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昇格テスト

 10歳になった。

 これでようやく、冒険者ギルドから狩りの依頼を受けることが出来るようになる。

 といっても、すぐに森に入って狩りが出来るわけではない。

 最初に軽いテストをして合格すれば森に入る許可がもらえる。

 この許可がない限り狩りの依頼は受けられないし、素材の買い取りもしてもらえない。

 テストは二種類でギルドお抱えの冒険者を相手にした模擬戦と冒険者としての最低限の知識を問題にした筆記試験がある。

 筆記試験については常識問題が出るため問題ないのだが、問題は模擬戦だった。


「あんのくそ親父、こっちが両手剣だからって長槍なんか使いやがって!!!」


 レイが毒づきながら干し肉を噛み千切る。


「ぬぅあにが、冒険者たるもの不利な状況でこそ足掻け、だ!ただでさえ体格差でリーチがちげぇのに長槍なんか持ち出しやがって!!!」


 そう言って、コップのミルクを飲み干す。

 そんな様子を眺めながら俺は机に突っ伏していた。

 場所は孤児院の食堂で今は俺たち以外は誰もいなかった。


「……そうか……」


 なんとかそれだけを絞り出すが、少しでも気を抜いたら今にも睡魔に白旗をあげそうだった。


「……どうした?今日の仕事そんなにきつかったか?」


 レイが意外そうに聞いてくる。


「今日の料理当番な、ミゼルとクロウ、シアとナリーが一緒だったんだがな」

「お、う」


 俺の言葉ですべてを察したレイが片手で顔をおおう。


「想像通りだ、シアが暴走して他は傍観、結局俺がカバーするはめに……」


 シアというのはひとつ年下の獣人で、ピンと立った犬耳と癖の強いショートヘアーがチャームポイントの女の子だ。

 見た目は可愛らしいのだが味覚はえげつなく、彼女が作り出すものにまともなものはない。

 過去に何度も彼女を料理当番から外すように院長にお願いしたのだが、これも修行です、と聞く耳を持ってくれなかった。

 はたして彼女の料理の修行なのか、俺たちの胃袋の修行なのかよくわからなかった。


「……参考までに聞く、今日はなにしたんだ?」

「サラダ用のドレッシング、材料はこっちで準備して混ぜるのだけ頼んだら、不透明の青い液体が出来上がった」

「は?」


 用意した材料は問題なかったはずだ。

 細かく刻んだ玉ねぎ、醤油、酢、胡麻油。

 あんな色になる要素はなかったはずだ。


「しかもな、ドブのような臭いがするんだ」

「あー」


 あの臭いはヤバかった。

 通りかかったジャンが食堂の窓を全開にしてくれなかったら今も臭いが籠っていたかもしれない。


「ドレッシングはすぐに処分したんだが、そのあとシアがいじけてな、宥めるのに苦労した」


 本当に苦労した、最終的には何故か今度甘い物を買ってくることで落ち着いた。


「まぁ、他のメンツがなぁ……」


 ミゼルは基本無口で淡々と自分の作業をこなすタイプだし、クロウは狼人族の長所をいかして臭いで肉や魚の焼き加減を見分けるのが得意なため、昔からその作業を任されることが多い、が、今回は臭いにやられて気を失っていた。

 残ったナリーはおっとりしすぎてて、他の子を注意したりすることに向いていない。


 そして、俺とレイは創作料理という形でもとの世界の料理を作るため比較的高頻度で料理当番に回される。

 結果、二人ともシアに苦労させられているのだ。


 まぁ、今回の場合は鼻の良いクロウが一番の被害者だったりするのだが。


「そんなことより、お前模擬戦明日だろ?対策考えなくていいのか?」

「……魔法禁止じゃなきゃなんとかなるんだけどなぁ……」


 模擬戦は魔法の使用が一切禁止されていて、木製の武器を使い、相手に二度攻撃を当てるか、武器を奪えたら合格。

 逆に三度当てられるか、武器を奪われたら不合格になる。


 こちらの方が有利だが、相手はこちらの武器を見た後で武器を選ぶ上に基本的には次のランクの冒険者を相手にすることになる。


 しかも、ランク1(街中のお使いクエスト)からランク2(森の川から手前側のクエスト)に上がるときはランク2の冒険者が少ないため、ランク3(森の川から奥側のクエスト)の冒険者が担当することが日常茶飯事だ。


