6/コノハとティアリス
さも当然のような顔をして部屋へと入り、さあ時間だとばかりにベッドへと潜り込む。
彼女の手が下半身に届いたところで、コノハは布団をめくって声をかけた。
「――なにしてんの?」
「おかしなことを聞く。見ての通り、夜這いだが?」
そこにいたのは竜族の女王、ティアリス・ヴァナディースその人だった。
「『夜這いだが?』、じゃないのよ。なんで夜這いをしてんのかって聞いてんの」
「……そこにちんぽがあるから?」
「登山家かおまえは」
くそう、この世界で伝わりにくいツッコミをしてしまった。
「なんだ、子持ちの未亡人ではお気に召さんか?」
「というか友達の奥さんの時点でかなりハードルが高いんですけど?」
「逆に燃えるだろう」
「それは――あるかもね」
いや、なにを言わせるんだ。
俺は性癖的にはノーマルなのだ。たぶん
「別に俺じゃなくても、女王なら男なんてよりどりみどりでしょうよ」
ティアリスはもぞもぞと布団の中から這い出し、コノハの隣に寝転ぶと言った。
「女王という肩書きを持ってる手前、男娼を城に呼ぶこともできん。かと言って使用人に手を出して変な噂を立てられても困る。おぬしは私の息苦しさをわかっとらんのだ」
「いやそりゃわかんねえけどさあ……」
「なんもかんも私が美しすぎるのが悪い。高嶺の花すぎて言い寄ってくる男もおらん」
「そういうの自分で言う? まあ冥竜王の妻に手ぇ出す奴がいたら相当根性あるなと思うけどさ」
「というわけで~?」
「なんのフリだよ。ノるわけないだろ」
ティアリスは布団を剥ぎ取ると、寝転ぶコノハの上に馬乗りになった。
「――なあ、コノハは私が相手じゃ嫌か?」
金色に輝く瞳が、コノハをじっと見つめる。
その真っ直ぐな視線に耐えられず、コノハは目を逸らした。
「俺は……ティアリスに見合うような男じゃないよ」
それは、偽らざるコノハの本音だった。
ティアリスは不愉快そうに顔面を歪めると、言った。
「婿を亡くしたばかりの女王をほったらかして、姿を消した男がいたらしいな?」
「うっ……」
「冥竜王が逝去し、混乱の最中に落ちた竜族をまとめる女王に手を貸さず、おぬしは魔界の辺境で土いじりをしていたらしいな?」
「うぅっ……」
全てが紛れもない事実なので言い返せず、コノハはただうなることしかできなかった。
そんなコノハの胸に、ティアリスはそっと自らの頭を預けた。
「傍にいてほしかったときに姿を消して、三百年もほったらかしにしたくせに、今になって現れおって……」
「……ごめん」
「もう勝手に消えることは許さんぞ。私を――独りにするな」
目の前には潤んだ瞳でコノハをにらむ、ティアリスの顔があった。
「……うん。ごめんな、ティアリス」
「許さんわ、バカたれ」
ティアリスの薄く柔らかな唇が、重なる。
三百年の孤独など、どうあがいても埋めようがない。
だけど、この一瞬に意味がないなんて、思いたくない。
コノハはそんなことを考えながら、ティアリスをそっと抱きしめた。
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