14/枯木の王と新たな仲間
ボンデイルの冒険者ギルドから派遣されてきた素材の回収部隊は、豚鬼族の鑑定官の言葉通り翌日の朝に到着した。
様々な魔族から編成された回収部隊にはやはり豚鬼族が多く、彼らにまだ食べ切れていない魔猪の肉がミノタウロス族の村にあることを告げると、回収部隊の士気は大いに上がった。
前日の宴でアースラが調子に乗って飲み過ぎた結果、二日酔いで潰れてしまったこともあり、コノハたちは村からの出発を遅らせて、魔猪の回収を最後まで見届けてから村を発つことに決めた。
ちなみにシルヴァリエルはと言えば、あの後ミノタウロス族の女傑たちとの飲み比べ勝負に全て勝利して泥酔者の山を高く積み上げ、彼女自身は翌朝には平然とした顔で起床した。怖い。
超巨大魔猪からの素材回収は二日目の夕方には終わり、豚鬼族の鑑定官は回収作業終了の知らせと、素材買取の見積書を持ってコノハの元を訪れた。
「――うん、この見積書通りでお願いします」
「ありがとうございます。それではこちらが買取金額のヴァース金貨三十枚でございます。ご確認いただけましたらこちらの書類へサインをお願いします」
コノハは革袋に詰められた金貨の枚数を確認すると、ギルドの書類にサインをした。
「結構でございます。いやあ、久しぶりに心が躍る数日を過ごさせていただきました」
豚鬼族の鑑定官は書類をまとめながらしみじみと言った。
「魔猪肉のお味には満足していただけましたか?」
「ええ、もちろん! 冒険者連中からの評判も上々でしたよ。また希少な魔獣を討伐した際はぜひ当ギルドへご連絡を。どこのギルドよりも高く買い取らせていただきますよ」
「ありがとうございます。その際はよろしくお願いします」
鑑定官はコノハと固く握手を交わすと、素材を満載した最後の馬車に乗ってボンデイルへと帰って行った。
◆
「――それでこれが素材買取で得た報酬なんですけど、この村で受け取っていただけないでしょうか?」
コノハはミノタウロス族の村長の家を訪れると、そう言った。
「そんな! 魔猪を退治していただいた上にこんな大金などとても……!」
「でも今まで魔猪の被害を受けてきたわけでしょう? 村としても相当な額の損害があったはずです。それの補填と考えれば妥当な金額かと思うのですが」
「それは……」
村長を務めるミノタウロスの老婆は口ごもった。
自らの良心と現実との間で葛藤があるのだろう。
「ばあちゃんが断るんならあたしらで山分けしようぜ」
「お黙りなさい、強欲鬼。我が王のご采配は絶対です。要らぬ口を出さぬように」
「でも、本当にいいのかい? 金貨三十枚なんてうちの村の稼ぎの何年ぶんかわからんよぉ?」
コリーダの言葉がきっかけになって、コノハの頭の中にある案が思い浮かんだ。
「――村長、それならこうしましょう。村長が所有している、村はずれの休耕地がありますよね? そこを俺が金貨三十枚で買い取ります」
老婆は顔を上げると怪訝な表情でコノハを見つめた。
「俺は買い取った村はずれの畑を、この村に預けます。村長さんは村人たちに協力を募って、その畑を耕し、作物を育ててください。そしてその畑で育てた作物を収穫したら、それを俺の元に送るんです」
「――なるほど。我が王の領地をこの村に作り、税として作物を納めさせるわけですね」
「まあ、概ねそんな感じかな。作るのは……コロ芋にしましょう。俺はこの世界の野菜の中で、コロ芋が一番好きなんです」
村長は顎に手を当てて考え始めた。
「それなら……いや、しかし……」
「ふむ――それでは、コリーダが所有する畑も加えて買い取りましょう」
「ええええ!? なしてわたしの畑もぉ!?」
「彼女には俺の領地に住む人々に、農業の指導をしてもらいたいのです。コリーダがその仕事でこの村を離れる間、彼女の畑も俺の畑と同じように耕して、そこで収穫された作物は俺の元に送っていただきます」
コリーダと一緒に畑を耕すふたりのダークエルフの姿を想像して、少しだけコノハの頬が緩む。
ふたりは変わらず元気でやっているだろうか。
「わ、わたしはそれ初耳だよぉ!?」
「悪い、今初めて言った」
「んもぉ~!」
「金貨はコリーダさんという労働力を引き抜く補償金でもある、ということでらっしゃいますね」
「シルヴァリエルはいつも理解が早くて助かるよ」
「我が王の臣下でございますので」
「――わかり、ました」
村長は重い口を開いた。
「コノハ殿のご提案をお受けいたします。この金貨はありがたく受け取り、魔猪の被害を受けた農家への支援に回すことをお約束します」
「ありがとうございます、村長」
「お礼を言わねばならぬのはこちらの方でございます。どうかコリーダをよろしくお願いします」
ミノタウロス族の巨体を折り曲げて深々と頭を下げる村長とコノハは、固い握手を交わした。
そのふたりの様子を呆気にとられた表情で見守るコリーダに、アースラとシルヴァリエルが声をかけた。
「よう、これからよろしくな」
「コリーダさんとなら上手くやっていけそうで嬉しいです。これからよろしくお願いしますね」
「おい、『コリーダとなら』ってどういう意味だ」
「そのままの意味ですが?」
「くそ性悪女」
「まあお下品。コリーダさんは真似しないでくださいね」
「コリーダもこいつみたいに性格ねじくれないようにな」
そう言って部屋を出て行くふたりを呆然と見送ったコリーダに、今度はコノハが声をかけた。
「コリーダ、いきなりでごめんな」
「コノハ……」
「交渉のだしに使って悪かった。だけど君に一緒に来てほしいのも本音だ」
「……うん」
「コリーダ、君の力が必要だ。俺と一緒に来てほしい」
「んもぉ……」
コリーダは照れくさそうに自らの尻尾の先を指先でいじりながら言った。
「わたしから『一緒に連れてって』って言おうと思ったのにぃ……」
「そりゃ悪かった。でも気持ちは一緒だったってことさ」
「……コノハの花壇、絶対見せてね?」
「もちろん、約束するよ」
そう言ってふたりは約束を交わし、並んで歩き出した。
最後までお読みいただきありがとうございます。
本作を「おもしろい」「続きが読みたい」と感じていただけましたら、ページ最下部のよりブックマークや【☆☆☆☆☆】での評価をお願いします。
星一つや星三つといった率直な評価も大歓迎です。
みなさまからのご評価が今後の執筆の励みになります。
お手数かとは思いますが何卒よろしくお願いいたします。




