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仮面のロックンローラー  作者: 黄色ミミズク
今から皆さんには選挙を行ってもらいます。選ばれた人の願いをひとつだけ聞きましょう。たぶんこんな感じ。
161/163

161・今の私になら何でもお任せあれ!

 ~~



「おや、君は合コンの主催者の波多野くん!」

「あっ、覚えていてくれたんですね……?」

「それはもちろん! あれからはどうかな? 我慢している事は無いかな?」

「えっと、大丈夫ですよ」


 放課後、私は平賀先生が一人でいる所を訪ねた。

 ほんの少ししか会っていないのによく覚えていてくれたなぁって思ったけども、そういえば私にはトラブルが降りかかってきていて、心配をされている立場だったのを今更思い出した。


「キミもここに通っている生徒だったとはね。いやはや、どうして大変興味深い事か!」

「あ、えっと、そうするとやっぱり、お知り合いがいらっしゃいます……?」

「うむ! キミも舞南くんはご存知かな?」


 あぁ、やっぱりマイナくんを知っていてここに来たんだ……?

 マイナくんの言ってた覚えっていうのが理由なのかなぁ……


「彼は音楽家として大変見込みがあるのだけども、敢えてこちらに通っていてね。私も教育に携わる者として、自ら見てみたいと思ったのだよ」

「そ、そうなんですね……?」

「とはいえとはいえ、私には思いもよらなかった環境である事もやはり間違いなく、助けを借りようとも思っていてね」

「それは、マイナくんに……ですか?」

「うむ! はてさて、彼はどこにいるだろうか」


 こ、これはまずすぎる……!

 マイナくんは軽音部をしている事を知られたくないだろうし、マイナくんのお家についてを周りの皆にも秘密にしたいっていうのがある。


「あ、あの、私もよければ手伝いますよ」

「おお、なんと嬉しい申し出!」

「お世話になりましたから……当然です」

「いやはや、君のように立派な子も通っているとなると、がぜん好奇心が滾ってしまうよ!」

「ただ、その、平賀先生にいくつかお願いしたい事がありまして……」

「おや、なんだろうか?」


「学校には、当然ですけども色んな生徒がいまして、良い人ばかりではありません。

 環境の差で、不和や軋轢があっては良くないって思っていて、マイナくんのお家についてを皆には秘密にしているんです。

 だから、その……なんて言うんでしょうか。こっそりとした方が良いといいますか、表立って会うのは避けてほしいというか……」


 ああ、もっと上手く言えたらいいのに。

 それに伝えたいのはこれだけじゃないし、マイナくんが軽音部入っているの秘密にできるかとかも良い感じに考えてるのに上手くやる方法もわからない……


「なるほど……たしかに軽率に関わって環境を乱してしまっては不本意だね!」

「そ、そうなんです! だから、その、私が手伝いますし、後は、灰野先生とかも手伝ってくれると思います……」

「おお、灰野くんとも知り合いなんだね!」

「は、はい。担任なので……」

「なるほどなるほど! 灰野くんは――ああ、いや! 察するに私が口にするのは不本意になってしまうから慎もう」

「そ、そうなんですね」


 灰野先生もたぶんすごい人なんだろうなぁっていうのは想像が付くけども、そこはまぁいっか……

 でも、マイナくんの秘密を守るためにも、平賀先生にちょっと試しの質問をしてみよう。


「えっと、今、灰野先生がどちらにお住まいかご存知ですか……?」

「いや、そこまでは知らないよ! それがどうかしたのかな?」

「その、実は――音楽準備室を私室代わりにして暮らしているみたいで……」


 これで平賀先生はどんな反応をするか――先生、口に手を当てて信じられないといった様子がありありと見てとれる。当然は当然だ……


「まさかまさか……いやはやまさか……」

「あっ、信じられませんよね……でも、その……」

「ああ、いや。まぁ、無い事では無いが、彼女がそんな暮らしをしているなんて……」


 無い事では無いっていうのがすごい引っ掛かるけど、それよりも灰野先生の現状に驚き過ぎていて、私は余計な事を言った可能性があるかもって思った……


「彼女のご両親に伝えたい所だが、まずは彼女自身に確かめなくてはなぁ……」


 あっ!? 秘密があれば守ってくれそうな人かな!?



