表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

卒院後の大仕事

 卒院してから一月ほど経った。

 もう半月もしないうちに雨が降り始めて、止むのはさらに一月ほどかかるだろう。

 雨の森は危険が増す割に旨味は減る、晴れている今のうちに稼がないと、蓄えのあまり無い俺達は餓死まっしぐらだ。


 在院中に稼いだ金の殆どは二人で暮らす家を買ったり、新生活に必要になる物を買っただけで殆ど無くなってしまった。

 最低でも依頼を4回ほどこなさないと、危険な森に行かなくてはいけなくなる。


 そんな訳で俺達は、ギルドで依頼掲示板とにらめっこしている。

 目星い依頼はこんな感じだった。


•農地周辺の夜間の見張り任務、ただし農地は広大な為二人ではほぼ不可能。

•商人の護衛任務、ただし帰りは雨期確定。

•肉屋から指定された獲物の討伐及び剥ぎ取り、ただし低賃金。

•薬草などの採取、ただし採れるかどうかは運次第。


 俺が声をかけようとすると、ちょうどレイと目があった。

 一瞬驚くが、何方(どちら)とも無くニヤリと笑う。


「まっ、一択か」


 むしろ晴れ晴れとしたような口調でレイが告げると、俺も頷く。


「護衛任務、だな」


 先述した通り、見張り任務は不可能だ。

 討伐は楽だが、低賃金のため雨季までに十分な蓄えは貯められない。

 薬草はむしろ雨季の後のほうが探しやすい。

 そうなると、残るのは護衛任務だけだった。


 帰りは雨季確定だが、降り始めるまでに太い河などを抜けることができれば、さほど無謀な旅にはならない。

 そうなった場合、心配になるのは食料だ。

 湿度が上がればそれだけカビが生えるリスクが高くなる。

 普段携帯してる堅焼きパン等も例外ではない。

 護衛の最中に野生の動物が出てくれればなんとかなるが、護衛対象を離れて探しに行く訳にもいかない。


 そうなった時頼りになるのは燻製された肉や魚だ。

 燻製されたものなら、カビにくく防腐効果も高い。

 二人暮らしを始めた頃から作ってはいるが、圧倒的に量が足りない。

 他にカビにくいものがあっただろうか。


 そのことをレイに相談してみる。


「カビにくい食い物か」


 それだけ呟くとレイも熟考を始める。

 何もなければ護衛任務も考え直さなければならない。

 村々をまわる商人たちは雨季の間はどこかの街にとどまることが多い。

 これは純粋に危険を避けるためと、食料問題があるからだ。

 つまりこれを逃せば、護衛任務は当分の間張り出されないだろう。

 そして、護衛依頼は人気が高い。

 この場で受注しなければ誰かが受けてしまうだろう。

 護衛任務は日数がかかるが、その分払いもいいのだ。

 今回は特に、約半月の任務のため報酬も高額だ。

 やはり、なんとかしてこれを受けておきたい。


「カップ麺があればなぁ」


 レイのその言葉にピンとくる。


「乾麺!乾麺を作ればなんとかならないか?」


 恐らく、魔法を使えば作成にかかる時間は短縮できるはずだ。


「乾麺はいいけど、何作るんだ?ラーメンはかん水が必要だろ?」


 一応卵麺もあるが、どちらにしろコストがかさむ。

 ここは強力粉と水、油と塩で作れるパスタを作ろうと思う。

 強力粉ならパンが主食のこの世界では簡単に手に入る。

 それらをレイに説明して小麦の仕入れを任せ、俺はクエストの受注を行う。


 このまま家に帰って麺を乾燥させるための準備を進めておこう。




 家の外、丁度家の影になる場所に麺を干す用の台座を作る。

 台座は四角く木の柱を立てて木の棒を渡し、ひもを張るだけだ。

 こういった日曜大工はレイよりも俺の方が得意だ。

 戦闘面では頼りにしている分、こういった日常生活では俺が主体で動くようにしている。


 準備が終わったので、パスタを作る準備を進める。

 ボウルや計量用の天秤を取り出していて気付いた。

 塩の分量を忘れてしまった。

 水は重量計算で小麦粉の半分だったはずだが、塩の量で麺の味が大きく左右される。

 昔作ったときは適当にやりすぎて若干しょっぱかったため、その時に調べたのだが忘れてしまった。

 まぁ、適当でいいか。

 多少足りなくても、茹でるときに調節すればいい。

 それに、パスタソースがあるからそこでの誤魔化しもきく。

 油は少したらせばよかったはずだ。

 小麦粉が届き次第作り始められる準備が整ったので、乾燥に使えそうな魔法をいくつか列挙しておこう。

 そう思い立ち、俺は書斎代わりにしている物置用の小部屋へと足を運んだ。




 結論から言えば、一回目は失敗した。

 乾燥させるために熱風を使ったのだが、麺が分厚すぎて表面が割れてしまったのだ。

 楽をするためにフェットチーネのような平麺にしたのが原因のようだ。

 結局、ゆで時間もかかるということで細麺を作ることにする。


「んじゃ、切るのは任せた」


 レイはそう言うと伸ばし終えた生地を離れ、俺から水を加え終えた新しい生地を受け取る。

 細かい作業が苦手なため等間隔に切れないと判断し、力仕事に回る気なのだろう。

 正直、俺は力仕事が苦手なのでこの采配に文句はない。

 麺をしっかり伸ばしたあとに三枚重ねにし、端をそれぞれ切りそろえてから木の板を当てて切っていく。

 端の部分は後ほど小さな一口大に切って孤児院に持っていく予定だ。

 料理上手なクロウなら子供たちの口に合わせたメインディッシュに早変わりさせることだろう。


 クロウは相も変わらず料理を趣味としていて、毎日のように子供達に教えている。

 院長のダスクは子供達と趣味の釣りを楽しみながら、クロウのサポートをしつつ卒院した兄や姉たちの相談役のようなことをしている。

 シアはナリーの元で治療術を学びつつ、シーラと毎日組み手をしているらしい。

 ナリーは治療院で働く傍ら、孤児院の畑を拡張してとれる野菜の種類を増やしているらしい。

 シーラに至っては俺たちの後を追い冒険者になるつもりらしく、薬草採取依頼をこなしつつ、稼いだ金で双剣まで買ったらしい。

 兄としては妹にはもう少し堅実な道を選んで欲しいものだ。


 話を戻そう。

 切りそろえたパスタは用意しておいた台座のひもにセットして温風の魔法を使って渇かす。

 乾燥がすんだパスタは石灰石から作った乾燥剤もどきとともに蝋を塗って防水加工した布製の袋に入れておく。

 これで日持ちする食料の完成だ。

 調理時はパスタを茹でるときに一緒に干し肉や野草などを入れてスープスパのようにして食べるつもりだ。

 商隊などが休息をとるのは水辺が基本だ、水には困らないだろう。

 これで準備は整った、クエストの受注にいこう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