第10話:パルを仲間に
――――――――――宿屋の娘パル視点。
最近怪しいお客さんがいるんです。
ザックさんという目付きの鋭い二〇歳くらいの男性です。
職業は冒険者とのことですけれども、だったらマツモティー村に用なんかないはずですよね?
魔物がいることはいますけど、特に困っていることはないですし、誰かが冒険者を呼んだというわけでもありません。
マツモティーみたいな田舎村には冒険者ギルドもないですし。
王国西部に用がある冒険者だったら、マツモティー村じゃなくてもっと大きいメイエスの町にいるべきです。
メイエスには冒険者ギルドがあるって聞いてますもの。
私にだってそれくらいのことはわかります。
マツモティー村に長居するのは何故でしょう?
まあザックさんは聖見官様がお連れになった方ですし?
ずっと先までの宿泊料を先払いしてくれていることもあります。
両親はいいお客さんだと思っているみたいですけど、私は騙されませんよ。
絶対に何か目的があるはずです。
もう一つおかしいのは、どうやらザックさんはヒトシとつるんでいるようなのです。
どうして?
ヒトシはとても真面目ですので、冒険者なんかと接点はないでしょう?
ひょっとしてヒトシを悪い道に引き込もうとしているのでは?
だってザックさん、軽薄そうな感じがしますもの。
「夜の分のシチューはできたわ。あとは余熱でとろけるよ」
「御苦労さん。パルは休憩入って」
「はあい」
チャンス!
今日は早く終わったから、夕方までは時間があるわ。
ヒトシを追いかけようっと。
ヒトシは穴掘りの加護を愚直に鍛えていますからね。
どうせ村外れで穴を掘ってるに決まってるわ!
◇
――――――――――村外れにて。ヒトシ視点。
「おい、ヒトシ。どうすんだよ。あれ、宿屋の娘だろ?」
「はい。パルですね。ぼくと同い年なんですよ。【料理】の加護持ちで、大体毎日シチュー作ってます」
「【料理】の加護持ちだったのか。道理でシチュー美味いと思ったわ」
「ぼくも時々御馳走になるんですよ」
「ってのはさておき、何でついて来てるんだよ。しかも隠れてるつもりだぜ?」
今日もいつものように、ザックさんに冒険者の心得を教わりながら森の探索をするつもりだった。
すごくためになるんだよ。
でも何故かパルが追いかけてきている。
本当に何でだろ?
パルがいるんじゃ、森に入って魔物狩りするわけにいかないし。
困ったな?
「可愛い子じゃねえか。ヒトシの彼女なのか?」
「仲のいい幼馴染ですよ」
「にしちゃあ、敵意を感じるんだが」
「ぼくは感じませんね」
ザックさんもぼくも<察知>持ちだから、低レベル者が向けてくる意識を間違うことはないの。
ということは、パルはザックさんに敵意を向けている?
「つまりオレが怪しまれてるってことか。やってられねえな」
「いや、ザックさんほどの冒険者が平和な村にずっといるって、考えてみればおかしいですよね?」
「まあな。でもお前と一緒にいることが多いから大丈夫だと思ってたぜ」
それを言われると。
ただぼくもなるべく目立たないようにしてたからな?
余計ザックさんが怪しく見えちゃったかも。
となると……。
「……パルには話しておくべきですよね。ザックさんはどう思います」
「おう、彼女には話しとけ」
「彼女ではないですってば。でもパルは明るいいい子ですから、事情を知っていればザックさんのことも村の衆にいい感じに話しといてくれると思うんですよ」
「なるほど。じゃああの子も仲間に引き込め」
「は?」
仲間って、魔物退治させてレベル〇の壁を超えさせろってこと?