 ――



 ひとまず、平賀先生には表立ってマイナくんに会ったりしないようにしてほしい事は伝えられたと思う。

 そのうえで気軽に口外するような人ではなさそうとも感じたけど、ポロっと口にしてしまう事とかも考えると、慎重に動かないとなぁとも思う。


「おっ、波多野さん。今から帰る所かー?」

「あっ、熊谷くん。うん、帰る所」

「少し聞きたい事があってさー。よかったら一緒にどうだー?」

「えっと、うん、もちろんいいよ」

「ありがとー! ちょっとだけ待っててくれなー!」


 熊谷くんは、同じクラスでマイナくんの友達で私の友達。野球部をがんばっていて、かつ周りの事をよく考えてくれている、そばにいて安心できる男子だ。

 マイナくんも音楽に関してはずば抜けているように、熊谷くんも野球に関しては真剣な人で、ふたりはシンパシーみたいなのがありそうなんだよね。

 少し待っていれば、熊谷くんが自転車を引いてくる。


「お待たせー、波多野さんは駅の向こうだっけかー」

「あ、うん。熊谷くんは?」

「一応手前側だー」

「そうなんだね。じゃあ、行こうっか」


 私も自転車で通学してるから、熊谷くんと一緒に自転車を引きながら歩く事にした。


 ……


「野球部として生徒会選挙に出るかどうかでさー。波多野さんはどう思うかなー?」

「うーん……練習や勉強の時間を確保したいなら任せたいもんね」

「チームとして考えるなら、引き受けた方が影響力?とかで良いんだけどもなー」


 お願いを叶えてもらう……それを受けて、予算を増やしてもらおうって話が野球部で持ち上がっているみたい。

 野球部は人数も多いから生徒会選挙では当然有利。だから、代表を決めて生徒会に立候補するんだけども、熊谷くんは出るかどうかを悩んでいる。


「その……チームワークが大事っていつも話してた気がするから、悩んでるのはちょっと意外……かな……?」

 そう、熊谷くんは周りの事をよく見てくれているし、だからこそ本気で野球をがんばっているのが伝わってくる。

 でも、今回はチームの為=野球の為ってなっていないみたいで、なんでだろうって疑問に思った。


「んー……なんか違うなって思ってさー」

「うーん……正々堂々としてない所とか……?」

「いや、違うかなぁー……なんていうか、俺も卑怯な所があるからー……」

「えぇ……? そうかなぁ……?」

「悪い事があっても言わないとかだなー」

「そ、それは仕方ない所があると思うけど……」

「そうかなぁー。少なくとも、正々堂々できてない所、俺にもあるからなぁー」

「そうかなぁ……」


 人間関係が希薄だった私が言える事ってそんなに無いけども、でも、熊谷くんは熊谷くんなりに頑張ってると思う……


「マイナスがさ、先輩と上手くやってるから、それが……いいなぁーってさー」

「あ、うん……そうだね。前は仲が悪かったもんね」

「マイナスは先輩とも向き合ってて、でも、俺はそうしなかったから、なんていうかー……」


 ……そっか。確かに”理想”で考えたら、マイナくんみたいにできたら良いのはその通りだよね。

 自分の目標と皆の目標が一緒で一丸となれたら一番良い。そうじゃなくても自分の目的の為に皆を引っ張れたら良い。


 でも、必ずしもそうできるか? それは別の問題な気がするなぁってなんとなく思った。

 ゲームでもそうだけど、エンジョイ勢とガチ勢とでは挑む姿勢が違うし、ガチ勢と遊ぶのは息苦しいとか何とか言われるし……


「……私は、なんだけどもね……それでも熊谷くんは熊谷くんなりに、誠実にやってるって思う……かなぁ」

「……」


「完璧とかって、その……やっぱり考えちゃうし、できたらとは思う……けども、そうならなくても、どう向き合ったかは、熊谷くんらしさ……で、私は、卑怯とかじゃなくて、むしろ、誠実……だと思う……」


 完璧病というのかなんというのか……ひとつダメなら全部ダメって考えを私自身も抱えていたから、それで自信が無くなっているのかなぁ、なんて勝手に思っちゃった。的外れかもしれないけど……


「あー、えっとその……戦略的とか、虎視眈々とか、必要だと思うから……そういう言い換えはどうかなぁ……?」

「……あはは、そうだよなー。たしかに、戦略は必要だもんなー」

「うん……うん! どう影響があるかとか、熊谷くんが真面目に考えてるのは私たち、見てるし……だから大丈夫だよ……!」

「なんか……すごい嬉しいなー」

「そ、そんな、とんでもないよ……友達……だから!」

「うん……ありがとうなー!」


 熊谷くんが照れくさそうに笑うから、私もなんだか照れてしまう。

 思った事を率直に伝えただけなんだけど、熊谷くんの一助になれば嬉しいなぁ。


「なんだか、波多野さんって雰囲気変わったよなー」

「そ、その……夏休みの間にね、すごい良い物を見てね……」

「へぇー、どんなのなんだー?」

「舞台……なんだけども、アドリブがすごくってね」


 ……そのまま別れるはずだった道の上で、けっこうな時間、夢中で話しちゃった。

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