第19話:ダドル達を取り返す
門番さんよりも先行して道を進み、ダドル達をさらった三人の男達に追いついた。
<ステルス>で潜伏しているから、当然気付かれてもいない。
よしよし、ここまでは計画通り。
門番さんが追いついて誘拐犯の気を引くまで、やつらの様子を観察しながらこの状態をキープだね。
……男達が担いでいる麻袋が二つある。
中にダドルとホリノがいるんだな?
袋が動いているように見えるもの。
まずダドルとホリノが生きていることは確定のようでホッとしたよ。
スコップ土くれショットの用意をしながら、そろそろと追跡っと。
麻袋に当てないように注意しないとな。
おっと、門番さんがもう来たぞ?
「おい、お前らちょっと待て! その麻袋を置いてけ!」
門番さん上手。
男達が門番さんに注意を向けたぞ。
よし、チャンスだ。
死角からスコップ土くれショット!
「があっ?」
「痛え! あっ、兄い?」
「ちくしょう、やられたか。あの門番野郎、何をしやがった?」
思い通り三人にダメージ!
一人の頭にはクリーンヒットだ。
意識を失ってるから当面戦闘不能だろう。
しかも門番さんが何かしたと思ってる。
しめしめ、ぼくの存在はまだバレてないな。
でもこれでぼく達が有利になったと思うのは早計だ。
ダドルとホリノが人質に取られているから。
<察知>や<直感>からすると、三人組は大したスキルを持ってないと思う。
ただこの距離だと<見破り>は効かないから確実ではない。
明確に有利なのは、ぼくにまだ気付いていない点だな。
ならばもうちょっと潜伏しているべき。
「ハハッ。何されたかもわからねえようじゃ、俺の敵じゃねえな。とっとと子供を置いて逃げるがいいぜ。そうしたら見逃してやらあ」
「な、何を?」
門番さん煽りがうまい!
完全にぼくはノーマークだ。
再びスコップ土くれショット!
「うおっ!」
「ちくしょう! あいつじゃねえ! まだ他に仲間がいやがる!」
意識は刈り取れなかったけど、結構なダメージだと思う。
門番さんが斬り込んだ!
一人を打ち倒す。
「おいおい、どこ向いてんだよ。舐め過ぎじゃねえか?」
「く、来るな! 子供がどうなってもいいのか!」
「ちっ」
血をダラダラ流しながら麻袋にダガーを突きつける誘拐男の一人。
門番さんが下がりながら、最初ぼくの土くれショットがクリーンヒットして意識朦朧としていた男の頭を蹴飛ばし、昏倒させた。
残りは一人。
しかし門番さんは完全に警戒されている!
<ステルス>状態のまま誘拐男に近付く。
「うおっ! 何だこのガキ。どこから現れやがった?」
「ヒトシ!」
「<モノボルト>!」
接触電撃魔法を食らわせる。
よし、痺れてダガーを落とした!
「ヒトシ、お手柄だぜ!」
門番さんが飛びかかって絞め落とした。
門番さんは強いなあ。
麻袋の口の紐を解く。
「ぷあっ!」
「よう、ダドル。助けに来たぜ。大丈夫だったか」
「ほ、ホリノは? カズはどうなった?」
「カズが村に知らせてくれたんだよ。ホリノも……多分大丈夫。寝てるみたい」
「マジで寝てるのかよ? 神経が太えな。恐れ入ったぜ」
アハハと笑い合う。
ダドルの強張っている顔がようやくほぐれてきたね。
「オレのせいなんだ。オレがバカだったから、ホリノやカズまで危ない目に遭わせてしまった」
「ダドル……」
「責任問題はあとだ。ヒトシ。ダドルと一緒につる草をできるだけたくさん集めてこい。こいつらを縛り上げとかねえと安心できねえ」
「はい」
「ダドル。ヒトシから離れんなよ? せっかく助かった命を魔物にくれてやるのはもったいねえからよ」
「う、うん」
門番さんは縁起でもないことを言うなあ。
いや、ダドル一人じゃ危ないことは事実なんだけどさ。
――――――――――三十分後。
「ぐあっ!」
「騒ぐんじゃねえ。悪党どもが」
三人の誘拐男を縛り上げて猿ぐつわを噛ませたあと、門番さんが三人の足首の腱を切った。
門番さんは容赦ないなあ。
見てるこっちが怖い。
でも相手は誘拐犯だもんな?
