第27話:静かな異常
第27話です。
小さなズレは、やがて違和感になる。
完璧に見えたシステムに、
ほんのわずかな“異常”が発生し始める。
「……報告です」
静かな空間。
その中に、わずかな緊張が混じる。
「何だ」
低い声。
上層の一人。
「数値に、微細なズレが発生しています」
「……ズレ?」
眉が動く。
「どのレベルだ」
「誤差範囲内です」
一瞬、空気が緩む。
だが――
「ですが」
その一言で、また張り詰める。
「継続しています」
「……継続?」
「はい」
データを表示する。
グラフ。
ほんのわずかに、ズレている。
だが――
「……これは」
一人が目を細める。
「ランダムではない」
気づいたな。
「意図的か?」
「可能性があります」
空気が変わる。
完全に。
「誰だ」
その一言。
重い。
「現在、特定中です」
「急げ」
即答。
「こういうズレが一番危険だ」
分かってる。
この連中は。
「……」
その会話を――
俺は離れた場所で聞いていた。
モニター越しに。
「……早ぇな」
小さく呟く。
もう気づいたか。
「当然です」
後ろから声。
教育係。
「このレベルのズレは、見逃しません」
だろうな。
「でも」
画面を見る。
グラフ。
「止まってない」
むしろ――
「広がってる」
小さく笑う。
「……はい」
女性も認める。
「修正されても、別の場所で発生しています」
それが狙いだ。
「一箇所じゃない」
分散させてる。
「……」
女性は少しだけ黙って――
言った。
「あなたですね」
確信。
疑問じゃない。
「どう思う」
逆に聞く。
女性は、まっすぐこちらを見る。
「証拠はありません」
冷静だ。
「ですが」
続ける。
「状況証拠は十分です」
さすがだな。
「……で?」
一歩踏み込む。
「報告するか?」
試す。
完全に。
女性は、ほんの一瞬だけ目を閉じて――
答えた。
「しません」
その一言。
空気が変わる。
「……理由は」
聞く。
興味がある。
「見たいからです」
シンプルだ。
「どこまで行くのか」
その目は、真剣だ。
「……いいね」
小さく笑う。
「気が合うな」
女性は何も言わない。
ただ――
少しだけ、視線を外した。
「……ただし」
すぐに戻る。
「限界はあります」
当然だ。
「崩壊すれば、止めます」
ラインを引いてる。
「……分かってる」
うなずく。
俺も壊したいわけじゃない。
「バランスだ」
それが重要だ。
「……」
再び画面を見る。
ズレ。
広がり。
修正。
またズレる。
その繰り返し。
「……綺麗だな」
思わず呟く。
完璧な歪み。
「異常です」
女性が即座に否定する。
「そうとも言う」
軽く笑う。
「でも」
続ける。
「これが、本来の形かもしれない」
効率だけじゃない。
揺らぎがある。
それが――
現実だ。
「……」
女性は答えない。
だが、その言葉は残っている。
「そろそろだな」
小さく呟く。
「何がですか」
「表に出る」
ズレが。
完全な異常として。
「……」
女性の表情が、わずかに変わる。
理解したな。
「……止めますか」
最後の確認。
俺は――
少しだけ考えて、
答えた。
「まだいい」
即答だった。
「もう少し見せてくれ」
この世界の、本当の姿を。
女性は静かにうなずいた。
「……分かりました」
その選択で――
すべてが決まる。
ズレは止まらない。
むしろ――
加速する。
静かに。
確実に。
そして――
もうすぐ、誰にも無視できなくなる。
読んでいただきありがとうございます。
第27話では、“違和感”がついに認識され始めました。
誤差だったはずのズレは、
意図的なものとして疑われ始めます。
しかし主人公は、それを止めません。
次回、そのズレは“問題”として表面化します。
引き続きよろしくお願いします。




