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7/枯木の王と竜族の歴史

 街からの警鐘が聞こえたのは、次の目的地へ向かうためにティアリス女王へと挨拶に向かう途中のことだった。

 コノハとシルヴァリエルが玉座の間に駆けつけると、そこではティアリスがフローレットと共に数人の役人と話し合いをしているところだった。


「さっきの警鐘は?」


 コノハがティアリスに問うと、彼女はその美しく整った顔を苦々しく歪めた。


「おぬしたちには聞かれたくなかったんだがのう……」

「魔獣かなにかの襲来でしょうか?」


 シルヴァリエルの問いに、女王は大きくため息をついた。


「――飛竜(ワイバーン)だ」

「飛竜(ワイバーン)……?」


 ティアリスは片手を振って役人たちを下がらせると、言った。


「シルヴァリエル殿、貴殿は竜族の歴史をどれくらいご存知かな?」

「第一次人魔大戦後、竜族の中心が竜人族になり、現在までの繁栄の礎を築いたということぐらいしか……」

「それだけ知っておるのなら十分だ。第一次人魔大戦後、竜族の中心が竜人族となることに反発する勢力がおった。古竜族や竜族の中でも大型種などの、いわゆる保守派というやつだな。飛竜族もその一派でな」


 コノハはそのいきさつを知っていた。

 第一次人魔大戦後、生き残った竜族たちが直面したのは食糧問題だった。

 その頃の竜族は大型種が中心で、彼らはその巨大さ故に多くの食糧を必要とした。

 大戦での戦死者と同じくらいの餓死者を出した大型種の一部は、食糧難に適応するために自らを竜人族と同じ身体構造に変化させる術を身に付けた。

 だがそれが古竜種を中心とした保守派の逆鱗に触れた。

 誇り高き竜族が、自ら竜の身体を捨てるなど言語道断だとして、彼らは絶縁状を叩きつけた。そして――


「やつらは竜人族が主体となった竜族から離反し、ここドラグノートから北西にあるレクセン島に移住して保守派だけの集落を作った。そこまではよかったんだが、ここ数年である異変が起こった」

「それは一体……?」


 ティアリスは顔を歪め、忌々しそうに言った。


「――知(・)能(・)の(・)低(・)下(・)だ」


 それは、コノハも知らなかったことだった。


「近年になって、レクセン島では魔界語を解さないほど知能が低下した竜族が生まれるようになった。――シルヴァリエル殿、我々魔族と魔獣を隔てるものはなんだと思うかね」

「知性、でしょうか?」

「その通りだ。言語というものは我々の知性を支える強力な武器であり、道具だ。これがあればこそ、我々魔族はまったく姿形が異なる種族が相手でも、言語を介することで互いを理解し、尊重しあうことができる」


 ティアリスの視線がちらりとコノハに向かう。


「だが知能の低下した竜族が相手では、たとえ同族であっても意思の疎通を図ることは難しい。そして海の向こうで生まれた彼らはなにを考えたのか、我々の都市に『侵略』してきた」

「同族が同族を襲うのですか……!?」

「残念ながら、その通りだ。恐らく、レクセン島では食糧が不足しているんだろう。彼らは命がけで海を渡り、自らの食欲を満たすために暴れ回るようになった。これには竜族の議会も頭を抱えた。なにせ相手は同族だ、殺害したら罪に問われる可能性がある」

「そんな……!」

「だが対策をせねばドラグノートが血の海だ。議会は悩んだ末に、『特異指定魔獣種討伐法』という法案を成立させた。『レクセン島から攻めてくるのは竜族じゃなく魔獣』と定義して討伐できるようにしたんだ。だが見た目は同じ竜種だ。誰も好き好んで同族殺しなんてやりたがらない」

「――それで傭兵か」


 コノハはドラグノートに到着した日に酒場で会った女鬼人(オーガ)の姿を思い出した。


「左様。その様子だともう見かけたようだな。身内の恥を晒すようで外聞が悪いが、民衆の命には代えられぬ」


 ティアリスはため息をつくと、自嘲するように言った。


「やつらは『誇り高き竜族』を守るために、自らの道を歩んだはずなのにな……。皮肉なものさ」


 戦後の竜人族を中心とした竜族は、他種族と交流することで食糧難を克服した。

 その一方で、竜種としての誇りを守ろうとした彼らは衰退の道を歩んでしまった。

 どちらかが間違っていたという話ではない。

 振られたダイスの目が悪かった、というだけのことだ。


「――行くか」


 コノハは隣に立つシルヴァリエルへ声をかける。


「我が王の望みとあらば」


 彼女は微笑んで言った。


「……お人好しも大概にせんといつか身を滅ぼすぞ?」


 ティアリスは玉座の肘掛けに身体を預け、あきれたように言った。


「まあ、一宿一飯の恩義もあるしな。たいしたことじゃないさ」


 コノハがまだティアリスの噛み痕が残る肩を撫でてみせると、彼女は口元をへの字に曲げて責めるような視線を向けた。


「よし、ちょっくら竜退治して旅の資金集めといきますか」


 そうしてコノハとシルヴァリエルは、レクセン島からの竜種が飛来してくるという海辺の草原へと向かった。

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