第21話:輝かしい未来に乾杯
――――――――――王都ロイアスのカーラン邸にて。ザック視点。
ルルイフのじーさんが肩を竦める。
「友好使節としてティレニアを訪問していたタスミン王女殿下が、帰国時に襲われた。ヒトシ君とともに撃退に協力した、か」
「呆れた目で見るんじゃねえよ。いや、オレだってヒトシを対人戦闘に参加させるつもりも権力者に近付ける意図もなかったわ」
でも緊急事態だったんだから仕方ねえじゃねえか。
オレだって王族に対する敬意くらいはある。
窮地に駆けつけない選択肢はさすがになかったわ。
その際ヒトシのスコップ土くれショットが大きな戦力になるだろうこともわかってた。
「ヒトシ君を権力者に近付けるべきではないと。やはりザックもそういう結論に至ったか」
「ああ。もっともあんたとは少し理由が違うかもしれねえけどな」
ヒトシの【スコップ】の加護は、掘ることに特化した加護だ。
そして副次的な効果として――――こちらのほうがよほど重要なんだが――――有用なアイテムを手に入れる確率がやたらと高いというもの。
掘りたい場所を掘ってると有用なアイテムが出てくるって、かなりおかしいだろ。
おこぼれに与れるなら、ヒトシの師匠ポジションにいるのが得じゃねえか。
……【スコップ】の加護の有用性が知られたら、必ずヒトシを確保しようとするやつらが出てくる。
スキルストーンの供給を一手に担えそうだもんな。
どれだけの金になることか。
逆に暗殺しようとするやつも出てくるかもしれねえ。
国家間の勢力バランスを崩しかねない加護だから、味方にできないなら消せって発想も出るだろう。
「【スコップ】は、真の効果を考えれば異常と言っていいほど有用な加護だ。さすがにレア加護だけのことはある。ヒトシ君が自ら他の事情や状況に関与しようと思うならともかく、今はまだ幼過ぎる」
「同感だぜ。バカげた加護だが、それだけに他者の思惑に巻き込まれやすいだろ」
「現在のヒトシ君の実力はどうかね?」
「レベル二〇以下の霊体以外の魔物相手なら問題はないと思ってもらって構わないぜ」
「ほう?」
各種耐性系のスキルストーンを結構掘り出して習得しているんだ。
状態異常攻撃で不意打ち食らっても、そう問題はないんじゃねえか?
レベルがレベルだしな。
一方で攻撃手段が少ない。
というか剣を持たねえヒトシに剣術スキルを覚えさせたって意味ねえしな?
適当な攻撃スキルのスキルストーンが出ないってこともある。
出物については偏りもあるから時間がかかるか。
スコップで土飛ばす技が威力があるから、当面問題なさそうではあるがな。
「人間相手だと?」
「高レベル者相手じゃ勝負にならねえよ」
これは仕方がない。
一〇歳だから身体ができてねえし、大体戦闘経験がねえんだもん。
この前の姫さん救助のために戦ったのが初めての対人戦だろ?
身体も小さいし、接近戦で使える攻撃手段が接触電撃魔法<モノボルト>だけ。
身体強化魔法を持ってるから何とかなると思いたいが、高レベル者は身体強化魔法持ち結構いるしな?
