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極楽地獄還魂記  作者: 有嶺 哲史
第三章 ラッピのハルマゲドン
10/13

戦争準備

 当面の問題はもめごとの方で、極楽、地獄双方とも譲らない。

業を煮やした極楽は天界と結託して天極(てんごく)連邦と称して戦う意思を示した。

対抗して地獄は修羅界と同盟して羅獄(らごく)同盟と称した。

ここに両陣営に別れて大戦争が勃発することになった。


 天界というのは六道の一つであって天人や天女がいる所である。

芸者のように天女が呼ばれて極楽に行くことがよくあって、昔から関係が深かった。

蛇足ながら、そこで天女は秘密の仕事で身を汚しているという噂もあるとかないとか。


 地獄と修羅道の間は、元は全く隔離されていた。

しかしあるとき秘密の抜け穴が作られて密かな交流ができていた。

昔のことになるが、フリアーナの命令でおれが地獄のほころびを修復しに行った時に、地獄にいた土建屋の知人が協力してくれた。

そのとき知人は何を思ったか、この抜け穴をこっそり作っていたのだ。


 人界と畜生界と餓鬼がき界でも一部の者には、この対立が知られていた。

しかしそれぞれの界内部で話をまとめられず、そのまま傍観することになった。



 元々母宇宙の中では極楽が西方上にあり地獄は東方下にあった。

両者の間には母宇宙の中の長い坂道チャンネルが繋がっている。

道の周囲には花の咲く木々が植えられていて、所々に広場のように休憩できる美しい場所もある。

季節になると花見客が出た。

坂道の真ん中あたりに見事なブロンズ彫刻に飾られた大きな門が立っていて、そこが両界の結界が接する場所だった。

門の地獄側の真ん中には座って晩飯をどうするか考えこんでいる人のブロンズ彫刻があり、極楽側には巨大な蓮の花に座っている菩薩の大理石彫刻があった。

門のまわりに塀はなく、門が開いていなくても廻りこめば自由に行き来できた。

最大の特徴は、誰でもこの坂道に乗れば自然に移動してゆく、いわば動く歩道のようになっていることだった。

このおかげで地獄-極楽間はすぐに移動できる

他に両界の間にはケモノミチのような抜け道やシャボン玉時空のように母宇宙の中を飛んで移動する手段もあった。

ただしシャボン玉タクシーは有事の際には営業を停止する可能性が高い。


 普段は見ないが翼の生えた天馬も少なからずいて、たまにレジャーで乗りこなす人もいる。

坂道の中間の大きな門から横道に入ってしばらく行くと別の門が現れる。

扁額に


「幻獣の国」


とあった。

そこに天馬の他、古代、西洋、インド、中国などに伝承された幻獣のモデルになった生物がいる。

そこには幻獣並みに珍しい人間がいた。

彼らは


「倭人」


と呼ばれているらしい。



 羅獄同盟の戦士たちが勢ぞろいすると、地獄オリジナル軍団は牛頭馬頭(ごずめず)とラッピだけだった。

奪衣婆(だつえば)は、戦いには協力するが高齢なので兵にはならないといった。

審判官である十王たちは戦いが怖くて隙あらば皆逃げようとしていた。


ラッピは不服そうに言った。


「私たちの味方、なんでこんなに少ないの?」


牛頭は言った。


「昔から人々は地獄のことをあまり考えてくれなかったので想像図でもこんなものだよ。それに引き換えアッチの方のにぎやかなこと」


馬頭は言った。


「その代わり地獄の邏卒(らそつ)は無限の分身の術が使えるのだよ。分身といっても幻じゃない。本体と何も変わらない力を持っている」


と馬頭が言えばラッピが言った。


「じゃあ私たち、何百万、何千万の軍勢と一緒ね」


すると牛頭が言った。


「でも我々の結界から出ると術が効かなくなるので気を付けるんだよ、ラッピちゃん」


修羅界からはプロの鎌倉武士たちがやってきた。

大将は九郎判官源義経くろうほうがんみなもとのよしつね、略して九義経(くぎつね)

