第20話:生き残る秘訣
――――――――――あとから来るであろう村の衆を待つ間。ダドル視点。
「どうやったんだ?」
ヒトシに聞いてみた。
何をか?
悪党どもは三人、門番は一人。
本来なら勝てないはずの戦いだった。
門番が結構強いことは知ってるけど、現役の冒険者を圧倒できるほどであるはずがない。
それほどの腕ならメイエスで冒険者活動をしていたほうがよほど稼げるからだ。
ところが勝ってオレとホリノは助け出された。
楽勝だったように思える。
ということは、ヒトシはかなり強いということになる。
ヒトシがただレベル〇と一の壁を越えてるだけなら、明らかに戦い慣れしていて身体も大きい悪党どもとの戦力差を埋められたはずがないじゃないか。
門番が言っていた。
ヒトシの倒した魔物の死体は奇麗だから、相当鮮やかに仕留めてるんだろうと。
麻袋に詰められていたからヒトシの戦いっぷりは見えなかった。
謎を知りたい。
門番がニヤニヤしながら言う。
「おいヒトシ。ダドルとホリノにも見せてやれよ。お前の技を」
「はい」
オレとホリノだけじゃなく、悪党どもだって見てるんだが。
いや、門番はやつらにも見せておけっていう意図なんだろうな。
完全に意気阻喪させるためかもしれない。
ええと、スコップで土をすくって放り捨てるだけ?
「あっ?」
「おいおい、マジかよ」
いつの間にか近付いてきていた一〇頭以上のオオカミの魔物が、今の一振りで全部倒された!
何だ今の技は?
というか魔物が近付いてきてたことにさえ気付かなかったんだが。
悪党どもが冷や汗かいてる。
「ヒトシの【スコップ】の加護って、こんなにすごかったのか」
「いや、シャドウウルフは群れで襲ってくるから危険だけど、一匹一匹はあんまり強くないんだ」
「強くないったって……」
角ウサギよりはずっと強いだろう?
あの数をいっぺんにやっつけるなんて考えられない。
「偶然なんだ。初めて角ウサギに襲われた時、スコップを振り回したら当たってもいないのに倒せたことがあったの。で、飛ばした土くれに結構な殺傷力があることに気付いて」
「遠心力の分、ただものを投げたってのより威力があるんじゃねえか? 穴掘りの加護があってたまたま当たりどころがいいってこともあったんだろうけどよ。そこから技を磨いたヒトシはすげえよ」
門番はマツモティー村屈指の戦闘強者だろう。
その人にここまで言われるのか。
ヒトシはオレより遥か高みにいるのは認めなければいけない。
「それよりヒトシ。さっきの土くれアタックは手加減したんだろ?」
えっ? 手加減?
あっ、ヒトシも気まずそう。
イタズラがバレた時の顔っぽい。
でも手加減ってどういうことだ?
「コントロールは正確だったのに、まだ生きてるシャドウウルフがいるじゃねえか。ヒトシの土くれアタックは、シャドウウルフ程度じゃ生き残れないはずだ。すなわち生かしといたんだろ?」
「門番さんには敵わないなあ」
「ダドル、ホリノ。ヒトシはお前らにとどめを刺させて、レベルを上げてやろうって言ってるんだよ。せっかくだから甘えさせてもらえ」
「で、でも……」
「早くしろ。オオカミどもが死んじまったら経験値は入らねえぞ」
促されるまま倒れてピクピクしているオオカミの魔物、シャドウウルフに近付く。
やっぱり魔物だ。
迫力がある。
「こいつはまだ生きてるな。スコップ貸すよ。ぼくが押さえてるから、オオカミの首のところに刃を落としてくれる? それで死ぬと思う」
「う、うん」
言われた通りにスコップの刃を勢いをつけて落とす。
手ごたえがあった。
あ……。
「……本当だ。何か違う。独特の高揚感がある」
「ダドル。それがレベル〇と一の壁を越えた証拠だぜ。ヒトシに感謝しろよ」
「これがレベルアップか。ヒトシ、ありがとう」
「いや、ついでだったから。ぼくだってダドルん家で勉強させてもらうんだもの。全然感謝する必要なんかないよ」
……ヒトシがいいやつなんて、昔からわかってる。
誰かがケンカしても真っ先に仲裁するような、気持ちのいい性格だしな。
でもオレはどこかヒトシに嫉妬してたんだ。
可愛いパルと仲がいいからなんて、つまんない理由でだ。
オレは自分が恥ずかしい。
「ホリノも見てたな? 今ダドルがやったように、オオカミにとどめを刺せ。レベルが上がるぜ」
「おう!」
――――――――――ヒトシ視点。
ダドルとホリノが門番さんから<ステータスオープン>について教わっている。
もっともダドルは知ってたみたいだけど。
初めてのスキルって興奮するよね。
ぼくは門番さんにダガーを借りてシャドウウルフを解体している。
今日はダドルん家で勉強の予定だから、ダガーは持ってこなかったんだよ。
スコップは持ってるのかって?
