第13話:決着
「……どうやら<察知>持ちはいませんね」
「……おう、人数は護衛の三倍くらいいるけどな」
剣戟の音と裂帛の気合いを込める声がする。
明らかに戦闘中だ。
ザックさんは緊張するなって言ってたけど、ムリじゃない?
息を潜めて戦闘の場に近付いた。
護衛の騎士の皆さんは馬車を背にして必死に防戦している。
余裕があるのは人数の多い襲撃している側だけど?
「……ヒトシわかるか? 襲ってるやつらは盗賊じゃねえ。騎士か正規兵だ」
「……そうなんですか? 格好がバラバラでみすぼらしいですけど」
「……お前は剣術の心得がねえからな。あれは我流じゃなくて正統派の剣術だぜ。そして武器が揃ってるだろ?」
「……本当ですね」
「……レベルよりは手強いと思えよ」
勉強になるなあ。
でもまさか人間と命のやり取りになるとは。
ビビっちゃだめだビビっちゃだめだ。
ザックさんの言うことをよく聞こう
「……いいか? ヒトシは反対側に回り込め」
「……はい」
ぼくはスキルストーンから<ステルス>というスキルを得ているんだよ。
気付かれにくく行動できるというもの。
あんまり熟練してるわけじゃないけど、これだけバタバタしている場で<察知>持ちがいないなら、誰にも知られず反対側まで行けると思う。
「……まずオレが連続<投石>で攻撃を仕掛ける。間違いなく闖入者であるオレに注意が向くから、例のスコップ土くれショットを浴びせろ。かなり数を減らせるはずだ」
「……了解です」
「……お前の強みは遠距離から複数を相手にできることだ。強みを捨てて近接戦闘しようなんて、絶対に考えるんじゃねえぞ?」
「……わかってます」
「……よし行け」
一応ぼくも近接戦闘に使えるスキルを習得していないことはないの。
もちろんスキルストーンから得たものなんだけど、正規の剣術や体術の訓練を受けている人に比べるとなあ。
ぼくは子供で身体も小さいし。
騎士や正規兵になる人は戦闘系のスキル持ちだと思うし。
いくらレベルでたくさん勝ってて身体強化魔法<ストロング>があるとしても、近接戦闘で二人以上の相手はとてもムリだと思う。
でもぼくが有利な点もあるよ。
足の速さなんかはそう。
レベル差と身体強化魔法があるから、もし【俊敏】の加護や<俊足>のスキル持ちの人がいたとしても追いつかれないと思う。
もし追いかけられたら、ぼくは逃げる手はずだ。
馬車に集まる敵の人数が減れば、味方は有利になるから。
距離が開けばスコップ土くれショットで反撃もできるし。
「ぐおおおお?」
「な、何だ?」
ザックさんの<投石>が始まった。
よし、敵が混乱に陥っている。
いつもスコップを持ってる時ばかりとは限らないから、ぼくも<投石>を覚えて鍛えたい。
いつか<投石>のスキルストーンを掘り出せるといいな。
まだ出ないんだけどよくあるスキルらしいから、その内手に入るんじゃないかな。
ザックさんに敵の注意が集まっている。
よおし、ぼくの出番だ。
スコップ土くれショット!
「ぎゃああああ!」
「ちくしょう! まだ隠れてるやつがいやがるのか!」
ザックさんが<投石>で確実に敵の数を減らしてる。
ぼくももう一発スコップ土くれショット!
ガードされちゃうとぼくの技じゃ倒せないな。
でもいいんだ。
ぼくのほうに注意を引きつければ、ザックさんの<投石>と護衛兵の剣技で敵をやっつけられるから。
三度スコップ土くれショット!
「くそっ、広範囲に土が飛んでくるあの技何なんだ。見たことねえぞ!」
「おい、あのチビ邪魔だ! 片付けろ! 三人でかかれ!」
「「「おう!」」」
うんうん、想定内の事態だね。
スコップを担いですたこらさっさと逃げる。
「チビ待て!」
「待たないです」
「くそっ、足速え!」
「どこ行った?」
木々を利用して視線が切れたところで<ステルス>を発動。
やっぱりぼくを見失ってる。
追っ手の死角に回って思いっきりスコップ土くれショット!