 勿論、テストの難易度はその分上がる。


 そして、ランク2の時点でランク3のテストを受けているも同然のため、すぐにランク3に上がっていくものが多いという悪循環だ。


「俺が片手剣を使った場合、相手はリーチを活かした槍か武器を吹き飛ばすための両手剣を使って来るからほぼ勝ち目はない」


 これに関してはほぼ間違いがないと言える。過去3回の模擬戦でそれ以外を使ってくる者は居なかった。


「だから、弓とナイフで行こうと思うんだ」


 弓を持ち出せば相手は間違いなく盾を装備してくるだろう。

 そして、試合開始直後に顔に向けて矢を放てば顔を盾で守りながらこっちに向かってくるはずだ。

 そこをナイフに持ち変えて速攻で2回攻撃するしかない。


「奇襲か?」

「あぁ、それでもダメなら地道に弱いのと当たるまで繰り返すしか無いな」


 ちなみに、チームを組んでいる場合チームリーダーが規定のランクを越えていればクエストを受けることができる。

 そして、チームリーダーの変更は比較的簡単にできる、勿論手数料は取られるが。


 今俺たち二人のチーム、“レイブンズ”のリーダーはレイになっている。

 模擬戦を見越して、近接戦が得意なレイを最初からリーダーにしておいたのだ。


「まぁ、ダメ元で色々試すか」


 レイがそう言って腰を上げる。


「ところでレイ」


 それを阻止するように声をかける。


「ん?」

「今日の料理当番、なんで一人足りなかったんだろうな?」


 そう言ってレイの首根っこを掴む。


「えっ、あ、いや……ほら、俺は模擬戦があったから!」

「模擬戦やるだけなら、こんな時間までかからないよな?まるで洗い物が終わるまで何処かで時間を潰してたみたいなタイミングの良さだしな?」


 レイがなんとか逃げようともがくが、決して手を離さない。


「ちゃーんと、お前の仕事は残してあるぞ?ほら、ごみの処理だ」


 笑顔でそう言って、キッチンの奥にあるゴミ箱を指差す。


「シアの料理当番から逃げた罰だ、しっかりゴミ箱を洗っておけよ?」


 その言葉を聞いて、しっかりと木の板で蓋をして重石まで乗せられたゴミ箱をレイが見る。


「臭い、残すなよ?」


 そう言って肩を2回叩くと、立ちすくむレイをおいて俺は自室へと戻っていった。




 =====================================




 俺の模擬戦は午後一番になった。


 昼飯は腹が膨らまない程度に押さえて、ストレッチも済ませた。


 相手は40代の人間族の男性で、やはりランク3だった。


「坊主、見た顔だな。孤児院の子供か?」

「ええ、ダスク院長に育てていただいてます」


 それを聞くと、おっさんはニヤリと笑う。


「俺もあそこ出身でな、ダスクとは同期なんだ」

「……えっ?院長と同期!?院長より全然若く見えるんですけど!?」


 俺の驚きにひとしきり笑うと、おっさんはニヤニヤしたまま続ける。


「あいつは元々苦労人だからな、しかも院長なんか継いじまってからは髪の後退も始まって本気で悩んでやがるよ!」


 そして、また声を張り上げて笑うと急に真面目な顔になる。


「ダスクの息子ならなおのこと厳しく判定しないとな、ここで手を抜いてお前が森で死んじまったらダスクに顔向け出来ねぇ」


 そう言うと、こちらが武器を選ぶ前に両手持ちの大剣を選ぶ。