スコップは何と言うかぼくの代名詞みたいなものだから、なるべくいつも携帯しとくこうと思ってるの。
……シャドウウルフのお肉はあまりおいしくないらしいので、持ち帰ったことはない。
でもいつもなら毛皮は回収して<ストレージ>の収納空間に入れとくんだ。
ただ<ストレージ>はレアスキルだからなるべく他人に見せるなって、ザックさんに言われている。
今日はかさばらない魔石だけ回収しとくんだ。
「ヒトシ、それは魔石だな?」
「あ、ダドル、ホリノ。もう<ステータスオープン>はいいの?」
「やり方はわかった。一人の時でもできるから、あとでじっくり検証する」
「そうだよ。今は解体の仕方を見せてもらおうと思ったんだ」
「勉強家だねえ」
「ヒトシはうまいじゃないか。どうしてだ?」
「門番さんに教えてもらったんだ」
「俺は一度角ウサギの解体を見せただけだぜ。ヒトシの物覚えがいいんだ」
ダドルとホリノが感心したような目で見てるけど、違うの。
一度見とけば<ガイド>のアリスが覚えていてくれるから、何度でも復習できるだけ。
「ヒトシ、毛皮は放置するのか?」
「数が多いですからね。もたもたしてると血の匂いで他の魔物が寄ってきそうじゃないですか。魔石だけ回収して場所を移動するのがいいと思ったんです」
「おう、ダドル、ホリノ。ヒトシは冷静で安全のことを考えてるだろ? あれが生き残る秘訣だぜ。無茶は絶対するんじゃねえ。いいな?」
「「はい」」
何か恥ずかしいよ。
ぼくの行動は、ザックさんに教わったことと<ガイド>アリスの指針に従ってるんだってば。
誘拐人三人組も感心してるみたいだけど、ぼく個人なんて全然大したことないの。
たまたまレアな【スコップ】という加護を授かる運があっただけ。
取り出した魔石を洗う。
「<ウォッシュ>!」
「ほお、ヒトシは洗浄魔法まで使えるのか」
「ザックさんにもらったんです」
ウソ。
自分で掘り出したスキルストーンから得た魔法。
でも結構重宝してるんだよ。
「できる師匠を持つと違うぜ。ヒトシはラッキーもあったよな」
「今日のレベルアップは本当にありがたかった。父上は危険な魔物退治なんて許してくれなかったと思うから」
「えっ? じゃあどうして怪しい冒険者なんかに頼んだの?」
怪しい冒険者三人が目を逸らしてますよ。
「……早くレベルアップすべきだと思った。でもちゃんとした人ほど、親の許可を取ってこいって言うだろう?」
「……ザックさんも言いそう」
「そんなことしてるといつまでもオレは前に進めない気がしたんだ。間違いだったが」
ホリノも頷いている。
ダドルもダドルなりの理由があったんだなあ。
ぼくも今にして思うと、レベルがあればやれることが多いなあと感じる。
誰かが先んじてレベル〇の壁を越えたと知ったら、絶対羨んだだろうなあ。
「ようやく村の衆達が来たぜ。おおい、ここだ! 全員無事だぞ!