「「「ぐあっ!」」」
やった! 三人倒した!
<ステルス>状態のままこっそり馬車の近くまで戻り、死角からスコップ土くれショット!
よし、大勢は決まった!
逃げようとしていた敵の指揮官と思われる人に、ザックさんの<投石>がまともに入った!
逃げた敵は三人だけか。
大勝利だ!
護衛兵の隊長らしき人が話しかけてくる。
「貴殿ひょっとしてザック殿ではないか? ゴールド冒険者の」
「そうだ」
「おお、御助力かたじけない!」
「こっちは弟子のヒトシな」
「うむ、実に見事なスコップの技であった」
「ありがとうございます」
「オレも事情を聞きたいが、話はあとだ。賊は縛っちまおう。ヒトシはまず魔法で護衛兵のケガ人を回復させてくれ」
「はい」
◇
――――――――――三時間後、チェフにて。
幸いなことに、護衛兵に死者はいなかったんだ。
敵の生き残りを引っ立ててチェフまで戻ってきた。
「危ないところを助けてくださってありがとう存じます。ゼイパレス王国第三王女タスミンと申します」
馬車の中にいた王族って、奇麗なお姫様だったんだよ。
歳はぼくと同じくらいかな?
それなのに公務でお隣のティレニア王国に行ったりしてるんだ。
偉いなあ。
ザックさんが言う。
「オレ達は街道からちょっと離れたメイエスにいたんだ。そこで王族の馬車が襲われてるだか襲われそうだかって聞いてよ。伝令兵が冒険者ギルドで危機を伝えたそうな。オレもまた聞きなんで、詳しいことは知らねえ」
「何と。ではメイエスにも使いを出さねば。事態は収束したと」
「で、どういうことなんだ? あいつら盗賊なんかじゃねえ。騎士か正規兵だろ? 白状するかは疑問だが」
苦々しい顔の護衛隊長デクスターさんが説明してくれる。
「……ザック殿は御存じではないか? 隣国ティレニアの国情を」
「王家が贅沢で税金上げたところに冷害で不作が襲った。商人も値を吊り上げてるんだろ? 物価の上昇で庶民に不満が高まってるってことは聞いてる」
「その通り。そこでタスミン姫を派遣して、我がゼイパレスとの交易を盛んにしようと提案を行ったのだ」
ゼイパレスは特に不作じゃなかったから、作物を輸出すればティレニアの人達も助かると思う。
悪くないことだと思うけど、どうしてタスミン姫の馬車が襲われたんだろう?
「ところがティレニアを怒らせてしまってな」
「どうして?」
「真剣みがない。子供の第三王女じゃなくて、もっと高位の王族か権限のある経済官僚を寄越せということで」
ええ?
ひどい話だな。
タスミン姫が可哀そう。
「……ははあ。つまりティレニアはそれだけ追い詰められていて、ゼイパレスに責任を押しつけざるを得ないって状況か?」
「さよう」
「つまり襲撃者はティレニアのやつらか。姫さんを亡き者にして戦争を起こそうとしてるんだな?」
「おそらくは」
えっ? 戦争?
ちょっと理屈がよくわからない。
あとで<ガイド>のアリスに教えてもらおうっと。
「大体わかった。オレにできることはあるか?」
「小官らに同行して王都まで来てもらえると大変助かる。小官にも見えていないことがあろうからな。傍から見てどうなのかという意見をもらえると、陛下も参考になると思うのだ」
「いいぜ」
「かたじけない。では謝礼について王都に着いてからということで」
「一部を先払いしてくれねえかな。オレの弟子ヒトシはまだ一〇歳でよ。冒険者ギルドに登録する資格がねえんだよ」
「ほう、あれほどの実力で一〇歳」
「オレと護衛隊長のあんたの推薦があれば、ヒトシの登録は認められると思うんだ」
「素晴らしい働きだった。小官でよければ喜んで推薦させてもらおう」
やった、嬉しいな。
ん? タスミン姫とデクスターさんがぼくのほうを見てくるけど?




