160・誰が良いかな誰が良いかな
「あー、そういうわけで10月の文化祭に向けて、各バンドは曲を用意しておいてください」
軽音部の部室で、森夜先輩の軽音部全員に対しての案内が終わる。
「それで、えっと……何か質問はありますか?」
慣れないながらもがんばる森夜先輩。本当に助かるなー。いつもありがとう!
「はいはーい、質問ありまーす」
「……はい」
「森夜、お前いつからマネージャーになったわけ?」
2年生が集まったバンドの人は、不機嫌そうに森夜先輩へ言う。
むぐぐ……俺が上手くできてないから森夜先輩が手伝ってくれてるだけなのに!
「単純に、俺の方が時間あるから手伝ってるだけだけど」
「いやいや、そうじゃなくてさー。そういうのって後輩がする仕事っしょー」
「てかなんだけど、渋谷も来たんだし、渋谷が全部やるのが筋じゃなーい?」
「渡辺が来てからは渡辺が色々やってくれてたけど、今はいないし仕事も割とあるから」
うー、俺もなんか言い返したい!
けども、鷹田は既に俺と渋谷さんを抑えてる。直接言い争いしても不毛だからって。
「まぁいいけど、まぁなんか面子的にどうなのってあるけど、まぁいいけど」
「そういうわけで、俺からは以上です」
森夜先輩は割と無表情気味で下がって、部長に〆を譲る。
「えーっと、まぁそんな感じでー。みんなよろしくー解散!」
――
「ウチ、やっぱり思ったんですけど、部長は森夜先輩の方が良いなぁって思いました」
「いやぁ、そう言ってくれるのは嬉しいけども、俺って上手くないしなぁ」
「上手い下手で決めたらマイナスが部長になってまうんでアカンですよ!」
「アカンって言われた……」
「総合的には鷹田だなぁって俺は思うなぁ」
「いやぁ上手くできる自信しかないっすけど、てか普通にその予定っすけども、まだ1年っすからー」
「悪い事したらすぐコンちゃんに言いつけるたるからな!」
「へいへい、好きに言えばいいんじゃね」
空いた教室で渋谷さんを含めて基礎連しながら雑談。
黒間先輩は雑談に交ざりはしないけども、同じ教室にいる。
「はー、せやけど考えたらリーダーって大事よなぁー」
「なんだよ、生徒会選挙の事かぁ?」
「ウン。お願いうんぬんばっかり話題になっとるけど、当選したら生徒会として活動するもんやろ? ほんなら、人柄とかも大事やん」
「あー、そりゃ確かに……俺は縁が無いって思ってたから気にしてなかったけど」
「ウチ、森夜先輩が立候補したら絶対に投票するんやけどなー」
「いやぁ、俺はマイナスも含めて3人の方が生徒会向けだと思うなぁ」
「森夜先輩は俺も生徒会良いって思ってくれてるんスかー!?」
「実務や時間の都合はともかく、だけどな」
「嬉しい!」
まぁ時間とか考えると生徒会の立候補なんて絶対にできないんだけどね……!
「ウチも嬉しいけど、時間がなぁ。やりたい事たくさんあり過ぎや」
「金になるならやるんだけどなー」
「鷹田は家の為にもバイトしてるんだもんな」
「いやいや、普通に俺の為っすよ。家の為になんて少ししか使ってないっすからー」
「サッカーシューズをめっちゃ良いの買ってくれたって弟くん言ってたでー?」
「普通に貸しだけど? 結果出せなかったら返してもらう約束だし」
「出た! タカダン流照れ隠しや!」
「うっざ」
「おいおい、また喧嘩になるからほどほどにな」
口論になりそうな二人を森夜先輩が止める。最近のお決まりのパターンだ。
「まぁ、そろそろ合わせ練習でもするか。黒間、いけるか?」
「ああ」
……
~♪
なんどキミに出会っても
その度 僕らは傷つき涙を流す
愛の言葉の弾丸じゃ 愛の言葉は届かない
溶け合えたなら ひとつになれたなら
苦しくなるほど抱きしめた
冷たくない 寂しくない
キミとの儚い世界の中だけは
~♪
これは俺たちが産まれるよりもずっと前の曲で、鷹田が言うには若い子が古い曲を演奏しているとウケが狙えるんだって。
曲自体は雰囲気が独特で、楽曲そのものが別の世界観みたいなのを持っている印象。
そのうえで、昔も今も人との関係とか距離感って難しいものなんだなぁって何となく思う。
「そういやウチ、思ったんやけどもニュイーンって音もギターやったんやな」
「ああ、これ?」
鷹田がギターを鳴らす。アンプからニュイーン。
「ギュイーンとかタララララとか、ジャジャジャジャジャジャとかそんな音がギターの音やと思っとったから意外なんや」
「まぁそれもエフェクターで良い感じにしたりするんだよなぁ」
鷹田がエフェクターを弄る。それからギターを弾けば、めちゃくちゃカッコイイ!
「エフェクターを切るとこんな感じ」
「おお……タカダダンがタカダンに戻った」
「進化系で表すの面白過ぎだろ」
「だけど、エフェクター使うとなんか面白いのは確かだよなぁ」
「リードギター的にもエフェクターとの付き合いって超大事だしな」
「っていうのをマイナスに教えてもらったんか」
「ちげえし。って言いてえけど、普通に教わってるんだよなぁ」
「えっ、そうなの?」
具体的に何か教えた事ってあったっけ……?
