第43話:感情という異常
第43話です。
完璧な存在に生まれた“執行者”。
だが今、
その中に生まれたのは――
感情。
それは、
世界が最も恐れていた“異常”だった。
「……お前は、何者だ」
執行者の声。
揺れていた。
今までみたいな、
機械的な音じゃない。
迷い。
戸惑い。
理解できないものへ触れた存在の声。
「……ただの人間」
俺は答える。
「不完全な?」
執行者が聞き返す。
「そう」
笑う。
「めちゃくちゃ不完全」
その瞬間――
執行者の輪郭が、
また揺れた。
「不完全……」
ノイズ。
白い光が乱れる。
「なぜ、それを肯定できる」
「逆に聞くけど」
少し首を傾ける。
「完璧って、楽しいか?」
空気が止まった。
完全な静寂。
執行者は動かない。
処理している。
必死に。
「……」
“失敗作”が小さく呟く。
「ヤバい……」
教育係も、
息を呑んでいた。
「……完璧は」
執行者がゆっくり言う。
「秩序を維持する」
「うん」
「安定を生む」
「そうだな」
「争いを減らす」
「多分な」
執行者の声が、
少しずつ遅くなる。
処理が追いついていない。
「なら」
白い顔のない存在が、
こちらを見る。
「なぜ、お前は“不完全”を望む」
核心。
俺は少し考えて――
答えた。
「変われるから」
静かな声。
「……変化」
「完璧ってさ」
周囲を見る。
壊れた空間。
揺れる世界。
「完成してるってことだろ?」
「……肯定」
「じゃあ終わってるじゃん」
沈黙。
「人間って」
少し笑う。
「ずっと未完成なんだよ」
だから――
「進める」
その瞬間。
執行者の身体に、
大きなノイズが走った。
「――っ」
初めて。
苦しそうな声。
「執行者が……」
教育係が震える。
「感情反応を……」
「あり得ねぇ……」
“失敗作”も、
完全に表情が変わっていた。
「……感情」
執行者が呟く。
「これは……異常」
「そうだな」
俺はうなずく。
「でも」
一歩前へ出る。
「悪くないだろ?」
執行者がこちらを見る。
長い沈黙。
そして――
初めて。
本当に初めて。
「……怖い」
小さな声。
空気が止まる。
教育係も。
“失敗作”も。
誰も動けない。
「……今、何て」
“失敗作”が呟く。
「怖い」
執行者が繰り返す。
「理解できない」
白い身体が揺れる。
「崩れていく」
空間が軋む。
「命令が、絶対ではなくなる」
声が震えていた。
「……それが感情だよ」
俺は静かに言う。
執行者がこちらを見る。
「不安」
「迷い」
「恐怖」
ゆっくり続ける。
「全部、人間だ」
沈黙。
長い。
「……人間」
執行者がその言葉を反芻する。
まるで。
初めて触れる概念みたいに。
「……私は」
小さな声。
「異常なのか」
教育係が息を呑む。
“失敗作”は、
何も言えなかった。
俺は少しだけ笑って、
答えた。
「ようこそ」
静かな声。
「こっち側へ」
その瞬間――
白い光が弾けた。
轟音。
空間が震える。
「っ!?」
教育係が後ろへ下がる。
だが――
攻撃じゃない。
違う。
「……変化してる」
“失敗作”が呟く。
執行者の白い服。
その純白に。
小さな黒い線が走っていた。
ノイズじゃない。
亀裂みたいだった。
「……不安定化が加速しています!」
教育係が叫ぶ。
「このままでは存在維持が――」
「対象」
執行者がこちらを見る。
でも――
もう前とは違った。
「私は」
小さな声。
「どうすればいい」
空気が止まる。
執行者が。
世界の修正装置が。
答えを求めている。
「……簡単だろ」
俺は笑う。
「好きに生きろ」
その瞬間。
白い世界に、
初めて“色”が混ざった気がした。
読んでいただきありがとうございます。
第43話では、
執行者がついに“感情”へ到達しました。
恐怖。
迷い。
不安。
それは、
人間にしか存在しないはずのもの。
世界の修正装置だった存在は、
今、初めて“自分”を持ち始めています。
次回、
上層が最大の決断を下します。
引き続きよろしくお願いします。