「手加減はしねぇ、全力で来い小僧」


 隙のない構えだった。

 普段使わない弓は通用しないと判断して、使いなれた片手剣と盾、ダガーを二本用意する。


「ダガーは使いどころが難しいぞ、慣れない小細工なんかより男なら真っ正面から来い!」


 嫌なこった。

 おっさんの言葉を無視して、盾を腕に通し取っ手を掴む。

 ダガーは左右の腰にそれぞれ刺しておく。


 片手剣を鞘から抜いて、一度だけ上から下へ素振りすると盾を前にした構えをとる。


「守りの型か、最初は様子見か?」


 おっさんはニヤリと笑うと、一瞬で間合いを詰めて上から大剣を振り下ろそうとする。


 その動きに合わせるようにスピードが乗る前の手元に盾をぶつけにいく。


「っ!」


 おっさんは振り下ろす直前で後ろに飛ぶと、先ほどと同じ構えをとりなおした。


「歳の割には、考えて動けてるじゃねーか」


 おっさんは心底楽しそうに言うと、手を入れ換えて横凪ぎの構えで突っ込んでくる。

 盾のある方とは逆からの斬撃に対応が追い付かず、右肩に激痛が走る。

 衝撃の瞬間に斜め後ろに飛び少しでもダメージを和らげることには成功したが、木剣の先端はしっかりとこちらの肉を捕らえている。


「いってぇぇぇぇぇ」


 叫ばずにはいられなかった。


「棄権するか?小僧」


 ニヤニヤと笑いながらおっさんが言ってくるが、しっかりと構えをとることで答える。


「そうだ、どんなときでも諦めるな!それでこそ冒険者だ!」


 おっさんは手の位置をもとに戻すと、先程より少し切っ先を下げて構える。

 そして、剣を振り上げることもなく、至近距離まで来ると突きを放ってくる。


「っ!」


 紙一重でかわすと、後ろに飛び間合いをとろうとして気付く。


(……追い詰められた)


 背中が壁に当たっていた。


「残念だがな、終わりだ小僧」


 おっさんの言葉に覚悟を決めると、盾と片手剣を手放す。


「降参か?まぁ、俺はランク3の中でも腕が立つからな、怪我をする前に引くのも仕方ないわな」


 おっさんがそう言って背中を向け、2、3歩間合いをとる。


(今だっ!)


「が、世の中そんなに甘くねぇよ!」


 そう言っておっさんが振り向き様に大剣を横凪ぎにするがそこに俺は居なかった。

 ダガーを抜いて壁を蹴るように一歩を踏み出し、おっさんの股の下目掛けてスライディングをして左右の内腿に一撃ずつ左右の手それぞれで斬撃をいれる。


「そこまで!」


 ギルドマスターの野太い声が試合場に響く。


「油断したな、ガーランド」


 ギルマスは近づいてくると、おっさんに話しかける。


「……一撃ならもらってもいいかと思ってはいたんだがな、まさか二撃いれられるとは思わなかったよ」


 おっさん―――ガーランドは苦笑いしながらそう言うと、こちらを振り向く。


「坊主、なんでギルドの昇格試験が模擬戦かわかるか?」

「実力を測るためでは?」


 俺は即答するが、ギルマスが首を横に振る。


「人間と獣の動きは全く違う。さらに、魔法も封じた状態での試合では実力は図れないさ」


 ギルマスの言葉をガーランドが続けた。


「森の中ってのはな、簡単には死体が見つからねぇ、さらに獣が食って骨になれば死因もわかりづれぇ。つまり、山賊の狩り場として最適なんだ。山賊ってのは狡猾でな、狩りの帰りを狙って襲う。わざわざ、獲物の魔力切れを狙ってな」