「聞くとめちゃくちゃアドバイスくれるだろ」
「えー? まぁ、聞かれたらそれは当然だけど」
「じゃあさ、この曲の俺のソロの所、ちょっと聴いてくれよー」
エフェクターを直してから、間奏部分にあたるギターソロを鷹田は弾き始める。
未練を感じるような、甘いけどもどこか悲劇的な旋律だ。
何かしらでもっとすごい表現はあるのかもしれないけど、鷹田の表現としてすごく良いと思う。
「良いと思う!」
「さっきの合わせで考えるとどうなる?」
「ん、まずはまだ合わせ練習の回数も少ないから仕方ないんだけども、周りを気にし過ぎて表に出きれていない所があるかも?
合わせを重ねて、それぞれの音が調和するようにがんばらないとだけども、それはさておきもうちょっと目立っていいかもって思う」
「音量を大きくすればいいって訳じゃねえんだよな」
「おう、そうだね! 輪郭を取るっていうのか、揺れとかぼやけをもう少し絞ってもいいかも」
「オッケー。これでどうよ」
「良いと思う!」
「ちな、目立つってどんなイメージよ」
「うーんとね、単純に言うなら前に出るって事なんだけども、音で言うなら選ぶ、ハッキリする、色を出すって感じ?
音を大きくするだけじゃダメっていうのは、背景がただただ大きくなるだけじゃ前に出たって事にならないような感じ」
「マジで音楽に関してだけはやっぱつえーわ」
「さすマイやな」
「でも鷹田の表現も良いから、俺が思った事を言ってるだけだからね!」
「教えてる自覚無し、と」
「うーん、やっぱりマイナスやなぁー」
「えー!?」
これって教えてるのうちに入るのかなぁ??
「まぁ俺と黒間はまだまだ練習しないとなぁ」
「出来る範囲で大丈夫っスからね! 選曲も無理のないもので選びましたから!」
「はは、いや、まぁそれは助かるけどさ。もっと色々やれるようになりたいだろ?」
「えっと、まぁ! でも、できたらで大丈夫っス!」
「俺としちゃ普通に有名になっちゃって、デッケー事したいっすけどねー」
「デッカイ事! できたらいいなぁ!」
「有名になりゃそれだけ儲けるチャンスができるからな」
「タカダンも夢見るんやなって思ったらゲンキンやったわ」
「まぁ、でもそれならこれからも動画撮るのがんばるって感じか?」
「そしたらデッカイステージに立てたりするんスかね!」
「いつか人気になったらできるかもなー」
「俺、いっぱいライブしたいです! ライブ!」
「生放送してえの?」
「んっ? ライブはライブだよ?」
「その為に動画を撮る訳だけども――」
少し鷹田は考えてから言う。
「マイナスはステージに立ってライブするのをやりてえって事?」
「おう! その通り!」
鷹田がまた少し、考えてから一人で頷く。
「なるほどなぁ。じゃあまた後で計画建てておくか」
「わーい!」
「森夜先輩も黒間先輩も、あと渋谷もそれでオッケー?」
「ああ、もちろん」
「ウチもがんばるで!」
黒間先輩も頷く。
なんかわからないけども、何か良い事がありそう!?
――
部活も終わって家へ帰るため、1時間ちょっとバスに乗る。
まだ9月だけども、前より日没が早くなったなぁって時計を見ながらなんとなく思う。
まだまだ暑いし、秋の気配なんてどこにも無いんだけども、入学してからそれなりに月日が経ったんだなぁってしみじみしちゃった。
平賀先生の事も心配だけど、中間試験もがんばらなきゃなぁ。
来月は文化祭で、11月12月はどんな事するんだろうなぁ。
――さっきはちゃんと話せなかったけど、本当は皆でたくさんライブをしたいんだ。
だけど、その為には必要な事がたくさんあり過ぎる。
それに俺は、ただステージに立つだけじゃなくて、皆で、観客の皆とも、一緒になれるライブがしたい。
ロックをやりたいって思ったあの時に、聞いたカセットテープの向こうはどんな光景が広がってたんだろう。
6月のライブは、ステージに立てただけでも本当に嬉しかったのは間違いないんだけどね
でも、それだけじゃダメだって思ったんだよね
もっと届けたい、もっと届けられたらいいのに、もっとたくさんの人に届けたい
ワガママだけど、そう思っちゃったんだよね
ああ、でも、そもそも俺って観客の事をどう思っていたんだろうなぁ。
ピアノでもバイオリンでも、たくさんの人が聞きに来てくれるのが普通みたいに思ってた所があるのかも。
演奏する事がただただ楽しかっただけなのかなぁ。
……今はとにかく、出来る事をやるしかないからがんばろうっと!
これからも軽音部を続けられますように!
■エフェクターについて、参考にさせて頂いたサイト
https://guitar-hakase.com/effector/
筆者自身は割とニワカ者なのであまり詳しくはないのですが、カッコイイあの音や不思議なあの音もエフェクターのおかげで出ていたりします。
参考にさせてもらったサイトで色んな音を聞く事ができるので、アァー!!この音イイー!!という気持ちを分かち合えたらとても嬉しいです。
※よければブックマーク、あるいは評価を頂けると幸いです




