第25話:精霊の卵
掘り出したそれは不思議なものだった。
一抱えくらいの結構な大きさがあるものなんだけど、異常に存在感が希薄というか、メチャクチャ軽いというか。
何これ?
物体というより、魔力の集積みたいだな。
でも全然悪いものの気がしない。
<見破り>でこの不思議な何かを鑑定してみると……。
(精霊の卵だって)
うわあ、精霊だって。
精霊って卵から生まれるの?
テンション上がるなあ。
<見破り>使ってもそれ以上詳しいことはわかんないな。
こういう時は<ガイド>アリスに聞いてみるのが一番いい。
(アリス、精霊の卵って何だろう?)
『精霊の卵と呼ばれるものについて確かな知識は非常に少ないです。精霊獣が形をなす直前の状態とも言われていますが』
(精霊獣……あれ? 精霊と精霊獣とは違うんだ?)
『精霊とは属性を持った自由魔力の総称です。精霊獣も根源は精霊と同じ自由魔力なのですけれども、精霊よりもずっと力が大きく、意思を持つものです』
つまり精霊獣とは意思を持つ強い精霊ってことか。
いや、精霊の説明自体よくわからなかったけれども。
自由魔力って何だろ?
知らないことって多いなあ。
とにかくレアなものを拾ったってことだね?
(卵なら温めると孵るのかな?)
『一説に魔力を一定以上集めると精霊獣になると言われます』
(そうか、魔力の塊みたいなものだもんね)
『ヒトシ様の<直感>でどう思われますか?』
(そうだね。ぼくに不利に働くようなものには思えない。それどころか力になってくれるという、確かな予感があるよ)
持っているだけでドキドキするもんな。
これきっとぼくの将来に大きく関わってくるんじゃないかな。
『稀に精霊獣を友とする者がいます』
(あっ、聞いたことある! 精霊と友達になって秘密の隠された泉に招待されたとか、精霊を肩に乗せてともに旅をしたとか。その精霊って精霊獣のことだよね?)
『そうだと思われます』
(わあ、すごい! じゃあぼくもこの精霊獣を孵したら、友達になれちゃったりする?)
『申し訳ありません。データ不足でわかりません』
うんうん、だよね。
これはきっと一般に知られていないことだろうし。
(ぼくはこの精霊の卵を孵したいな。どうしたらいいだろう? アリスが推測できることある?)
『魔王や高位貴族のコアがこの森にあったことから、緩やかに魔力を集めるのに適した環境なのだろうと思います』
(緩やかに魔力を集める、か)
そしておそらくその存在を探知するような強い魔物とかがいないってこともあるんだと思う。
『ですからもう一度埋め戻しておけば、その精霊の卵が孵る可能性は高かろうと思います』
(なるほど。ぼくが温めているだけじゃダメなのか)
『しかしヒトシ様は<魔力操作>のスキルストーンをお持ちです』
(あっ、そうだった!)
<魔力操作>のスキルというのは、自分の魔力を分け与えたり、逆に魔力を吸ったりすることができるみたい。
その他術者のレベルが高いと、魔力の様相に敏感になるということがあるようだけど。
ぼくにとっては重要じゃないというか、こういうスキルは魔法をメインに扱う人向けかなあと思ったから、習得してなかったの。
<魔力操作>を習得して精霊の卵に魔力を流し込めば、精霊獣が孵化するかもしれないのか。
ワクワクするなあ。
<魔力操作>のスキルストーンを取り出して軽く握り、習得の意思を持って念じる。
(よし、<魔力操作>を覚えたよ)
『ほんの少しずつ、精霊の卵に魔力を譲渡してみてください』
(了解)
そうだね。
多分地中に埋まってて集められる魔力なんて、すごく少量だと思うから。
いきなりぶわっと魔力を与えたらよくないかもしれないもんね。
ちょっぴり魔力をあげるつもりで……。
パキッと音がして精霊の卵にひびが入る!
「あっ?」
思わず声が出てしまった。
魔力を流し過ぎて破裂しちゃった?