なんだか九尾の狐みたい。


 ラッピたちは彼等から事前に鎧をもらっていた。

目の前の牛頭馬頭は伝承と違い下半身も獣身だった。

首の下から両手を含み、臍までが人身だった。

それで腰からぶら下がる草摺(くさずり)りが邪魔になる。

だからそれを外していた。

 馬頭の得物(えもの)は槍、牛頭の得物は長い薙刀(なぎなた)だ。

ラッピの得物は? と馬頭がラッピを見た時驚いて大きく(いなな)いた。


「ラッピちゃん、そっ、それは……」


乳房が納まるように胸板を膨らませている。

ウエストは女らしく絞っていて……草摺りどころか臍から下は丸裸だった。

年頃の処女らしい丸く張った白い腰部が目立ち、見ている方が恥ずかしくなる。

手にはかの西遊記の魔物、鉄扇公主から伝わったという鉄扇を持っていた。


「そんな鎧でいいの?」


「だってぇ、お母様に女の武器を使え、といわれるのでその通りにしたのよぅ」


牛頭も振り返って


「女の武器?」


牛頭も馬頭も男、いや雄だった。

牛頭はつい本能的にラッピの股間に眼を落した。

その途端頭に激痛が走り頭蓋骨は


「グワ~ン」


という、いかにも愚かしい音を響き渡らせた。

ラッピが持っていた鉄扇で打たれたのだ。


馬頭も思わず男の本能でラッピの下半身を見たとき


「ゴオ~ン」


彼の頭骸骨は梵鐘(ぼんしょう)のように響いた。

ラッピの戦闘方法はこれだけではない。


腰の太刀でチャンバラもできる。



 そのあと九義経を囲んで作戦会議が開かれ、御曹子は素晴らしい前代未聞の天才的戦術を披露したが、長くなるのでここでは省略する。

その間ぼんやりあぐらをかいて座っていたラッピに気づいた九義経の家来から


御曹子(おんぞうし)御前(ごぜん)である。前を隠せ」


と言われたのはいうまでもない。

仕方なく風呂敷で前を隠した。

かえって卑猥かも……


 そのあと遅刻したG.クルーニー似の閻魔代務者も現れ、大将九義経の掛け声とともに全員で元気よく


「エイ、エイ、オー」


出陣の(とき)の声を上げた。



 地獄の亡者たちも希望する者は参加した。

思い思いの(いで)立ちで集まった。


その中には


「自分は紫式部じゃわいなあ」


「それは……文楽の義太夫言葉とちゃうか」


「じゃかあしい(やかましい)」


彼女は薙刀(なぎなた)を持っていた。


 高齢の亡者たちは応援にまわった。


「ラッピちゃ~ん、がんばってね~」


「がんばるわよ~」




 天極陣営には如来や菩薩、十大弟子など、高度に解脱したものの姿がない。

彼等は戦争を超越すると称して高みの見物を決め込んでいた。

主力は比較的下っ端の天部、眷属、護法たちだった。

戦の神である毘沙門天は恐ろしく時代遅れの、唐代の武具で身を固めていた。

コスプレファッションショーと勘違いした弁財天は必死で()で立ちを考えていた。

その他、梵天、吉祥天、鬼子母神、四天王、竜王、夜叉、聖天、韋駄天、天竜八部衆、十二神将、二十八部衆などがいた。

重複もあるが地獄より遥かに多様で賑やかそうだ。

明王がいないのは、彼らは如来の化身だからだ。


 それに加えて極楽または天界に往生してきた個人たちの中から有志が兵となった。

有名往生人の兵には紫式部の同僚だった和泉式部、色男で有名な在原業平などがいた。

しかしパイちゃん、姪はいなかった。やはり彼女たちは完全に消えてしまったのだ。



 天人たちに注意が与えられた。

空を飛べるのは領巾(ひれ)の力だが、それが効くのは天極の結界の中に限られる。


 天極軍の守備作戦は、羅獄軍が結界を飛び越えてきたら上空から天人が敵をめがけて石を落とすことだ。

全体戦略は、ある方法で地獄の防御線を突破してからたくさんの消防車と消防組織で地獄の業火を消しまくって火が減ってから天極歩兵軍団が突入することだ。

天極にも戦いの天才やプロもいるらしくて、後の細かいことは彼等にまかせようということになり、作戦会議は早々と散会した。


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