第16話:村長の息子ダドル
――――――――――村外れの門にて。村長の息子ダドル視点。
マツモティー村には魔物のいる森に通じる道がある。
間違って出て行くと危ないので門番が常駐している。
この門番が言うのだ。
「よう、ダドル。お前ヒトシと同い年だったか? 今年聖見式の」
「ああ、そうだ」
「ヒトシはすげえぜ。一人でビシバシ魔物を狩ってるんだ。俺もしょっちゅう角ウサギの肉をもらうことがある」
「えっ?」
ヒトシが一人で魔物を狩ってる?
衝撃だった。
あいつの加護は穴掘りだろう?
全然戦闘向きじゃないと思っていたのに。
「ヒトシが魔物を倒してることを、もっと詳しく教えてくれ」
「ヒトシの加護は【スコップ】とかいう、穴掘り特化のやつなんだろう?」
「ああ」
「村の中で穴掘ってると都合がよくねえから、村の外で掘ってるのさ。こっちは魔物がいる関係で来る人がほとんどいねえから、迷惑がかからないってことだと思う」
「そこまでは聞いてる。でも森まで行かなきゃ魔物は出ないんだろう?」
「実はそんなことねえ。角ウサギみたいな弱い魔物は森の外まで出てくることがあるんだ」
そうだったのか。
知らなかった。
「ヒトシのやつ、穴掘ってたらいきなり角ウサギが突撃してきたって言ってたぜ。たまたま魔物と鉢合わせして戦闘になったんじゃねえかな」
「一人で? いつもヒトシとつるんでる何とか言う冒険者と一緒じゃなくて?」
「初めて仕留めた時は一人だったぜ。俺も大したもんだと思ったからよく覚えてる」
バカな。
じゃあヒトシは既にレベル〇と一の壁を突破しているのか。
戦闘面では【剣術】の加護持ちのオレがトップを行くものと思っていたのに!
ヒトシなんかに先を越されると焦る。
……羨ましいという思いもある。
「オレも魔物を倒す!」
「まあダドルがそう言いだすことはわかってた。意気込みは買えるけど、やめとけ」
「どうして!」
ヒトシばっかりズルいじゃないか!
オレは【剣術】の加護持ちだ。
ヒトシよりよほど魔物退治には向いているはず。
「ダドル。お前魔物を倒すためにどうするつもりだ?」
「知れたこと。森に入って角ウサギみたいな弱い魔物を探して……」
「やっぱりダメだ。ここを通す許可は出せねえな」
「ヒトシばっかり贔屓するな!」
門番が首を振る。
何だ? オレのどこが悪いんだ?
「角ウサギを標的にするんだな?」
「この辺では一番弱い魔物なんだろう?」
「まあな。角ウサギは目が合うと突っ込んでくるんだ。知ってたか?」
「……知らなかった」
「ヒトシは俺に聞いて予習してたぞ? 戦いのあと、目も合わせてないのに突撃してきたから泡食った、と言っていたがな」
「……そうか、オレは準備が足りてないのか」
「少し頭が冷えたか?」
焦る必要なんてなかった。
門番は注意するためにわざわざヒトシの話を持ち出したのか。
「それと初めての魔物狩りなら、森の外で待ち構えているのがいい。まず間違いなく単体と戦えるからな」
「なるほど」
森の中だと複数体と戦わなきゃいけなくなるケースもあり得るか。
確かに危険だ。
「わかってきたか? 弱い角ウサギだからって舐めちゃいけねえ。最初の狩りは経験者と行くのがいいぜ」
理解はしているが、父上は魔物狩りの許可なんかくれないだろうなあ。
「……オレは王都の学校に通おうと思ってる」
「それがいい。村長の息子だもんな。剣術だけに頼るのはもったいねえよ」
「どうせ学校でレベル上げの実習があるから、それまでは大人しくしてろって、父上は言うんだ。勉強にしても剣術の稽古にしても、やることはたくさんあるからって」
「……わかる。が、個人的には必ずしも賛成できねえな」
「門番さんはどう考えてるんだ?」
「レベル〇と一とでは全然違うってことさ。可能なら早く壁を越えたほうがいい」
レベル〇と一の壁って高くはないと思う。
でも感覚はそこまで違うものなんだな。
憧れる。
「門番さんはレベル〇と一の壁を越えてるんだな?」
「もちろん」
「オレが角ウサギ倒しにいく時、同行してくれないか?」
「行ってやりてえのは山々だが、俺は非常時以外門を離れられねえんだよな」
「あっ、そうか」
「ヒトシに付き合ってもらえよ」
「ヒトシに?」
レベルも低いし経験も少ないだろう?
