冒険者になるために
俺たちは6歳になった。
日々を勉強と孤児院の手伝いで費やしている。
勉強と言っても、言語学や数学、地理学が中心のため実際身になるのは地理学くらいのものだが。
手伝いは5歳から12歳までの子供が交代で行う。
よって、午後が休日になることがある。
休日には街の図書館に通う者や、孤児院内で遊ぶ者、13歳に向けて職を探す者に別れる。
そして何よりもやるべき事が、魔法学の勉強である。
この世界の魔法は発動キーさえ覚えてしまえば、誰でも一定の威力の魔法が使える。
逆に言えばどれだけ修練しても、威力が上がったりすることはない。
つまり、どれだけ多くの発動キーを使いこなせるかで術師としての価値が変わる。
よって、この世界では魔法の座学が盛んである。
しかし、孤児院で教えてくれるような発動キーは日常生活で使うものが中心のため、冒険者を目指すような子供は図書館などで覚えることになる。
そして、図書館には入館料というものが存在する。
「この歳で受けられる仕事、もっとあると思ったんだけどなー……」
豪邸の庭の草をむしりながらレイに話しかける。
「除草剤とか……無いんだろうなぁ……」
レイもこちらを振り返らずにぼやくが、お互い手は止めない。
「にしても広すぎだろ、ここの主は何者だよ……」
仕事内容は道の除草だが、その道が長かった。
門から館の入り口まで200mはある。
さらにその中間部分には噴水、そこから左右にも道は別れ、それぞれが小振りな建物に繋がっている。
「貴族らしいが、詳しくは知らん」
仕事を探してきたレイがため息混じりに教えてくれる。
「金って、あるところにはあるもんなんだなぁ……」
俺は二人で集めた軍資金の金額を考えぼやく。
今回の報酬は2500メイジ、図書館の入館料は一人100メイジのため二人で12回は利用出来る計算だ。
これまでに図書館に行った回数は計4回、レイは炎系統の魔法を中心に、俺は風系統の魔法を中心に調べ互いに教え合っている。
今回の報酬が入れば、当面は図書館に入り浸れる。
今の調子でいけば、低級の狩りなら問題なく行える程度には魔法を勉強出来るだろう。
「……これ、火で焼き尽くしたらダメだよなぁ……」
レイが辺りを見回してつぶやく。
「あっちの芝に燃え移ったら、賠償いくらだろうな?」
俺がため息交じりに返すとレイは、だよなとだけ返し、再び雑草を抜き始める。
「まぁ、仕事範囲は道だけだからとっとと終わらせて帰ろうぜ」
「……そうだな」
お互いその言葉を最後に黙々と草を抜く。
2時間ほどで入口から噴水周りまでを終わらせると、15分程度の休憩を取る。
「相棒」
一声かけてレイに水筒を渡す。
「あー、煙草が恋しい……」
前世でヘビースモーカーだったレイがぼそりとつぶやく。
「嗜好品を嗜む余裕が今の俺らにあるか?」
ため息交じりにそれだけ返すと、水筒を返してもらって二口飲む。
「こっちの世界ってパイプ以外の煙草ってあるのか?」
ふと疑問に感じてレイに問いかける。
「俺もパイプ以外見たこと無いけど、紙煙草は絶望的だよなぁ……」
諦めたかのようにそう言って空を仰ぐと、レイは軽くストレッチをする。
「再開するかー」
水筒をリュックにもどし左右の道に分かれて作業を再開する。
「ここからは左右に分かれよう、右は頼んだぞ」
「おっけー」
左右の建物に繋がる細い道を別れて除草することにし、一旦別れて作業を再開する。
左右の道は中央の道に比べて細く、思ったよりも早く作業が進む。
さほど時間もかからず除草をおえると、再び噴水まで戻る。
その途中で、声をかけられる。
「ふむ、もうここまで終わらせたか」
声の方を振り返ると、40代くらいの身なりのいい紳士が立っている。
「驚かせてすまない、私は、このファルケン家の……まぁ、使用人だ」
使用人と名乗った紳士はそのままこちらに近づいてくると、少し手前で歩みを止めこちらを見据える。
「ふむ、6歳の子供が来ると言われた時は頭を抱えたが、なかなかどうして、悪くない。少年、名はなんと申す?」
「ハルと申します」
俺はそう言って、左腕を腰に右拳を左胸にあてて礼をする。
「ほう、子供にしては礼儀をわきまえておる」
そう少し感心したように頷く彼に違和感を感じてカマをかけてみることにする。
「ところでファルケンさん、今何時か教えていただけますか?」
「む?」
彼は一瞬鋭い目つきになったが、諦めたようなため息をつき笑顔になる。
「時計か……なるほど、確かに普段から持ち歩かないな」
彼はそう言って、パンパンと二度手を叩いた。
すると、音もなく白髪の青年が現れると懐から懐中時計を取り出す。
「ただいま、13時42分でございます」
白髪の青年は、見た目20代の好青年でよく通る声の持ち主だった。
「さて、少年。君はいつから私のことを疑っていたのかね?」
ファルケンは腕を組むと優しい微笑みのまま尋ねてくる。
「最初におや、と思ったのは使用人だと名乗るときに一瞬の間があった時です。あなたがこの家の主だと確信したのは歩み寄ってきたときにかなり手前で止まったときです。あの距離は間合いをとるにしても離れすぎです。まるで、本来なら間にもう一人いるような、不自然な間合いでした」
素直に、包み隠さず自分が不自然だと思ったことを告げると、ファルケンはふむ、とうなずき今度こそ目の前まで歩み寄ってきた。
「気に入った、少年、我が家の使用人にならないかね?今すぐでなくともいい、そうだな、10になったらウチに来ないか?」
そういいながら肩に手を置きこちらの瞳をのぞき込んでくる。
「お申し出、大変うれしく思います。しかし、自分には共に冒険者になろうと誓い合った友がいます。申し訳ありませんが、そのお話はお受け出来ません」
俺の言葉に、ファルケンは目をつむってため息をつくとそうか、と言って手を離した。
「残念だが、しかたあるまい。だが、気が変わったらいつでも来なさい」
最後に待っておるぞ、とだけ付け加えると、青年を残してファルケンは去って行った。
「申し遅れました、私はアドラー。ファルケン様の執事をしております。」
青年はそう名乗り、こちらに一礼をする。
「今後もし、ギルドの依頼書に私の名前を見つけたら、率先して受けていただけると助かります」
「私達に出来る範囲なら、是非受けさせていただきます」
挨拶代わりにアドラーと握手をして別れると、抜いた雑草を集めている麻袋を背負い噴水まで引き返す。
おそらく先に戻ってきているであろう親友からのお小言を想像し、少しげんなりしながらも小走りで引き返した。




