね?)
『街道ですとゼイパレス王国と隣国ティレニアの境には関所があり、通過するには簡単な身分照会を必要とします』
(あ、国境ってそういうものなんだ?)
『ゼイパレスとティレニアの間ではそうなっているということです。これは国家間の関係によります。交易の盛んな国家間ではノーチェックで行き来できるところもあります。また戦時中ですと一般人が国境を超えるのはほぼ不可能です』
(ふんふん。じゃあこの道の国境はどうなってるんだろ?)
現在では使われてない道だしな?
ゼイパレスとティレニアの間は自由に通過できはしないみたいだけど、人員を置いてチェックしてるなんてムダなことはしてないと思う。
少なくともこっちゼイパレス側には誰もいないはず。
『何らかの形で封鎖してあるものと思われます』
(だよね。じゃあ国境を見逃がすことはないか。あっ、あれかな?)
朽ちかけたような柵? があった。
うん、明らかに人工物だね。
(『ゼイパレス~ティレニア国境。通行を禁ず』って書いてあるね。読みにくいけど)
『となると北の街道の開通とともに道自体が廃されたようですね』
ぼくこんな読みにくい字でも読めるようになってる。
村長の家で勉強している成果が出ているんだろうな。
ちょっと嬉しく思った。
道が廃されていることをアリスが知らないようなら、一般的な知識じゃないんだろう。
村のお年寄りなら知ってたかもしれないけど。
でも……。
(魔物が出る道だもんねえ。ティレニアの前進基地が国境付近に現在作られていないことまでは確認できた)
『はい。確かな知見が得られたことは大きな収穫です』
(これもしティレニア軍が攻めてくるなら、普通に柵を壊すよね?)
『間違いないと思われます』
(じゃあ国境の向こうからこの道を通ってくるような人がいたら、即敵扱いしちゃっていいかな?)
『不法侵入者です。構わないですね』
ということならあんた達誰? って聞く必要はない。
いきなり全力でスコップ土くれショットを浴びせてしまえばいいってことだ。
こんな道なら大軍で来るってことはないだろう。
敵軍の人員のレベルにもよるけど、かなり戦力を削げるんじゃないかな?
敵が来たって村に報告するだけよりも、よっぽど貢献できると思う。
『最近ティレニアの手の者がここまで来た形跡はありますか? ヒトシ様の<察知>や<直感>で見ていかがです?』
(ないなあ)
ティレニアの軍なり冒険者なりが国境まで来たなら、攻め込みやすくするために道を奇麗にしておくなりの工夫をするんじゃないかな?
少なくともティレニア側には。
でもそんな感じは全然しない。
じゃあここって、しばらく誰も来たことないんじゃないかと思う。
この前ダドルをさらおうとしたティレニアの悪い冒険者三人組によると、近い将来戦争になるってことだった。
子供をさらってもうやむやになっちゃうくらいなら、かなり差し迫っていると思うのにな?
(うーん。でもいつ攻めてくるかなんてわからないよね? どうすればいいだろう?)
しょっちゅうこんなところまで来るわけにいかないし。
『戦争を行うためには宣戦布告を行うのが国際ルールです』
(ふうん?)
『ティレニアが必ずしも国際ルールに則るとは限りませんが、宣戦布告したならばメイエスの冒険者ギルドに情報が入るのは早いと思われます』
(なるほど!)
メイエスだったらものを売りに行くという理由がある。
この前はザックさんと歩いて行ったからかなり時間かかったけど、走っていけばぼくなら二時間もかからないし。
『メイエスでの情報収集とヒトシ様の<直感>で見当をつけましょう』
(うん、それしかないね)
<直感>って随分と色々役に立つことない?
ザックさんが言うには、あんまり当てにならないってことだったのにな?
レアスキルという話だったから、わかっていることが多くないのかもしれない。
レベルが低いと全然ダメなのか、あるいは<直感>の使い手達が便利なところを見せなかったとか?
いずれにしてもぼくには合ってるスキルだと思う。
『罠を仕掛けておくという手がありますよ』
(罠? ぼくみたいな素人が作った罠なんて、<簡易鑑定>や<察知>ですぐにバレちゃわない?)
『ヒトシ様は呪い系のスキルストーンをお持ちではないですか』
呪い系のスキルストーンとは習得するとひどい目に遭うやつ。
ぼくは<麻痺>と<石化>という、状態異常のスキルストーンを掘り出して持ってるの。
特に<石化>は極悪だとザックさんが言ってた。
(スキルストーンを罠に使うということ?)
『はい。スキルストーンは<簡易鑑定>ではわかりませんから』
(そうだった)
『ヒトシ様は既に実感なさっているかと思います。スキルストーンからのスキル習得時間には、個々の石で程度の差異があるということを』
(うんうん、感じてる)
ちょっと持っただけで習得できるスキルストーンもあれば、時間をかけて念じなきゃいけないものもあるの。
それが?