『いえ、卵が孵るようです。孵るという言い方が正しいかはわかりませんが』
(よ、よかった。ビックリしたあ)
壊しちゃったら悔やんでも悔やみきれないところだったよ。
ポロポロと卵の殻が落ち、光となって消滅していく。
精霊の卵が孵る時ってこんなふうになるんだな?
幻想的だなあ。
卵から現れたのは……。
「ホー?」
フクロウそっくりの精霊獣だった。
愛嬌のある顔つきでとっても可愛いなあ。
眠そうな目でぼくを真っ直ぐ見つめてくるよ。
「ぼくはヒトシだよ。よろしくね」
「ホー、ホー!」
「名前をつけて欲しいんだね?」
何故だかわからないけれど、言いたいことがわかる。
アリスが言う。
『精霊獣に名前をつける行為は契約とされています』
(契約? ええと、どういうことかな?)
『この精霊獣がヒトシ様から少量の魔力を得ることと引き換えに、従者になるということです』
(じゃあぼくの友達になってくれるってことだね?)
『さようです』
わあ!
すごく嬉しいなあ。
いや、でも物事を衝動的に進めてはいけない。
こんな時ほどメリットデメリットを知っておかねば。
精霊獣を連れている人というのは過去何人もいたはず。
じゃあアリスの知っていることも多いんじゃないかな?
(アリス。ぼくがこの精霊獣を仲間にすることに対して賛成? 反対?)
『賛成です』
(うん、その理由は? ぼくが精霊獣を連れていることで、余計に目立ってしまうということがあると思うけど)
『戦力が大幅に強化されます。契約済みの精霊獣はホストと同レベルになります』
つまりぼくと同じレベル三二の精霊になるということか。
あれっ? メチャクチャ心強いぞ?
『さらにホストは精霊獣と自由に意思の疎通ができるようになります。また精霊獣はホストの持つパッシブなスキル、例えばヒトシ様の習得済みのものですと<隠蔽>、<毒耐性>、<火抵抗>などは共有されます』
(アクティブなスキルはどうなるの?)
『ホストとは独立に習得します。スキルストーンから覚えさせることも可能です』
(ぼくはスキルストーンを手に入れることができるから、かなり頼りになるね)
『はい。精霊獣を得てパワーアップできるチャンスなんて、今後訪れるかわかりません。確かにヒトシ様が注目されてしまうというデメリットはあります。しかしそれを上回るメリットがあると愚考いたします』
(よくわかったよ)
翼を一回バサッとして期待してるんだろうなあという面持ちでぼくを見てくるフクロウの精霊獣。
何て可愛いんだろう!
「いいかな? 君の名前は『ソラ』というのはどうだろう?」
鳥の精霊獣だからソラ、安直過ぎるかなあ?
「ホー、ホー!」
「気に入ってくれた? よかった」
ああ、本当だ。
ソラが喜んでくれてるのがよくわかる。
これからはソラと一心同体だね。
よろしく。
『ヒトシ様。契約済みの精霊獣のステータスは、ホストの<ステータスオープン>で見られるはずです』
(そうなの? 確認しておかなきゃいけないね)
<ステータスオープン>、と。
(本当だ。ソラのステータスもわかる)
『魔法力と最大魔力容量が非常に高いですね。一方で攻撃力は貧弱です』
(持ちスキルが<ステータスオープン>、<簡易鑑定>、<察知>、<威圧>、<ウインドカッター>、<ウインドセイバー>、<トルネード>、<土抵抗>か)
ぼくと共有しているパッシブスキルは表示されないんだな。
風魔法が得意で、ぼくの弱い部分である魔法攻撃を補ってくれる存在だ。
こういう言い方するとぼくの物理攻撃が強いみたいだって?
強くないんだよ。
ぼくはへっぽこだなあ。
「あ?」
ソラがパタパタと羽ばたいてぼくの頭に着地した。
機嫌よさそう。
「そこがいいの?」
「ホー」
「ふふっ、じゃあぼくの頭はソラの特等席だね」




