第17話:それでも、見て見ぬふりはしない
第17話です。
提示された条件。
それは、“自分の手で誰かを落とすこと”。
逃げるか、従うか。
それとも――。
主人公が、一つの答えを出します。
「……時間です」
教育係の声。
短い。
それだけで、分かる。
「……ああ」
ゆっくりと立ち上がる。
決めた。
迷いは、もうない。
「行きますか」
「行く」
歩き出す。
向かう先は――
あいつのところだ。
扉の前で止まる。
一瞬だけ、深く息を吸う。
そして――
開ける。
「……来ましたか」
あいつがいる。
静かに座っている。
あの時と同じ目。
だが――
少しだけ、変わっている。
「……話がある」
前に立つ。
距離は、近い。
逃げ場はない。
「分かってます」
あいつは、すでに理解していた。
「社長のやつでしょ」
やっぱりな。
全部見えてる。
「……ああ」
隠さない。
意味がない。
「で」
あいつが聞く。
「どうするんですか」
核心。
その問いに――
俺は迷わず答えた。
「落とさない」
空気が止まる。
一瞬。
だが、確実に。
「……は?」
あいつの目が揺れる。
初めての反応。
「やらない」
はっきり言う。
「お前を落とす気はない」
静かに、だが強く。
「……それ、どうなるか分かってます?」
当然の質問。
俺はうなずく。
「終わりだろ」
シンプルだ。
この世界はそういう場所だ。
「だったら」
あいつが立ち上がる。
「なんで」
その目は、理解できないという顔。
当然だ。
普通なら、やる。
やらなきゃ負ける。
「理由は一つ」
俺は答える。
「見て見ぬふりはしない」
それだけだ。
それが、全部だ。
「……」
沈黙。
あいつはしばらく俺を見て――
小さく笑った。
「……バカですね」
呆れたように言う。
「分かってる」
否定しない。
「でも、それでいい」
自分で選んだ。
それだけだ。
「……」
あいつは目を伏せる。
何かを考えている。
そして――
「じゃあ」
顔を上げる。
「俺がやります」
その一言で、思考が止まる。
「……は?」
理解が追いつかない。
「俺が落ちます」
はっきりと言う。
「それでいいでしょ」
軽く言う。
だが――
その裏は重い。
「ふざけんな」
思わず声が出る。
「それじゃ意味ねぇだろ」
「意味ありますよ」
即答だった。
「あなたは落とさない」
一歩近づいてくる。
「でも、結果は出る」
その言葉に、気づく。
「……お前」
「これが一番、楽ですよ」
笑う。
だが、その笑いは優しくない。
むしろ――
覚悟の顔だ。
「俺、もともと壊れる側なんで」
あの言葉。
思い出す。
「だから」
続ける。
「最後くらい、自分で決めたい」
その一言が、刺さる。
「……」
何も言えない。
止めるべきか。
でも――
それは違う気がする。
こいつは、自分で選んでる。
「……いいのか」
絞り出すように聞く。
あいつはうなずいた。
「はい」
迷いはない。
「あなたに選ばれて」
一瞬だけ、表情が柔らぐ。
「悪くなかったです」
その言葉に、胸が締め付けられる。
「……」
言葉が出ない。
「じゃあ」
あいつは振り返る。
「行ってきます」
それだけ言って――
歩き出す。
止められない。
止める資格もない。
扉が閉まる。
静かに。
「……」
一人残る。
何もない空間。
ただ――
重いだけ。
「……これでいいのかよ」
誰に向けたか分からない言葉。
答えはない。
でも――
一つだけ分かる。
俺は、選ばなかった。
逃げたのか。
貫いたのか。
それは、まだ分からない。
「……どうでしたか」
教育係の声。
いつの間にか、後ろにいた。
俺は振り返らずに答える。
「クソだな」
いつもの言葉。
だが、今回は少し違う。
女性は静かに言う。
「結果は出ます」
冷たい現実。
「……ああ」
分かってる。
全部。
でも――
「それでも」
小さく呟く。
「見て見ぬふりはしない」
それだけは、変わらない。
女性は、その言葉を聞いて――
ほんの少しだけ、目を閉じた。
「……そうですか」
静かな返事。
それで、終わり。
だが――
何かが、確実に変わった。
この世界で。
そして、俺の中で。
第2章は――
ここで一つの区切りを迎える。
読んでいただきありがとうございます。
第17話にて、第2章は一つの区切りを迎えました。
提示された残酷な条件に対し、
主人公は“従わない”という選択をしました。
しかしその結果が何を生むのかは、まだ分かりません。
この選択が正しかったのか、
それとも――。
物語は次章で、さらに深く核心へと進みます。
引き続きよろしくお願いします。