厳しく毅然とした態度が必要なことだって当然あるんだろう。
勉強になる。
痛みで正気を取り戻した誘拐男達に、門番さんが悪い顔で言う。
「状況はわかるな? お前達の手足は縛られている。足の腱を切断してあるから独力じゃ絶対に逃げられねえ。ここに放置すりゃお前らの運命は、クマのうんこかオオカミのうんこのどちらかだ」
恐怖にひきつる三人の男達。
ひどい言い方だなあ。
ぼくがこっそり<見破り>で見たところによると、三人とも回復魔法は使えない。
荷物も取り上げたから、魔法薬で傷を癒すこともできない。
門番さんの言う通り、魔物の餌食になると思う。
<直感>や<察知>でも三人に余裕がないことがわかる。
「ボスはお前だな? お前の猿ぐつわを外すから、死にたくなければ俺達の質問に正直に答えろ。俺達は真っ当な村人だからウソは吐かねえ。俺達の納得する説明をもらえれば、命は保障しようじゃねえか。どうだ?」
コクコクと頷くボスらしき男。
門番さんが猿ぐつわを外した。
……うん、すっかり観念しているな。
危険はない。
門番さんが質問する。
「この道はティレニアに繋がってるんだ。お前達はティレニア人で間違いねえな?」
「ああ」
「冒険者崩れか?」
「崩れというか、現役の冒険者のつもりだがね」
冒険者だからって、誘拐なんかしていいわけがない。
どういうことだろう?
「来る時は北の街道から来た。子供を引っさらって、追手のかかりにくいこの山越えの道で戻る予定だった、だな?」
「その通りだ。オレ達も地図上でしか知らねえ道なんだ。こんなに荒れてる全然使われてない道だとは思わなくてよ。間違えたかと、そっちのガキに確認したくらいだ」
ダドルが俯く。
「お前、俺にも聞いたじゃねえかよ」
「地図だともっとしっかりした道だと思ったんだよ。あんたオレ達のことを怪しんでたろうが。欺こうとしたことだってあり得るからな」
「どうして子供達をさらった? いやまあ子供は価値が高い。売り飛ばすためなんだろうけどよ。子供の一人は村長の息子だぜ? いかに隣国ティレニアとはいえ、手が後ろに回る可能性は高かった。ヤベえことに手を染めたのは何故だ?」
「……ティレニアとゼイパレスは近い将来戦争になるんだ。今ゼイパレスからさらって来てもうやむやになっちまう」
「何だと!」
急いで残り二人の様子を観察する。
ぼくの<直感>からしても、この二人もそれを当然のこととして受け取っているように見える。
戦争だって?
タスミン姫の乗ってた馬車が襲われたことと関係があるかな?
「戦争だと? おいこら、フカシ過ぎだろ」
「本気にするかしないかはあんたの自由だ。しかしティレニアの冒険者あるいは傭兵界隈で、かなりの信憑性のある噂として流布しているのは本当だぜ。調べさせりゃ簡単に裏を取れることだがな」
「門番さん。友好使節としてティレニアを訪問したタスミン第三王女が、ゼイパレスに帰ってくる時、襲撃されたのは事実なんですよ」
「ティレニア勢にか?」
「多分。その件でタスミン姫を救ったザックさんが、現在事情を説明するために王都へ行ってるんです」
「マジかよ……」
ぼくの知ってることもここまでだ。
戦争になるんだと大変だ。
普通に考えればティレニア軍の侵攻ルートは北の街道だろう。
なら北の街道沿いで会戦になるんだろうけど、遊撃や陽動の部隊が山越えのこの道から来ることだってあり得るんじゃないかな?
あとでアリスに相談してみよう。
考え込んでいた門番さんが言う。
「ま、俺達が考えても仕方ねえな。対応策を考えるのは村長の仕事だ。村の衆が援軍で来てくれればこいつらを運べる。それまで待機だ」