「低レベル者相手だと?」
「かなり強い」
土くれショットがメチャクチャヤベえ。
マジックポイントを使わない一掃技だもんな。
遠距離から多人数を同時に相手にできるのは、ヒトシの明確な強みだわな。
「なるほどな」
「何がなるほどなんだよ」
「ザックがヒトシ君をかなり気に入ってるということがわかった」
「ちっ、見透かしたようなことを言いやがって」
確かに気に入ってるよ。
ヒトシは真面目で慎重だ。
<ガイド>スキルの影響があるようだが、覚えも早い。
そして一番いいのは、決めたら迷わねえ、ビビらねえってところだ。
初めての対人戦なんて浮足立ったって当然なんだが、落ち着いていて全く問題なかった。
ほとんどベストの対応だった。
ヒトシはまだまだ伸びる。
「で、姫さんの護衛隊長と連名で、ヒトシを冒険者ギルドに推薦しといた。ヒトシじゃ年齢が足りねえんだけどよ。問題なく冒険者登録はされてると思う」
「うむ、ヒトシ君には何より経験が必要だからな」
「金も必要になるしな」
「金? ああ、王都の学校で学びたいと言っていたか」
「姫さんがお礼にヒトシを王立アカデミーに入れるって言い出してよ」
ハハッ、目を丸くしてら。
今日初めてルルイフのじーさんが驚かせてやったぜ。
予想外だったろうからな。
「王立アカデミーか……」
「入学試験と授業料なしの特待生で入学させてくれるらしいんだけどよ。どう思う?」
じーさんの意見を聞いておきたい。
まあヒトシのやつが乗り気だったから、止められなかったわ。
熟考してじーさんが言う。
「……悪くはないな。【スコップ】というレア加護の持ち主なのだ。いずれヒトシ君が抜きんでた活躍をし、重要人物になるのは規定路線だ。ならばアカデミーで人脈で築くのは有益だろう」
「一方でヒトシの価値に気付くやつも多くなるんだぜ? 危険じゃねえか?」
「王族が絡んでしまったのだぞ? 最早変えられない未来ではないか」
「そこだ。じーさんならアカデミーに顔が利くだろう? ヒトシのこと、よろしく頼むぜ」
「できる限り力になろう」
まあ姫さんが贔屓してくれるだろうしな。
ヒトシもあれで如才ないやつだから、ルルイフのじーさんが目を配ってくれるならさして問題ないだろ。
「ザックはまたマツモティー村に行くんだな?」
「おう。まだ報酬の<見破り>のスキルストーンをいただいてねえしな」
そんな都合よくレアスキルを掘り出せることはねえんだろうけどよ。
既にいくつかスキルストーンをもらってるから全然損はねえ。
「王都に来たらワシの家で寝泊まりするようにと、ヒトシ君に伝えてくれるか?」
「ああ、じーさんが面倒みてくれるなら安心だな。わかった、言っとくぜ」
「ふふっ」
「何笑ってんだよ。気持ち悪いな」
「いや、ヒトシ君のことだよ。レア加護の持ち主はトラブルにも巻き込まれるのかと思ってな」
「嫌なこと言いやがって」
他人事だと思って面白がってるんじゃねえよ。
ただいきなり姫さんを救うなんて格好いい場面に遭遇したくらいだからな。
オレもあれはレア加護に導かれたのかもしれねえと思ってる。
ヒトシも因果なもんだぜ。
「そしてザックらが遭遇した事件には重要な示唆がある」
「示唆? 何だそりゃ?」
「一つはゼイパレス王国と隣国ティレニアとの関係が悪化するということ」
頷かざるを得ない。
ただの行き違いならいいが、姫さんを襲わせるなんてのがもしティレニア上層部の命令だったとしたら。
戦争だって起きかねない事態だ。
捕虜のやつらの尋問も進んでいるんだろうが、結果はどうなってるんだろうな?
冒険者には話が回ってこないぜ。
「もう一つは、ヒトシ君は今後もアクシデントに巻き込まれることがあり得るということ」
「えっ?」
「レア加護がトラブルを招くというのが本当であるならな」
レア加護は神が下界の者達の世界を発展させるために授ける特別な加護だ、という俗説がある。
となるとトラブルを集めて積極的に解決させるのがいい、っていう理屈になるんだよなあ。
じゃあやはりヒトシの周りには事件が起きると考えるべきなのか?
「ザックはイベントが好きだろう?」
「トラブルをイベント扱いするんじゃねえよ。冗談じゃないぜ」
ヒトシのせいでオレの運命までねじ曲がっちまうようだ。
オレがそれを望んでるからヒトシに関わろうとするんだろうって?
そんなことねえよ!
オレの人間が特別親切にできてるからだわ!
「ところで先日いい酒を手に入れたのだよ」
「おっ、じーさん話せるじゃねえか」
「ザックとヒトシ君の輝かしい未来に乾杯」




