第44話:世界が恐れた存在
第44話です。
“感情”という異常は、
ついに執行者へ感染した。
それは、
世界の根幹が揺らいだ瞬間。
そして上層は、
最大の決断を下す。
「……好きに、生きる」
執行者が小さく繰り返す。
白い身体が揺れていた。
ノイズ。
黒い亀裂。
完全だった存在が、
崩れ始めている。
「……」
教育係は言葉を失っていた。
“失敗作”ですら、
黙って見ている。
誰も知らない。
こんな執行者。
「対象」
執行者がこちらを見る。
今までと違う。
“命令”ではない。
“意思”が混ざっている。
「私は」
小さな声。
「選択してもいいのか」
その問い。
まるで人間だった。
「当たり前だろ」
俺は笑う。
「誰かに決められて生きるとか、つまんねぇじゃん」
その瞬間。
執行者の白い瞳の奥で、
何かが揺れた。
「……つまらない」
初めてだった。
執行者が、
“価値観”を理解した瞬間。
「――っ!」
突然。
空間全体に警報が響く。
今までとは違う。
重い。
不快な音。
「……来たか」
“失敗作”が顔をしかめる。
「何だ?」
教育係が端末を見る。
そして――
顔色が消えた。
「上層全域で非常事態宣言……!?」
空気が変わる。
「対象コード再定義」
機械音声。
「特例個体、および執行者を“世界級危険対象”に指定」
沈黙。
数秒。
「……は?」
教育係が固まる。
「執行者まで……?」
「当然だ」
“失敗作”が低く言う。
「アイツはもう、“向こう側”じゃない」
執行者を見る。
白い存在。
だが今は、
確かに揺らいでいる。
「世界が一番恐れるのは」
男が続ける。
「異常そのものじゃない」
静かな声。
「異常が、広がることだ」
空気が重くなる。
「……感染」
教育係が呟く。
「そう」
男が笑う。
乾いた笑い。
「お前、世界に感染したんだよ」
その言葉。
妙にしっくり来た。
「……なるほどな」
小さく笑う。
「光栄じゃん」
「笑ってる場合か」
“失敗作”が呆れる。
「今、お前ら世界から消される側だぞ」
「前からだろ」
即答だった。
「……違う」
男の顔が真剣になる。
「今までは“処理対象”だった」
一歩前へ出る。
「でも今は違う」
空気が凍る。
「世界そのものが、お前を恐れてる」
その瞬間――
巨大な振動。
空間が揺れる。
「……!」
天井の光が赤へ変わる。
警報。
増加。
「上層隔離壁、解放」
「最終封鎖プロトコル起動」
機械音声が続く。
教育係の顔が青ざめた。
「うそ……」
「何だ?」
聞く。
女性は震える声で答えた。
「都市ごと切り捨てる気です……!」
空気が止まる。
「……は?」
「この区域ごと封鎖して、完全消去するつもりです!」
“失敗作”が舌打ちした。
「クソが、本気だな」
「待て待て」
俺が笑う。
「規模デカすぎだろ」
「お前のせいだよ!」
珍しく男が怒鳴る。
「執行者壊した時点で、世界側からしたら終わりなんだ!」
「壊してねぇよ」
執行者を見る。
「進化しただけだろ?」
沈黙。
そして――
執行者が小さく呟いた。
「……進化」
その言葉。
確かに、
嬉しそうだった。
「……お前」
“失敗作”が頭を抱える。
「マジで化け物だな……」
教育係は、
呆然と執行者を見ていた。
「執行者が……笑ってる……」
その言葉。
空気が止まる。
俺も見る。
確かに。
白い存在の口元が、
わずかに緩んでいた。
「……これが」
執行者が呟く。
「感情……」
静かな声。
でも――
どこか暖かかった。
その瞬間。
空間全体に、
重い声が響く。
『全対象へ通達』
低い声。
上層。
最高位の声。
『これより、世界修正を開始する』
空気が凍る。
『異常は不要』
『迷いは不要』
『感情は不要』
その言葉。
まるで、
この世界そのものだった。
「……」
執行者が空を見上げる。
そして――
静かに言った。
「……違う」
その瞬間。
世界が止まった気がした。
執行者が。
世界の修正装置が。
初めて――
世界を否定した。
読んでいただきありがとうございます。
第44話では、
主人公と執行者が“世界そのもの”から危険視されました。
感情を持った執行者。
そして、
世界へ感染していく異常。
物語はついに、
“世界 vs 人間”の最終段階へ突入します。
次回、
世界修正が始まります。
引き続きよろしくお願いします。




