魔法の勉強
この世界の魔法は、発動キーさえ正しく発音すれば誰でも同じ効果、同じ威力の魔法が使える。
だからこそ、いくつの魔法を覚えているかが術士の価値を決める。
例えば炎の呪文一つとっても、発動キーが複数あり、それぞれ効果の違う炎になる。
『炎よ灯れ、我が指先に』という発動キーの場合、文字通り指先に5秒ほど炎が出るし、『視線の先に、いでよ火種』という発動キーの場合は視線の先に火種が出来る。
どちらも同程度の火力だが、発動する場所と持続時間が違う。
こういった具合に魔法は細々と別れていて、日常から数多く使われている。
中には忘れ去られたり、効果はわかっていても肝心の発動キーがわからなくなってしまった物も存在する。
『数は20、シャインバレット!』
詠唱を終えた瞬間、指先に光が集まりそれらが次々と指先から放たれる。
高速で放たれたそれは、まっすぐ岩に当たると幾つもの穴をうがった。
「ほー、便利なの見つけてきたな」
レイの瞳が好奇心により輝く。
「こいつの便利なところは、数字を変えるだけで放つ光弾の数も変わるところだな、増やせば増やすほど持続する。逆に言えば最初に指定した数を撃ち終わるまでは止まらないという欠点でもあるけど」
そう言って、今し方穴を開けた岩に近寄る。
「この辺焦げてるな、って事は打ち出してるのは熱エネルギーか……」
光弾が当たった場所は指先ほどの小さな穴が複数空いていて、そのうちのいくつかは穴の周囲の苔が焦げていた。
「熱エネルギーって事は、夜なら信号弾の代わりになりそうだな」
レイも自分なりにこの魔法の使い道を模索し始める。
「音とかは鳴らないし光量も低いから、最初からある程度注目してないと気付かない可能性が高いけどね」
「じゃあ、洞窟の中に向けて撃って、モンスターやトラップの有無を確かめるとか……」
「さっきも言ったとおり光量が低いのと、一瞬で通り過ぎるからトラップは無理だろ。モンスターは見えるかもだけど、相手もこっちに気付くんじゃないかな?」
レイは再び腕を組んで考えるとため息をつく。
「攻撃くらいにしか使えないか……」
レイのつぶやきに軽く頷くと、さらに問題がある、と続ける。
「こいつ、見た目以上に魔力を使うらしくて、過去に魔力中毒になった使用者がかなりいるらしい」
この世界の魔法は誰が使っても一定の威力が出る代わりに、消費する魔力も一定という欠点がある。
魔力を使いすぎると魔力中毒という過労にも似た症状が出る。
魔力量は子供の方が少なく歳を重ねる毎に増えていき、30~40をピークに減少していくと考えられている。
つまり、幼少期や老人が陥りやすい病。
やっかいなのは、魔法を使っている本人すら中毒になりかけるまで気づけない点と免疫力まで下がってしまう点だ。
魔力中毒から病気にかかり、死んでしまった例も少なくない。
よって、冒険者のように魔法に命を預けている者は基本的に魔法以外の戦闘方法も学ぶ。
俺は短刀、レイは長剣をいつも持っている。
といってもまだ本格的に訓練したわけではなく、互いに木剣でチャンバラをやった程度だが。
「なら、普段使いはこっちの方が便利かもな」
そう言ってレイが指を真すぐこちらに向けたので岩から離れてレイよりも後ろに回る。
『マギ・トリペ』
詠唱が終わるとレイの指先がほのかに光り、三発の虹色の弾が発射される。
岩にうがたれた穴は綺麗に正三角形の頂点に位置するような場所に存在している。
「ほう、三点射か?」
「いや、同時発射だ」
レイはそれだけ言うと、四連続でマギ・トリペを別々の岩に放つ。
「見ての通り、こいつなら連射も可能だしな」
確かに光弾に比べて詠唱が短く、消費魔力も一定で使い勝手が良いだろう。
問題があるとすれば……。
「問題は、三発がまとまりすぎてて当たったときのダメージは大きいが外れやすいって事かな?」
つまり、誤差の出やすい遠距離での使用は避けた方が良いという事だ。
どうやらレイも同じ事を考えていたらしい。
「じゃあ、次は狙撃系の魔法を探さないとなー」
大きくのびをしてふと気付いた。
「まてよ……さっきの魔法、シャインバレット!」
「ん?」
「俺が使った魔法、単発で使えば狙撃に使えないか?」
消費魔力を考えれば射程も威力もあるはずだ、充分に狙撃には使える。
「なるほど、じゃあそいつの射程や精度調べないとな……適当な練習場所を探さないとな」
「なるべく広くて、平らな場所があれば良いんだが……」
この辺りで該当するのは沢の辺りくらいだが、その付近は森が近くウルフ系のモンスターの水のみ場にもなっているため練習には向かない。
その他の場所と言えば、私有地くらいなものだろう。
「街道沿いならなだらかでモンスターも少ないんだけど、あぶねーよなー……」
レイがため息と共に言うと空を見上げる。
「実戦でちょくちょく試すか、もしくは貴族の私有地に忍び込むか……」
「捕まる捕まる」
考えの煮詰まり始めた相方を止めて、撤収準備を始める。
「とりあえず、森の中での戦闘では狙撃も役に立たないしその辺は後で考えるかー」
「森に入ってすぐの下級くらいならマギ・トリペだけでも問題は無いか」
お互いに追加で狙撃魔法を探すことと、試し撃ちの場所を探しておくことを約束すると孤児院に向けて歩き始めた。