 ガーランドはそう言ってため息をつくとさらに続ける。


「まぁ、つまりは魔法に頼らず、ある程度の剣の実力がないと森では生きていけないってこった」


 ガーランドの話が終わったと見て、今度はギルマスがついてこいと言って部屋を出て行く。

 その後にガーランドも続いたので入口付近に試験で使った武器を置いてそれに倣う。

 行き着いたのはホールの片隅にある森の地図の前だった。


「いいか新入り、こことここ、あとはここに気をつけろ」


 そう言って地図のポイントを指さす。


「新入りが自信をつけてまず狩るのがゴブリンなわけだが、ゴブリンの集落はこの辺りに点在している。そこからの帰り道で特に森が濃いのがこの三カ所だ。」


 続いて指をずらして三カ所を示す。


「この三カ所は特に狙われやすい、通るなとは言わないが十分に注意しろ」

「まぁ、最初に狩るのはウルフ系のモンスターになるだろうから、忘れないようにメモをとっておく事だな」


 ガーランドの言葉に懐にしまい込んである手帳を取り出す。


「……中々いい手帳じゃないか」

「えぇ、できれば長く使いたいので」


 短くそれだけ答えると使い慣れた革表紙の手帳を開き、新しいページに地図を書き写す。


「……あー、なんだ、絵がへたくそすぎて地図として役に立たねぇだろ、それ」


 ガーランドが呆れを通り越して呆然といった声音で話しかけてくる。


「……昔から絵とか地理学とか苦手なんですよ、とりあえず、わかればそれで良いかなと」


 何度も曲線を引いては書き直す作業を繰り返し、なんとかわからなくも無い程度の地図をかき上げようと努力する。


「……坊主、地図くらい描けるようになっておいた方が良いぞ」


 ギルドマスターも横からちらりと俺の地図を見た後にぼそりとつぶやく。


「練習はしてるんですけどねぇ……どうしても描けないんですよねぇ」


 ため息交じりにそう言って自分の描いた地図を眺める。

 後でレイに場所を説明できる程度の地図は出来上がった。


「本日はありがとうございました」


 手帳を懐にしまい、二人に頭を下げる。


「おう、まぁ、正面からぶつかって勝ったわけじゃねぇ……が、自分の力量は十分わかっただろ、今後も近接戦闘の訓練を怠るなよ」

「ランク2のタグは明日渡す、時間の指定はしないからランク1のタグと今から発行する紙をもってこい。紙の受け取りは受付だ。」


 それだけ言って背を向け、二人は去って行く。


「ガーランド、この後"黄金の蜂蜜亭"で一杯どうだ?」

「おぉ、いいな!」


 そんな声が雑踏に消えていく。


 俺も受付に向けて歩き出した。




 =====================================




「で、どうすんよ」


 帰り着いた孤児院で、先ほど受け取ったランクアップの紙を前にレイがうなだれる。


「これから毎日、ランクアップ試験だな!」


 半分冗談で言うとレイが机に突っ伏す。


「勘弁してくれよ、まだ昨日の(あざ)も治ってねーよ」


 そんな様子を眺めて笑いながら食事を再開する。

 今日の夕食は一度焼いた川魚をベースにしたスープだった。

 ちなみに、この魚は院長が趣味と実益で釣ってきたものだ。

 昼の怪我のせいでまともに上がらない肩を庇いながら、ぶつ切りにした魚の身をほぐし、骨を出す。

 この適当な仕事はナリーあたりだろうか、味はいいのでレイも手伝ったのだろう。


「まぁ、気長にやればいいさ、俺も肩直さないと森には入れないしな」


 そう言ってほぐした身を口に放り込む。

 あー、日本酒が飲みたい。


「……他人事かよー」


 レイがぼやくが反応は返さない。

 こいつのことだ、何だかんだ言いながらも傷が治ったらすぐにでもテストを受けるだろう。

 最悪の場合リーダーを交代すればいいが、その費用も安くはない。

 ここはレイに頑張ってもらおう。

 そんなことを考えながら食事を終えると、食堂に珍入者が現れた。


「あっ!二人ともこんなところにいた!」


 その声に俺たち二人はビクリと肩を震わせる。

 恐る恐る振り返ると、そこにはシアが立っていた。


「ダスク院長が呼んでるよ」


 その言葉に俺たちは顔を見合せ、ほっとため息をつく。

 よかった、それだけか。

 だが、俺達の安堵をよそに彼女の口が再び開かれた。


「それと明日の朝御飯の当番、私たち三人なんだから夜更かししないでよ?」


 その言葉に、思考が停止する。

 アシタ、アサ、サンニン……?


「じゃ、ちゃんと伝えたから!」


 一方的にそう告げると、彼女は去っていった。


「ハル、ハル!どうする!俺達二人じゃあ飯の準備しながらあいつを押さえ込むなんて無理だぞ!!!」

「あ、ああ、どうするよ……」


 いくらシアといえども女の子だ、ロープで縛りあげたり、魔法で気絶させておくのは可哀想だろう。


「い、今のうちに作り置きするか?」


 俺が提案するとレイも頷く。


「そうしよう、今からとなるとスープとパンを準備しておいて、サラダを明日作るくらいか?」

「後はお浸しくらいなら準備できる、すぐに取りかかろう」


 作戦が決まれば俺達の動きは早い。

 前世からのコンビネーションで食材を準備する。


「スープの出汁は俺がやる、今日の煮魚用に捌いた魚の骨を焼いて出汁にしよう!」

「おい、ちょっと待て、煮魚なんて俺食ってないぞ!」


 こいつ、さては俺の分まで食いやがったな!


「今は争ってる場合じゃないだろ!諦めろ!」

「てめぇ、覚えとけよ!」


 今度こいつの肉奪ってやる!


「いいからとっとと野菜準備しろ!」


 レイに言われるまでも無く、野菜の下ごしらえを始める。

 と、そこで部屋に入ってくる人物が居た。


「おや、こんなところにいましたか。シアに伝言を頼んでおいたのですが、聞いていませんか?」


 ダスク院長の声に揃って顔を上げる。


「その顔だと聞いていたようですね。」


 その言葉に、俺たちは固まるしかなかった。

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