大体同い年のやつに手伝ってもらうなんて嫌だ。
「戦闘系の加護でもないのにって懸念があるんだろうけどよ。ヒトシはすげえぜ。魔物の死体が奇麗なんだよ」
「死体が奇麗?」
どういう意味だろう?
「例えばダドルよ。自分が角ウサギと戦うところを想像してみろ。角ウサギの動きは相当素早い。初めて戦うとすれば、当然苦戦するだろ?」
「うむ」
「すると当然、勝ったとしても角ウサギの死体はズタボロになるわけよ。ところがヒトシの倒した角ウサギは奇麗だから、相当鮮やかに仕留めてるんだぜ。実際に戦ってるところを見たことはねえけどよ」
だからヒトシに教われってことか。
わからなくはないが……。
「噂をすれば何とやらだ。ヒトシが来たぜ。頼んでみろよ」
――――――――――ヒトシ視点。
あれっ?
こんな村外れにダドルがいる。
珍しいな、何の用だろう?
でもちょうどよかった。
勉強する時ぼくも参加したいから頼んでみよう。
「おい、ヒトシ」
「何かな?」
「お前角ウサギを倒してるって本当か?」
「本当だよ」
実はちょっとずつ森の深いところにも入ってるから、ずっと強い魔物とも戦ってるけど。
いや、ぼくのレベルからすれば大したことのない魔物ではあるよ?
でもシャドウウルフなんか群れでかかってくるから、結構な練習になるの。
魔石も毛皮も得られるしね。
「お前ばっかり卑怯じゃないか!」
「えっ?」
「おい、ダドル」
卑怯? 何が?
何か門番さんとダドルはわかり合ってることあるみたいだけど、ぼくわかんない。
「卑怯と言われても……」
「ダドルもレベル〇と一の壁を越えたいんだとよ。ヒトシもわかるだろう? レベル一になった時の爽快さが」
「そうですね」
ぼく気絶してたのでちょっと。
むしろ突然レベル三二だから、戸惑いのほうが大きかったな。
それにしてもダドル不機嫌だなあ。
プライドが高いから、ぼくなんかに先を越されて嫌なんだろうな。
「ヒトシ、ダドルのレベル上げのサポートしてやってくれよ」
「もちろん構わないけど」
ぼくはパルや父ちゃんをレベル上げした経験がある。
角ウサギを瀕死にしておいてダドルにとどめを刺してもらえばいいだけ。
でもぼくが手伝うこと自体に不満があるんじゃ、よろしくないんじゃないの?
勝手なことされるとケガしそうだし。
ダドルのプライドを刺激しないためには……。
「でもぼくよりもザックさんに教わるのがいいと思うよ。本職の冒険者だし。またマツモティー村に来るって言ってたから、その時に頼んであげるよ」
「ヒトシと一緒にいることが多かった冒険者だな? 本当か?」
「もちろんだよ」
よし、これなら大丈夫だな。
ダドルも嬉しそうだし。
「ところでダドルも勉強してるんだろう? ぼくとパルも仲間に加えてくれないかな?」
「勉強? 何故だ?」
「だってぼくは王都の学校に通いたいから。田舎者はものを知らないなんて思われるのが嫌なんだ」
あれっ? ダドルの顔色が悪いぞ?
まさか勉強してないなんてことはないと思うけど。
「ヒトシの言うことももっともだな。バカにされるのはかなわん。勉強に身を入れよう。ところでパルは何でだ?」
「パルも王都へ行きたいんだって。【料理】の加護持ちでしょ? 王都のいろんな料理を知りたいみたいで」
「ああ、なるほど。よし、今度オレの家に来い。王都行きの者皆で勉強会だ」
「ありがとう!」
これでバッチリだな。
パルも喜ぶだろう。