……悪くないかもしれないな。
パルも王都に行きたいって言ってたし。
自分のレベルが上がってみてわかったけど、やっぱりレベルは上げられる時に上げるのがいいと思う。
レベルが上がって損なことはない。
村を出るとどんな危険があるかわからないし。
いや、村にいたって魔物に襲われる危険がゼロではないもんな。
「あの子に良さそうなスキルストーンも持ってるんだろ?」
「<ヒール>と<解毒>、<ウインドカッター>が余ってますね」
<ヒール>はケガした時などに癒す回復魔法。
<解毒>はその名の通り、体内の毒を抜く魔法で、この二つはぼくも習得しているんだ。
<ウインドカッター>は風攻撃魔法だけど、ザックさんにぼくは覚える必要ないって言われた。
『ヒトシは土くれを飛ばす技が抜群に優秀だから、遠距離攻撃魔法の必要性は低い。魔力は身体強化魔法に回すべきだろ。ヒトシの魔法力は高いほうじゃねえし』
『スキルはできるだけたくさん覚えとくのがいい、のではないのですか?』
『普通ならな。だがヒトシは今後スキルを習得するチャンスはいくらでもあるんだろ? じゃあ使えるスキルの熟練度を上げて応用力を高めるのがいいぜ。時間は有限なんだからよ』
スキルの熟練度を上げる時間は有限というのは、その通りだなあと思った。
なら<ウインドカッター>はパルにあげよう。
「三つもか。気前がいいな」
「おおい、パル! こっちへおいでよ」
ビクッとしたけど、すぐにこっちに来た。
ぼくの【スコップ】の加護からザックさんのことまでホニャララ。
「じゃあザックさんは怪しくないのね?」
「怪しくない。すごい人だよ。ぼくの師匠」
「やっぱり怪しまれてたか。泣けてくるぜ」
「でもヒトシが軽々魔物を倒せるなんて信じられない」
「オレも他所ではお目にかかったことがねえ、結構な技だぜ。百聞は一見に如かずだ。パルちゃんもヒトシの雄姿を見たいだろ?」
「……見たい」
「せっかくだから見ようぜ。ちょうどいい具合に魔物が出てきただろ?」
「こ、怖い!」
珍しいな、角ウサギがこんなところまで出てきた。
あ、ザックさんがウインクしてる。
ひょっとして魔物を寄せるスキルとかを持ってるのかな?
手加減してスコップ土くれショット!
「あっ? 魔物が倒れた?」
「ヒトシは大分手加減してたぜ? おそらくパルちゃんにとどめを刺させるためだ」
「えっ?」
「魔物を倒せばレベルが上がる。レベル〇の壁を超えれば世界が変わるからよ」
「パル、スコップ貸してあげる。角ウサギは押さえとくから、首にスコップを落としてくれる? それだけでこと切れると思う」
「わ、わかったわ」
震えてるように見えたけど、しっかり倒したね。
「何かちょっと……感覚が違うような気がするわ」
「レベル〇の壁を越えたからだぜ」
「おめでとう、パル」
「<ステータスオープン>と唱えてみ?」
「<ステータスオープン>ですか? あっ?」
自分の能力を把握できるようになっているだろう。
ビックリするよね。
「そこでパルにプレゼントだよ。これをどうぞ」
「何なの? 石?」
「スキルストーンという、スキルを覚えられる石だよ」
「……ひょっとして、ヒトシの【スコップ】の加護で掘り出したもの?」
「そう」
「いいの? もらってしまって。高価なものではないの?」
「まあ買えばその三つで二〇〇万ゴールドは下らねえな」
「ええっ?」
「いや、買えばの話だから。実際はぼくが掘ったものだからタダ」
「ヒトシの【スコップ】の効果は頭おかしいよな」
頭おかしいって。
ありがたい加護だとは思うけど。
「ありがとう。大事にする」
「覚える覚えると念じて、ぎゅっと握ってりゃいいぜ。レベル一だと一分くらいかかるかな。習得までの時間は個々のスキルストーンにもよるんだけどよ」
スキルストーンって、レアじゃなくても結構高価なものみたい。
何とかスキルストーンを売る手段があれば、パルも王都に連れていって勉強させてあげられるんだけどなあ。
ぼくが売るんじゃいかにも怪しい。
今度ザックさんに相談してみよう。




